第32話 影に潜む狂気
ヴェラーノの街が静寂に包まれる深夜、リクはギルドの一室で一人、燭台の灯りを頼りに古びた書物をめくっていた。
「……古の遺産。やはり、交易路の混乱の背後には、これが絡んでいるか。」
金ぴか――ヴァルドが言っていた"古の遺産"。それを巡って、山賊や貴族が動いているという話には何か大きな陰謀の影がちらついていた。
影狼とゴルムは静かにリクの傍で待機している。彼らもまた、この異様な空気を察していた。
そんな中、ドアを叩く音が響く。
「リク、起きてるか?」
カイルだった。リクはゆっくりと扉を開けると、カイルの険しい表情に気づく。
「外で、奇妙な死体が見つかった。ちょっと来てくれ。」
不穏な気配が漂う。
――ヴェラーノ南部・路地裏
そこには、無惨に切り裂かれた死体が横たわっていた。まるで何かの実験台にされたかのように、その肉体は不自然に裂けており、内臓は抜き取られていた。
「……これは……獣の仕業か?」
「いや、それにしては奇妙すぎる。明らかに何か"探して"いたような傷だろ。」
リクは眉をひそめながら、死体の傷跡を詳しく調べる。普通の魔物の襲撃ではあり得ない精密さ。まるで、"ある一点"を狙って切り取られたかのようだ。
「……いや、違うな。これは、人為的なものだ。」
その瞬間、影狼が鋭く唸った。
「影狼?」
影狼は路地の奥をじっと睨んでいる。リクもそちらへ視線を向けるが、そこには何もない。
だが――次の瞬間、寒気が背筋を走った。
「……これは、見られている。」
リクの直感が警鐘を鳴らす。
「誰だ?」
呼びかけるが、返答はない。しかし、確かにそこには"何か"がいる。
影狼が飛び出そうとした瞬間――
「やめろ、影狼!」
リクが制止する。影狼は唸りながらも動きを止めたが、その警戒は解いていない。
“何か”がこちらを見ている。
しばらくの静寂の後、遠くから鈴の音が聞こえた。
「……誰かが、近くにいる。」
カイルが剣を握り直す。
「リク、俺たち……何かとんでもないものに関わっちまったんじゃないか?」
ヴェラーノの闇が深くなる――
そして、何かが目覚めようとしていた。




