第17話 新たな始動
拠点に戻ったリクは、一息つきながら目の前に広がる街の風景を見下ろしていた。ここから彼の新たな計画が始まる。
「俺の力だけじゃ足りない。金も情報も必要だ……。」
街の中で目立つのは、商人たちの活気と、その背後に潜む策謀の影。リクは交易の重要性を再確認し、まずは情報を集めることから始めることにした。
リクが目をつけたのは、ギルドの一角に設置された情報屋の小さな店だった。そこには常に様々な冒険者や商人が出入りしており、街で起きている出来事や近隣地域の状況が集まっていた。
「最近の交易路の動きが知りたい。」
リクは情報屋に銀貨を差し出す。しかしその手は微かに震えていた。小さな銀貨一枚が、リクにとってどれだけの価値を持つのか。迷いが頭をよぎる。
(これでまた金が尽きるかもしれない……でも、この情報がなければ先に進めない。)
内心で葛藤しながらも、リクは意を決して銀貨を差し出した。
「交易路の動きなら、西部の交易路に注目するといい。今は軍需品の流れが増えていて、関税を絡めた政治的な争いも起きているらしい。」
情報屋の男は低い声で続ける。
「ただし、そこには大きな勢力が絡んでいる。あまり深入りしない方が身のためだ。」
リクはその言葉に少しだけ笑みを浮かべた。
「深入りするかどうかは俺が決めることだ。」
情報屋はリクをじっと見つめたが、それ以上何も言わなかった。
情報屋とのやり取りを終えたリクは、交易路が通る地域の一つ、「分断地帯」についての話を思い返していた。この地帯はかつて、二つの巨大国家が覇権を争った戦場だった。数十年にわたる争いの末、いずれの国もこの地域を完全に掌握することができず、結果的に現在のような無秩序状態が続いている。
さらに、この地帯には「古の魔物」と呼ばれる強大な存在が眠っている。これらの魔物は特定の領域を支配し、その領域に足を踏み入れる者を容赦なく排除することで知られている。国家や魔族勢力ですら手出しを避けるほどの恐ろしい存在だ。
交易路の混乱: 各勢力が独自の通行税を課し、交易路が混乱している。商人たちは安全な道を見つけるのに苦労している。
山賊や傭兵団の跋扈: 無法地帯となっているため、山賊や傭兵団が商隊を襲撃する事件が頻発している。
資源の奪い合い: 鉱山や森林などの資源が豊富なため、小勢力間での争いが絶えない。
魔族国家の参戦: 最近では、ある魔族国家がこの地帯に勢力を伸ばし始めており、他の勢力との争いがさらに激化している。
古の魔物同士の争い: 古の魔物たちはそれぞれの縄張りを守るために互いに争うこともあり、その戦闘が地域全体を混乱に陥れることも珍しくない。
この地帯は冒険者や商人にとって「一攫千金」の可能性を秘めた場所であると同時に、命を落とす危険性も高い。
「分断地帯……ここを制する者が、交易全体を掌握することができる。」
リクはその地帯に足を踏み入れることを決意した。
分断地帯に近づいたリクは、独り言をぶつぶつとつぶやきながら道を歩いていた。彼の目は地面を見つめ、口からは小声で不満や計画が漏れていた。
「これが失敗したら、また振り出しだ……俺にはそんな余裕もないってのに……くそ。」
リクが夢中で独り言を繰り返していると、不意に何かにぶつかった。
「おっと!」
声を上げたのはリクではなく、黒いマントを羽織った人物だった。その人物は驚いた表情でリクを見下ろし、鋭い目が瞬時に警戒に変わった。
「いつからそこにいた!」
リクは相手の声に驚きつつ、何が起きたのかを理解するまで一瞬固まった。ようやく状況を飲み込み、謝るように口を開いた。
「いや、すまない。気づかなかった。」
「気づかなかった? ……いや、違う。俺が気づかなかったんだ。」
相手はまじまじとリクを見つめた。険しい顔のまま、何かを考え込んでいるようだったが、やがて表情を緩めた。
「珍しいな。こんなに近くまで来られて、全く気づかなかったなんて。まるで影のようだ。」
リクはその言葉に戸惑いながらも、何かを言い返そうとしたが、相手は先に口を開いた。
「お前、何者だ?」
「ただの……通りすがりの冒険者だよ。」
「通りすがり、ねえ。」
その人物はニヤリと笑いながら続けた。
「面白いな。お前、普通の冒険者じゃないだろう?」
「そんなことはない。ただ、黙って歩いていただけだ。」
リクは冷静を装ったが、相手の目は鋭く彼を観察していた。そして、やがて肩をすくめた。
「まあいいさ。お前みたいな奴、そうそういない。何か困ったらここに来い。」
そう言って、相手は小さな紙切れをリクに手渡した。そこには簡単な地図と、一つの場所が示されていた。
「これは?」
「俺の居場所だ。別に信じなくてもいい。ただ、お前がどう動くのか、興味が湧いただけだ。」
リクは紙を見つめた後、ポケットにしまい込んだ。
「覚えておくよ。だが、頼るとは限らない。」
相手は笑みを浮かべ、軽く手を振るとその場を去っていった。リクはしばらくその背中を見送り、胸の中で疑問と好奇心が入り混じるのを感じた。
「利用されるか、利用するか……。」
分断地帯には古の魔物、国家の陰謀、そして未知の存在が絡み合う複雑な状況が広がっている。この混沌の中でリクは、自らの力を試し、策略を練りながら生き延びる方法を模索する。
「まずは情報を集める。そこからが始まりだ。」
リクは分断地帯の奥へと足を踏み入れた。その背中には、復讐と支配の野望が静かに燃えていた。




