第38話 闇に潜む影
ヴェラーノの地下迷宮は、ただの遺跡ではなかった。
リク、セイン、影狼、ゴルムの四人は、入り組んだ石造りの通路を進んでいた。壁には無数の古い碑文が刻まれており、時折、光る魔法の文字がぼんやりと輝いている。
「……この迷宮、普通じゃないな。」
リクが呟くと、セインが鼻で笑った。
「当たり前だろ。ここはただのダンジョンじゃない。魔族の遺跡でもあるんだ。」
「魔族の遺跡?」
リクの眉が動いた。
「そうだ。ここには、かつて人間と魔族が争った時代の痕跡が残っている。特にこの地下には、『災厄の獣』とやらを封じるために、魔族たちが作り上げた仕掛けが無数にある。」
「お前、その情報をどこで?」
「まあな、いろいろと裏で動いてたもんでな。」
リクはセインを一瞥しながらも、今は問い詰めるより前に進むことが優先だと判断した。
壁の向こうから、不吉な音が響いた。
——ガリ……ガリ……。
何かが石を引っ掻くような音。影狼が低く唸り、ゴルムが身構える。
「気をつけろ……何か来る。」
リクが短剣を握りしめた瞬間、影の中から漆黒の爪が飛び出した。
「チッ!」
リクは素早く飛び退き、影狼が敵の動きを封じるために前に出た。その正体は、異形の魔物——黒い霧を纏い、人の形をした影の兵士だった。
「影の眷属……か。」
セインが険しい顔をしながら、剣を抜いた。
「こいつらは普通の魔物じゃないぞ! 魔族の護衛兵みたいなもんだ!」
リクは影狼に指示を出し、ゴルムにも戦闘態勢を整えさせる。
「手早く片付ける!」
影狼が『影走り』で敵の背後を取り、鋭い牙を振るった。その瞬間、敵の体が煙のように崩れたが——
「ダメだ! こいつらは影そのものだ! 物理攻撃が効かねえ!」
セインの叫びが響いた。
「なら……」
リクは懐から魔法の短剣を取り出した。金ぴかから渡されたもので、魔力を宿した武器だ。
「これでどうだ!」
短剣を影の兵士に突き刺すと、影が爆ぜるように消え去った。
「……よし、魔法武器なら通用する。」
影狼とゴルムもそれぞれの能力を駆使して戦い、次第に敵を追い詰めていく。
やがて、最後の影が霧散した。
「……終わったか。」
リクが息を整えていると、セインが険しい顔をして呟いた。
「いや、終わっちゃいねえ。」
その言葉の意味を理解する前に、迷宮の奥から新たな影が現れた。
だが、それは先ほどの影の兵士とは明らかに違う雰囲気を纏っていた。
「……魔族、か?」
漆黒のローブをまとった長身の男が、静かに佇んでいた。金色の瞳がリクたちを見据える。
「人間が、ここに来るとはな。」
その声は低く、しかし響くような力を持っていた。
「お前は……?」
リクが問いかけると、男は微笑した。
「我が名はザルヴァ。封印の管理者の一人。」
「管理者……?」
「貴族たちが探している『古の遺産』は、我ら魔族にとっても重要な存在だ。貴様らのような者に手を出されては困る。」
リクは短剣を握りしめながら、彼の動きを注視した。
「なら、お前も俺たちの敵か?」
ザルヴァは微笑を深める。
「さて、それは貴様らの選択次第だ。」
不穏な空気が迷宮の中に漂う。
魔族の意図、貴族たちの陰謀、そして封印された災厄。




