十月の蝶(ちょう)・中編
結局、彼女は小児性愛者で、私は被害者に過ぎなかったと。私たちの関係を知れば、そう主張する者もいるだろうか。客観的には、そうかもしれない。しかし私に取って、思い出は主観的なものである。
少なくとも私は、自分が何も知らない被害者だったとは考えていない。彼女が子どもしか愛せないことを、はっきりと私は理解していた。むしろ私は、自分が子どもであることを利用して、彼女から愛を得られるよう常に計算して動いていたと思う。両親は全く私に関心がなかったとしか思えなかったし、その考えは大きく外れてなかったと今も確信している。
「十才になったわね。誕生日、おめでとう」
自宅の部屋で、変わらずベッドでの課外授業をこなしながら、私は彼女から祝われていた。十月は私の誕生日で、しかし両親は特に関心がないようだ。割と両親が高齢になってから出来た、一人娘が私なのだが。
「ありがとう。お姉さんに祝われるのが一番、嬉しいよ。あたしが男の子だったら、あたしの親は誕生日を祝ってくれたのかな」
お金は与えてくれたが、子どもが必要としている愛情というものを両親は理解できなかったように思う。私は愛に飢えていて、その愛を六才年上の彼女は与えてくれたのだ。この日も両親の帰りは遅くて、そのことが私は嬉しかった。その分、彼女と睦み合う時間を長く取れるのだから。
「仮定の話をしても始まらないわ。貴女は素敵な女の子で、私から見れば魅力的な蝶よ。じゃあ今年も、写真を撮っていい?」
「うん、もちろんいいよ」
裸のまま、ベッドで私はポーズを取る。十月の誕生日になると、ポラロイドカメラで毎年、彼女は私の写真を撮っていた。それが褒められた行為じゃないのは分かっていたけど、その場で見せてもらった写真の出来栄えは芸術的といって良くて、綺麗に撮ってもらえる喜びの方が私には大きかったのだ。何枚か撮影した後、私は彼女と写真の鑑賞を愉しんだ。
「女の子らしい身体になってきたわね。この時期の体つきって好きよ。今の輝きを私は記録しておきたいの」
「そんなに好きなの? あたしはお姉さんの方が、魅力的な身体だと思うけど」
「褒めてくれて、ありがとう。でも私は、貴女くらいの年頃に惹かれるのよ。ねぇ、蝶が最も美しい時って、いつだと思う?」
「なぞなぞ? それは、うーん、飛んでいる時かな? それか、花に停まって蜜を吸ってる時かも」
「健全な考えね。でも私は、標本として保存された蝶が一番、美しいと思うわ。成虫になった蝶って、そう長くは生きられないのよ。人間の女の子も、あっという間に大きくなって、私が好きな貴女の姿も変化してしまう。そういう儚い美しさを、私は保存しておきたいの」
彼女の考えは、健全とは言えなかったけれど。そう指摘するつもりも私には無かった。
「そっかー。じゃあ写真がある限り、お姉さんは私のことを覚えていてくれるんだね」
「……ええ、そうね。ずっと、貴女のことを覚えているわ」
再び私たちは、ベッドで絡み合う。私も彼女も、今の関係がいつまでも続くとは考えていなかった。だからこそ、少しでも長く記憶に留めたくて、私たちは蝶のように互いの蜜を熱心に求め合っていたのだろう。