第36話 闇の罠と決断の時
リクは短剣を握りしめたまま、目の前の男を睨みつけた。セイン——かつてリクを裏切り、仲間を危険に晒した男。その顔は以前と変わらず冷酷な笑みを浮かべている。
「……どういうつもりだ、金ぴか。こいつを案内役にするなんて冗談が過ぎるぞ。」
リクの警戒心に反して、金ぴかは気楽な態度を崩さない。
「冗談? 俺は至って真面目だよ。こいつは地下についてかなり詳しいんだ。お前が探している『封印された魔物』の情報を持っている。どうする? 知らないまま飛び込んで死ぬか、こいつと手を組んで生き延びるか。」
「選択肢がそもそもクソだな。」
リクは歯を食いしばったが、冷静さを取り戻すために深く息を吸った。確かに、敵の内部情報を持つ者が案内役になるのは悪くない。だが、セインを信用できるとは到底思えない。
「お前がどんな情報を持っているか知らないが、信用するつもりはない。何か企んでいるなら、その首を刈るだけだ。」
「ははは、相変わらず怖いな。」
セインは肩をすくめながらも、目の奥には警戒心を滲ませていた。彼もまたリクを完全には信用していない。
「いいぜ、手を組むのは互いにとって都合がいいってだけだ。今の俺は、お前に協力しなけりゃ命がない状況だからな。」
リクは金ぴかに目を向けた。
「……どういうことだ?」
金ぴかは椅子に腰を下ろしながら、ワインを傾けた。
「簡単な話さ。セインは今、貴族派閥の連中に狙われてる。理由は、お前と同じものを追っていたからだ。」
「つまり、『封印された魔物』を?」
「ああ、そして貴族たちが本気でそれを解放しようとしていることもな。」
リクは目を細めた。情報の断片がつながり始める。
「なるほど……あいつらが交易路を荒らし、山賊を利用していたのも、その魔物の封印を解くための準備だったわけか。」
セインは淡々と続ける。
「俺はその動きを探っていた。だが、気づかれちまってな。逃げるしかなかったってわけだ。」
「で、お前はどこまで知っている?」
リクが問い詰めると、セインは少しの間沈黙した後、意を決したように口を開いた。
「地下には、ただの魔物じゃなく『災厄の獣』が封じられている。それを支配する鍵を、貴族派閥の一部が握ってる。だが、その鍵を使えば、魔物を操れるどころか、ヴェラーノ全体を壊滅させかねないんだ。」
「……やばいな。」
リクは唾を飲み込んだ。彼が探し求めていた『古の遺産』が、単なる強力な力ではなく、大規模な破壊をもたらす可能性を秘めているとすれば、事態はこれまで以上に深刻だ。
「それを阻止するために、地下へ行く必要があるってわけか。」
「その通りだ。」
金ぴかが最後に付け加えた。
「俺もお前たちの動きを見届けるつもりだが、俺自身は表立って動けない。お前たちだけでうまくやるんだな。」
リクは静かに頷いた。影狼とゴルムが傍にいる限り、どんな敵にも立ち向かえる。だが、セインと組むことのリスクを考えると、背後にもう一つの剣を向けられているような感覚が拭えなかった。
「……いいだろう。お前の知識は利用させてもらう。」
セインがニヤリと笑う。
「決まりだな。じゃあ、明日の夜、地下の入り口で待ってるぜ。」
リクは目を細め、短剣を握り直した。
「裏切れば、次は確実に殺す。」
「お互い様だよ。」
リクとセインの危険な協力関係が、ここに成立した。
ヴェラーノの地下に潜む災厄。封印を巡る陰謀。そして、それを阻止しようとする者たち。
闇の中で交錯する運命が、いよいよ動き出す。
次なる戦いの舞台は、ヴェラーノの地下迷宮——かつて災厄が生まれた場所だった。




