第39話 影の王と血の盟約
リクたちが辿り着いた廃墟の地下には、古の儀式の跡が残されていた。壁一面には血のような赤黒い紋様が描かれ、異形の文字が並んでいる。空気は重く、ただそこにいるだけで身をすくませるほどの圧迫感があった。
「……ここは、何の場所だ?」
リクが低く呟く。影狼が鼻をひくつかせ、ゴルムは低い唸り声を上げた。何かがこの空間に存在する。生き物ではない、だが確かに息づいているような邪悪な何かが。
「魔族の……儀式場?」
ライザが警戒しながら壁の紋様を指でなぞる。その指先に、ぞわりとした感触が走り、彼女は思わず手を引いた。
「ただの遺跡じゃない。ここ、まだ生きてる。」
その言葉の直後、周囲の空間が一瞬歪んだ。
「来る!」
リクが叫んだ瞬間、闇の中から何かが現れた。黒いローブを纏った存在。いや、人間の形をしてはいるが、その瞳には不気味な紫の光が宿り、皮膚には魔族特有の紋様が刻まれていた。
「やはりここへ導かれたか……」
その声は低く、響くように周囲に広がる。リクは短剣を抜き、影狼とゴルムも戦闘態勢を取った。しかし、相手は動じる様子もなく、ただ冷たい微笑を浮かべていた。
「お前たちが探している答え……それは、この地の影にある。リク・アークフェルド、お前の血に刻まれた宿命が、ついにこの門を開くのだ。」
「何の話だ?」
リクが警戒を解かずに尋ねると、魔族の男はゆっくりと右手を掲げた。すると、空間が裂けるように歪み、その中から黒き炎が滲み出る。
「『影の王』が目覚める時が来たのだ。お前は、その器となる運命だ。」
「影の王……?」
リクの心臓が嫌な高鳴りを見せる。無意識のうちに彼の影が波打ち、ゴルムと影狼が異変を感じ取るように距離を取った。
「貴様……何を知っている?」
ライザが短剣を構えるが、魔族の男は嘲るように笑う。
「お前たちはまだ知らぬ。この地に封印されたものが、何を意味するのか……。
だが、すぐに分かる。選択の時は、もう目の前に迫っているのだから。」
そして、次の瞬間。
魔族の男の足元から無数の黒き手が伸び、彼を引きずり込んだ。彼は何かを言いかけたが、その声は空間の闇に吸い込まれ、消え去った。
「……いなくなった?」
ライザが戸惑いながら言う。しかし、リクはまだ緊張を解かなかった。何かが、まだこの場に残っている。
「これは……終わりじゃない。むしろ、始まりだ。」
リクは己の影を見つめる。先ほどの魔族の言葉が、脳裏にこびりついて離れない。
「影の王……器……?」
その時、彼の影が淡く揺れ、静かに問いかけるように蠢いた。
――目覚める時が来た。
リクは無意識に拳を握りしめ、深く息を吸った。道はまだ続いている。彼が選ぶべき運命の先に、何が待つのか。
「行こう。」
リクは決意を固め、仲間たちと共に、さらに深く影の真実へと足を踏み入れた。




