第3話 世の中の闇
初めての討伐依頼を成功させたリクだったが、その帰路で早速、世の中の厳しさに直面することとなった。
森を抜け、村に戻る途中、彼は道端に止まった商隊の荷車を見つけた。商人と従者たちが、荷物を降ろして何かを確認している。
「何かあったんですか?」
リクが声をかけると、商人は眉をひそめた。
「影ウサギどころか、もっと凶暴な魔物に襲われたんだ。荷物も人手も失った。お前も気をつけるんだな。」
荷車の側には、血にまみれた布が無造作に積まれている。それが失った仲間を隠しているのだと気づいたリクは、言葉を失った。
「ここで人間も魔族も等しく犠牲になる。だが、力のない者はその犠牲の意味すら問われない。それがこの辺境の現実だ。」
商人の冷たい声に、リクは思わず目をそらした。
「……何も言えないならさっさと行け。俺たちにはまだ、次の交易先がある。」
商隊の荷車は音を立てて再び動き出し、リクの前を通り過ぎていった。その後ろ姿を見つめながら、彼の胸には、自分がまだ無力な存在であることを突きつけられるような感覚が広がった。
村に戻ったリクは、ギルドの支部で次の依頼を探していた。しかし、彼が掲示板を眺めていると、近くで何人かの冒険者たちが小声で話しているのが耳に入った。
「最近、分断地帯の方で魔族との取引が増えてるらしいな。」
「知ってるか? 一部のギルド員が魔族と密かに手を組んでるって噂だ。」
リクは耳を傾けた。ギルドが人間の安全を守る存在だと思っていた彼にとって、この話は衝撃的だった。
「取引が悪いとは言わねえが、魔族のために情報を流してるなんて話が本当なら、誰を信用すりゃいいのか分からねえよ。」
冒険者たちの声が次第に遠ざかる中、リクは心の中に疑念を抱き始めた。ギルドも、村も、全てが善意で成り立っているわけではない。この世界には、目に見えない闇が広がっている。
その日の夕方、リクは依頼の準備をするために村の市場を訪れた。市場は交易商人たちの声で賑わっていたが、その中で、目を引く一団がいた。
それは、魔族の商人だった。人間とは異なる赤い瞳と尖った耳を持つ彼らは、厳しい視線の中で荷物を下ろしていた。リクがその様子を見つめていると、突然、近くの村人が怒鳴り声を上げた。
「ここは人間の村だ! 魔族なんぞが何をしに来た!」
村人の声に応じて、周囲の人々が魔族を取り囲む。商人の一人が冷静に言葉を返した。
「我々はただの商人です。必要な品を届けに来ただけです。」
「うるせえ! 魔族なんか信用できるか!」
その瞬間、リクの胸にかすかな違和感が芽生えた。彼は交易による経済の恩恵を知っていたが、それがこうした偏見の中でどれほどの困難を伴うかを初めて目の当たりにした。
「これが、俺たちの世界の現実……」
リクは拳を握りしめ、その場を去った。彼の胸には、自分の無力さだけでなく、この世界の不条理さが深く刻み込まれていた。
その夜、リクは再び遺跡を訪れた。ゴルムが静かに彼のそばを歩く中、彼は深い静寂の中で自問した。
「俺は、このまま何もできないままなのか……」
遺跡の壁に手を当てながら、リクはこれまでに見た現実を思い返した。力のない者が無視される世界。利益のために動く者たちの裏切り。偏見に満ちた人々の言葉。
「違う。俺は、このまま終わりたくない。」
彼は拳を固めた。この世界で自分が変えられるものは少ないかもしれない。それでも、力を求めることはできる。
「ゴルム、次はもっと強い魔物を見つける。そして、俺たちだけの力を手に入れるんだ。」
ゴルムが低い唸り声を上げ、応えるように彼を見上げた。その目には、主への忠誠だけでなく、同じ目標を共有する仲間としての意志が宿っていた。
リクの旅は、今、少しずつ新たな方向へ動き出していた。




