第35話 影の審判者と試される覚悟
リクは冷たい夜風に身を震わせながら、ヴェラーノの片隅にある隠れ家へと戻った。影狼は彼の隣で静かに歩き、ゴルムは後方から周囲を警戒している。闇に溶け込むように歩く彼らの姿は、誰にも気づかれず、ひっそりとした小道へと消えていった。
隠れ家の扉を開けると、中では金ぴかが椅子に腰掛け、上機嫌そうにワインを傾けていた。リクはその姿を見て、無意識に眉をひそめた。
「ご苦労だったな、リク。」
「……軽いな。お前、何か知ってたんじゃないか?」
金ぴかはニヤリと笑い、ワインを置くとリクに向き直った。
「知ってたというより……予感があったと言うべきかな。貴族の館に忍び込むのは、お前にとってもいい経験になっただろう?」
「ふざけるな。俺はただの手駒か?」
リクの声には怒りが混じっていた。彼は金ぴかに何度も利用されている感覚を拭えずにいた。しかし、金ぴかはそれを意に介さず、飄々とした態度を崩さない。
「まあまあ、そう怒るな。お前の働きのおかげで、有力な情報が手に入ったのは事実だ。」
「それは何だ?」
金ぴかはリクをじっと見つめた後、ため息混じりに呟いた。
「……『古の遺産』に関するものだ。あの貴族の館には、俺たちが探している“力”に関する秘密が隠されていた。」
リクはその言葉に思わず身を乗り出した。
「“力”? 詳しく話せ。」
金ぴかは慎重に言葉を選びながら、ゆっくりと語り始めた。
「どうやら、ヴェラーノの地下には『封印された魔物』がいるらしい。それが、古の遺産の鍵を握っているとされている。貴族たちは、その存在を隠しながらも、何らかの形で利用しようとしていたようだ。」
「封印された魔物……?」
リクは喉が渇くのを感じた。彼自身、魔物使いとして数多くの魔物を見てきたが、『封印された』という言葉が意味するものが、ただの魔物ではないことを本能的に察した。
「貴族たちがその封印を解こうとしているのか?」
「いや、彼らもそれを恐れている。だからこそ、館の奥深くに隠していたのさ。お前が見つけた書類がその証拠だ。」
リクは貴族の館で手に入れた書類を広げ、改めて目を通した。そこには、『封印の崩壊』『力の暴走』といった不穏な言葉が並んでいた。
「つまり、この遺産は、ただの財宝や武器じゃなく……制御不能な魔物そのものってことか?」
金ぴかは静かに頷いた。
「そういうことだ。俺たちは、これをどうするか考えなきゃならない。」
リクは拳を握りしめた。影狼とゴルムも、何かを察したように緊張を高めている。
「……俺はその魔物を見てみたい。」
「は?」
金ぴかは一瞬、間の抜けた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。
「やれやれ……お前、本当に無鉄砲なやつだな。でも、その気概は嫌いじゃない。」
リクは鋭い目で金ぴかを見据えた。
「本気だ。この街の地下で何が起きているのか、自分の目で確かめる。それが、俺が進むべき道を決めるための答えになる。」
金ぴかはしばらく考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。
「……分かった。だが、これは一人でやるには荷が重いぞ。」
リクはニヤリと笑った。
「俺には影狼とゴルムがいる。」
金ぴかは肩をすくめながら、微笑を浮かべた。
「いいだろう。じゃあ、お前にとって最高の案内役をつけてやる。」
「案内役?」
その瞬間、部屋の奥からゆっくりと姿を現したのは――
「よう、久しぶりだな。」
リクの目の前に立っていたのは、かつての宿敵、セインだった。
リクは反射的に短剣を握りしめた。
「……何でこいつがここにいる?」
金ぴかは楽しそうに微笑みながら答えた。
「さあな。だが、今は味方だと思ってくれ。お前が地下へ行くなら、こいつの知識と経験が必要になる。」
リクとセインが向き合う。
「……面白くなってきたな。」
影狼が静かに唸り、ゴルムは不安げにリクを見つめた。




