第11話 苦闘と進化
裏切りと負傷の影響でリクたちは絶体絶命の状況に陥っていた。周囲を取り囲む魔物たちは数を増し、毒の矢で弱らされた体には、どんな動きも痛みが伴った。
「エリナ、もう少し持つか……?」
リクが震える声で問いかける。エリナは目の下に深い隈を浮かべながら、必死に防御魔法を維持していた。
「……なんとか。でも長くは……。」
彼女の声は途切れがちで、その疲労が限界に達していることを物語っていた。一方、カイルは剣を握りしめながら、盾で必死に魔物の攻撃を防いでいた。
「リク、どうにかしてくれ! もうもたねえぞ!」
カイルの声が、状況の切迫感をさらに高める。リクは短剣を握り直し、痛みを押し殺して指示を出した。
「ゴルム、影を広げて動きを止めろ! 影狼、背後を狙え!」
ゴルムの影が再び地面を這い、数体の魔物の動きを封じた。影狼はその隙を突いて鋭い牙で魔物の首を狙う。しかし、それでも魔物たちの数は減らず、次々と襲いかかってくる。
「くそ……これじゃ埒が明かない……。」
リクは苦しみながらも、全体の状況を見回した。そして、その時だった。
ゴルムの体が突如として眩い光を放ち始めた。影の刃がさらに鋭く長くなり、その力が周囲全体に広がっていく。
「ゴルム……どうしたんだ!?」
リクの驚きに応えるように、ゴルムは進化の兆しを見せ始めた。影の力が強大になり、その刃は一瞬で複数の魔物を切り裂く。
進化したゴルムの姿は、以前と大きく変わっていた。体格はわずかに大きくなり、筋肉が引き締まった印象を与えるが、完全に威圧的というわけではない。黒光りする甲殻が部分的に体を覆い、背中には小さな翼のような影の形状が揺れていた。その瞳は深い紫色に輝き、どこか愛嬌を残しつつも、その瞳の奥に秘められた力が見て取れた。
「……ゴルムが少し変わったけど、まだ俺たちのゴルムだな。」
リクは短く呟きながら、その進化した姿を見つめた。
「影狼、ゴルムと連携しろ! 動きを止めたところを仕留めるんだ!」
影狼は低い唸り声を上げ、ゴルムと共に動き始めた。進化したゴルムの影が広がり、魔物たちを一体ずつ拘束していく。その間に影狼が飛びかかり、次々と致命傷を与えていった。
「カイル、今だ! スキルを使え!」
リクの声に応じ、カイルが剣を振り上げた。
「『爆裂剣』!」
眩い光とともに、カイルの剣が魔物の頭部を叩き割った。その一撃は、群れの士気を一気に崩壊させたようだった。
「これで……!」
最後の魔物が地に倒れた時、リクたちは地面に崩れ落ちた。全身を覆う疲労と痛みの中で、彼らは互いの無事を確認する。
「……生き延びたな。」
リクが小さく呟くと、カイルとエリナも微笑みを浮かべた。
「ゴルム……影狼……ありがとうな。」
リクはゴルムと影狼の頭を撫で、その存在に感謝した。
試験が終了し、リクたちはギルドの本部へ戻った。他の冒険者たちはそれぞれの成果を報告しているが、リクたちの顔には笑みなどなかった。
「……セインたちが引き寄せた魔物のせいで、俺たちだけじゃなく、ほかのグループの何人も……。」
エリナが震える声で呟いた。途中で見た、血まみれの武器や倒れた冒険者たちの姿が脳裏に焼き付いて離れない。
「次に会ったら、ただじゃおかねえ……。本当に……あいつらのせいで……。」
カイルの拳が震え、血が滲むほど強く握りしめられている。
リクは一言も発しなかった。ただ、その目には深い怒りと喪失感が浮かんでいた。
「俺たちは生き延びた……けど、それだけだ。」
リクは力なく呟いた。その言葉の重さが、カイルとエリナの胸に突き刺さる。
「セインたちは、計画的に俺たちを狙っていた。あいつらは笑いもしない。ただ冷たく、俺たちを殺そうとした。」
リクの声は徐々に震え始め、彼の拳もまた震えだす。
「もっと……強くならないと。俺たちが二度とこんな目に遭わないために。仲間を……守れるようにするために。」
その言葉は痛みと誓いに満ちていた。カイルとエリナは、リクの決意にただ静かに頷いた。
ギルド内の喧騒が遠ざかるように感じられる中、リクたちはその場所を後にし、新たな訓練と旅路を決意した。その歩みは、犠牲の上に築かれるものだったが、彼らの心に刻まれた痛みが次の力を生む礎となるだろう。




