第37話 闇の扉と魔族の影
リクたちはヴェラーノの地下迷宮へと続く隠された入口に向かっていた。セインの案内で街の外れにある、廃墟となった教会の地下室へと降りていく。空気は湿っており、古びた石壁には無数の傷跡が残っていた。
「ここが地下迷宮の入口だ。封印はすでに弱まってるが、誰かが先に潜っている可能性が高い。」
セインが低く囁く。リクは短剣を握りしめ、ゴルムと影狼に周囲の警戒を命じた。
「貴族派閥の連中か?」
「それだけじゃない。最近、この迷宮には『魔族』の影もちらついてる。」
「……魔族?」
リクの眉がぴくりと動いた。魔族は人間とは異なる存在で、通常は魔界に住むが、一部は人間の世界に介入し、戦争や混乱を引き起こすこともある。ヴェラーノで魔族が動いているとなれば、ただの貴族の陰謀では済まない。
「確かな情報か?」
「俺が直接見たわけじゃないが、地下から戻ってきた連中が怯えて話してた。『人じゃなかった』ってな。」
リクは沈黙し、ゆっくりと呼吸を整えた。
「魔族が本当にいるなら、相手はただの貴族派閥じゃない。もっと厄介な勢力が絡んでる可能性がある。」
「それを確かめるために潜るんだろ?」
セインがニヤリと笑う。
「ついてこい。」
彼は床の一部に埋もれた石板を動かし、そこに現れた鉄の扉を開けた。暗闇の向こうからは、静寂とは対照的な不気味な気配が漂ってくる。
「影狼、ゴルム、準備はいいか?」
影狼は低い唸り声を上げ、ゴルムも静かに身構えた。
「行くぞ。」
リクは短剣を抜き、闇の扉の向こうへと足を踏み入れた。
中に入ると、迷宮の空気は明らかに異質だった。空間が歪んでいるような錯覚を覚え、視界の端では影がゆらめいて見える。
「これは……ただの迷宮じゃないな。」
「この遺跡は元々、魔物を封印するために作られたものだ。だが、封印が長い時間を経て歪み、別の何かが入り込んでいる。」
セインの言葉に、リクはますます警戒を強めた。
数歩進んだところで、影狼が突然低く唸り声を上げた。次の瞬間、闇の中から細身の影が現れる。
「人間が……ここに足を踏み入れるとはな。」
その声は冷たい。姿を現したのは、長身の男だった。深紅の目に、漆黒のローブを纏い、皮膚はどこか人間離れした滑らかさを持っている。
「魔族……!」
リクは即座に短剣を構えた。
男は微笑しながら手を軽く振る。すると、周囲の影がまるで意思を持ったかのように動き出し、リクたちの進路を塞いだ。
「お前たちが何を求めてここに来たのかは知らんが……これ以上進むことは許されない。」
「封印を解こうとしているのはお前たちか?」
リクが問うと、男は笑みを深めた。
「それを知る必要はない。ただ、ここで死ぬがいい。」
次の瞬間、影が一斉に襲いかかってきた。
「避けろ!」
リクは影狼とゴルムに指示を出し、間一髪で回避する。しかし、影の一撃は石壁を深くえぐるほどの威力を持っていた。
「こいつ……只者じゃない!」
戦いの幕が切って落とされた。




