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第1話 遺跡での出会い

リクは緊張した面持ちでゆっくりと遺跡への道を進んでいくなか、茂みの中からかすかな物音が聞こえた。リクの胸は嫌な予感でざわついた。


「影ウサギか……?」


彼は足を止め、茂みをじっと見つめた。すると、赤い瞳が木々の間から浮かび上がった。その瞬間、影ウサギが音もなく飛び出してきた。


「くそっ!」


リクはとっさに古書を背中に隠し、足元に転がっていた枝を拾った。手の中で心許ない感触がするが、それでも逃げるだけでは何も変わらないと彼は悟った。


「もう……逃げるだけじゃ終わらせない!」


リクは震える足を踏み出し、影ウサギに向かって枝を振りかざした。


影ウサギは低く唸り、鋭い牙を剥き出しにして再び飛びかかってきた。リクは枝を横に振り払い、かろうじて攻撃をかわしたが、その衝撃で枝が折れてしまった。


「クソッ……!」


足元に落ちた石を再び拾い上げ、リクは影ウサギとの間合いを測った。心臓が激しく鼓動し、手は汗で滑りそうだったが、ここで逃げたら全てが無駄になる。


「ここで終わらせるんだ……!」


リクは全力で石を投げつけた。それは影ウサギの右肩に命中し、獣がバランスを崩して倒れ込む。その隙を見逃さず、リクは近くに落ちていた鋭利な岩を手に取り、渾身の力で影ウサギに突き立てた。


「これで終わりだ!」


影ウサギは一瞬もがいたが、やがて動きを止めた。その体から微かな黒い霧が立ち昇り、消えていく。


リクは膝をつき、荒い息を吐きながらその場に座り込んだ。目の前には自分の手で倒した影ウサギの亡骸が転がっている。


「……俺にも、できるんだ。」


その瞬間、背中の古書が微かに輝き始めた。リクはその光に気づき、そっと書物を取り出した。


「これが……契約の始まりなのか?」


古書の文字は不思議とくっきりと見え、特に「亡霊的な種族」に関する記述が自然に理解できた。それには、影ウサギのような魔物を特定の術式で従える方法が記されていた。この本にはいくつかの魔物との契約方法が記されており、影ウサギのような亡霊に近い種族は、この術式によって契約が可能だと説明されていた。また、殺さずに支配する方法も記載されていたが、リクは直感的に今の自分にはそれを行う技量がないことを理解していた。


「まずは……この方法で試すしかない。」


リクは影ウサギの亡骸に目を向けた。古書に従い、遺跡の床に慎重に魔法陣を描く。最後に自らの指先を傷つけ、血を垂らした。


「……これでいいはずだ。」


リクが呪文を唱えると、魔法陣が青白く光り、影ウサギの亡骸が霧となり小さな影の塊に変わった。それはリクの足元に収まり、小型のウサギの姿を取った。


「お前が……俺の魔物なのか?」


突然、体の力が抜けてしまった。緊張と疲労が急に来たと感じたリクは大きく深呼吸し、自分を落ち着かせた。そして目の前の影ウサギに名を与えた。


「……よし、お前は今日からゴルムだ。」


新たな力を手にしたリクの中に、小さな誇りが芽生えた。


この契約によってリクは魔物使いとしての能力を目覚めさせた。古書の内容が自然に頭に入るようになり、契約術や魔物の特性についての知識がまるで誰かに教えられたかのように理解できるようになった。


夜明け前、リクは遺跡を後にした。初めての魔物契約に成功し、その足取りはいつもより軽やかだった。しかし、村へ戻る道中、彼の心には新たな決意が芽生えていた。


「俺は変わる……もう雑用だけの人生にはしない。」


村の広場に戻ると、いつものように忙しそうに動き回る村人たちの姿が見えた。リクは一瞬ためらったが、拳を握りしめて鍛冶屋へ向かった。


「……親方、この荷物、届けてきました。」


「ああ? 何だ、まだそんな顔してんのか。さっさと次の仕事を――」


親方の言葉が途中で途切れた。リクの足元に控えている影ウサギ――ゴルムの姿に気づいたのだ。


「おい、それ……魔物か?!」


周囲の村人たちもざわつき始めた。リクは冷静を装いながら答えた。


「大丈夫です。こいつはもう俺の使役魔物です。」


驚きと疑念の目が彼に向けられる中、リクは静かに立ち去った。その背中には、これまでの無価値な少年とは違う自信が漂っていた。


「俺には……やれることがある。」


そう自分に言い聞かせながら、リクは新たな一歩を踏み出した。



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