表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

十月の蝶(ちょう)・中編

 結局(けっきょく)、彼女は小児(しょうに)性愛者(せいあいしゃ)で、私は被害者(ひがいしゃ)()ぎなかったと。私たちの関係(かんけい)()れば、そう(しゅ)(ちょう)する(もの)もいるだろうか。客観的(きゃっかんてき)には、そうかもしれない。しかし私に()って、(おも)()(しゅ)(かん)(てき)なものである。


 (すく)なくとも私は、自分(じぶん)(なに)()らない被害者(ひがいしゃ)だったとは(かんが)えていない。彼女が()どもしか(あい)せないことを、()()()()と私は理解(りかい)していた。むしろ私は、自分(じぶん)()どもであることを利用(りよう)して、彼女から(あい)()られるよう(つね)計算(けいさん)して(うご)いていたと(おも)う。両親は(まった)く私に関心(かんしん)がなかったとしか(おも)えなかったし、その(かんが)えは(おお)きく(はず)れてなかったと(いま)確信(かくしん)している。


十才(じゅっさい)になったわね。誕生(たんじょう)()、おめでとう」


 自宅(じたく)部屋(へや)で、()わらずベッドでの課外(かがい)授業(じゅぎょう)をこなしながら、私は彼女から(いわ)われていた。十月(じゅうがつ)は私の誕生(たんじょう)()で、しかし両親は(とく)関心(かんしん)がないようだ。(わり)と両親が高齢(こうれい)になってから()()た、一人娘(ひとりむすめ)が私なのだが。


「ありがとう。お(ねえ)さんに(いわ)われるのが一番(いちばん)(うれ)しいよ。あたしが男の子だったら、あたしの(おや)誕生(たんじょう)()(いわ)ってくれたのかな」


 お(かね)(あた)えてくれたが、()どもが必要(ひつよう)としている愛情(あいじょう)というものを両親は理解(りかい)できなかったように(おも)う。私は(あい)()えていて、その(あい)六才(ろくさい)年上(としうえ)の彼女は(あた)えてくれたのだ。この()も両親の(かえ)りは(おそ)くて、そのことが私は(うれ)しかった。その(ぶん)、彼女と(むつ)()時間(じかん)(なが)()れるのだから。


仮定(かてい)(はなし)をしても(はじ)まらないわ。貴女(あなた)素敵(すてき)な女の子で、私から()れば魅力的(みりょくてき)(ちょう)よ。じゃあ今年(ことし)も、写真(しゃしん)()っていい?」


「うん、もちろんいいよ」


 (はだか)のまま、ベッドで私はポーズを()る。十月(じゅうがつ)誕生(たんじょう)()になると、ポラロイドカメラで毎年(まいとし)、彼女は私の写真(しゃしん)()っていた。それが()められた行為(こうい)じゃないのは()かっていたけど、その()()せてもらった写真(しゃしん)出来(でき)()えは芸術的(げいじゅつてき)といって()くて、綺麗(きれい)()ってもらえる(よろこ)びの(ほう)が私には(おお)きかったのだ。何枚(なんまい)撮影(さつえい)した(あと)、私は彼女と写真(しゃしん)鑑賞(かんしょう)(たの)しんだ。


「女の子らしい身体(からだ)になってきたわね。この時期(じき)(からだ)つきって()きよ。(いま)(かがや)きを私は記録(きろく)しておきたいの」


「そんなに()きなの? あたしはお(ねえ)さんの(ほう)が、魅力的(みりょくてき)身体(からだ)だと(おも)うけど」


()めてくれて、ありがとう。でも私は、貴女(あなた)くらいの年頃(としごろ)()かれるのよ。ねぇ、(ちょう)(もっと)(うつく)しい(とき)って、いつだと(おも)う?」


「なぞなぞ? それは、うーん、()んでいる(とき)かな? それか、(はな)()まって(みつ)()ってる(とき)かも」


健全(けんぜん)(かんが)えね。でも私は、標本(ひょうほん)として保存(ほぞん)された(ちょう)一番(いちばん)(うつく)しいと(おも)うわ。成虫(せいちゅう)になった(ちょう)って、そう(なが)くは()きられないのよ。人間(にんげん)の女の子も、あっという()(おお)きくなって、私が()きな貴女(あなた)姿(すがた)変化(へんか)してしまう。そういう(はかな)(うつく)しさを、私は保存(ほぞん)しておきたいの」


 彼女の(かんが)えは、健全(けんぜん)とは()えなかったけれど。そう指摘(してき)するつもりも私には()かった。


「そっかー。じゃあ写真(しゃしん)がある(かぎ)り、お(ねえ)さんは私のことを(おぼ)えていてくれるんだね」


「……ええ、そうね。ずっと、貴女(あなた)のことを(おぼ)えているわ」


 (ふたた)び私たちは、ベッドで(から)()う。私も彼女も、(いま)関係(かんけい)がいつまでも(つづ)くとは(かんが)えていなかった。だからこそ、(すこ)しでも(なが)記憶(きおく)(とど)めたくて、私たちは(ちょう)のように(たが)いの(みつ)熱心(ねっしん)(もと)()っていたのだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ