第2話 新たな日常
リクが影ウサギのゴルムを従え始めて数日が過ぎた。彼の日常は少しずつ変わり始めていた。これまで誰からも軽視されていた彼が、使役魔物を持つようになったことで、村人たちの態度が微妙に変わり始めていた。
「リク、魔物を従えたって本当か? ちょっと見せてくれよ。」
村の子供たちが興味津々で彼の後をついてくる。リクは戸惑いながらも、彼らの求めに応じてゴルムに軽い命令を出した。
「ゴルム、あの石を取ってきてくれ。」
ゴルムは静かに動き出し、小さな影の塊となって地面を滑るように移動すると、指示された石を拾い上げてリクの足元に戻ってきた。
「すごい……本当に従ってる!」
子供たちが歓声を上げる。その反応を受けて、リクの中にはこれまで感じたことのない小さな満足感が芽生えていた。
しかし、それと同時に村の大人たちは警戒の色を濃くしていた。
「魔物を従えるなんて……あいつ、一体どこでそんなことを覚えたんだ?」
「使役魔物なんて危険なものを村に持ち込むなんて、大丈夫なのか?」
リクはそれらの言葉を耳にするたびに胸が痛んだ。だが同時に、ゴルムの存在が自分の変化の証であると信じていた。
ある日、リクは意を決して冒険者ギルドの支部に足を運んだ。これまでは、ギルドの扉を開けることすらためらっていた彼だったが、今はゴルムとともに自信を持ってその場に立っていた。
「リク・ハルトだな。何の用だ?」
受付にいた壮年の冒険者が彼を見下ろすように問いかけた。リクは少し緊張しながらも答えた。
「討伐依頼を受けたいと思っています。ゴルムも一緒に力を貸します。」
その言葉に、受付の冒険者は驚いた表情を浮かべた。
「使役魔物か……お前がそれを従えているのは村でも話題になっているが、本当に戦えるのか?」
「やってみせます。少なくとも、無力なままでいるよりはいい。」
リクの目に宿る決意を見て、受付の冒険者はしばらく彼を見つめていたが、やがて小さく笑った。
「いいだろう。簡単な依頼から始めてもらう。近くの森に影ウサギが増えている。討伐して来い。」
リクは深く頭を下げ、依頼を受け取った。
依頼を受けたリクはゴルムとともに森へと向かった。同じ影ウサギを倒すことになるのは皮肉だったが、彼はそれを弱点を学ぶ機会と捉えた。
「ゴルム、周囲を探れ。」
ゴルムはリクの命令に従い、影のように静かに森の中を移動した。リク自身もこれまで遺跡で鍛えた観察眼を駆使し、影ウサギの動きを追った。
「いた……!」
茂みの奥で動く小さな影を見つけたリクは、慎重に距離を詰めた。影ウサギがこちらに気づいた瞬間、ゴルムが先手を取って飛びかかった。
「やったか……!」
ゴルムの攻撃は見事に決まり、影ウサギは動きを止めた。リクはすぐに駆け寄り、その亡骸から漂う魔力を感じ取った。
「この魔力……やっぱり、契約に使える。」
リクはその場で新たな契約の術式を試し始めた。彼の中には、さらに強力な魔物を従えたいという欲求が芽生え始めていた。
森での討伐を終え、リクはギルドに戻って報酬を受け取った。報酬はわずかな金貨だったが、彼にとってはそれ以上の意味を持っていた。
「これで……俺も冒険者として認められるのか?」
受付の冒険者は彼を見て満足そうに頷いた。
「よくやった。次の依頼も用意してある。だが無理はするなよ。」
「ありがとうございます。」
リクは深く頭を下げた。その背中には、これまで感じたことのない充実感が漂っていた。
「これからも進む。もっと強く、もっと先へ。」
彼の旅はまだ始まったばかりだった。しかし、彼の胸の中には、初めて手にした力と自信が確かに存在していた。




