夢から
無気力で、現実的な男がもし、異世界に転移したら…。もし、そんな男が魔法のある世界にきたら…。
「私の世界を救ってください。」
そう頼み込むのは女神様だった。俺だってまだ状況を整理できているわけではない。
見たことのない真っ白でなにもない空間。明らかに地球のものではない、とても不思議な空間だってことはなにも知らない俺でも感じれる。なにも覚えてはいないがどうやら俺は死んでしまったらしいな。
「まずはこの状況を説明してもらえますか?世界を救うって言ってもなにも知らないんじゃ答えようがないです。」
俺はシンプルに質問をした。
(らしいだけで本当に死んでしまったのかどうかすら覚えてない、目の前の綺麗な女性も本当に女神なのかもわかっていない、右も左もって状態だ。質問はシンプルな方がいい。)
女神らしき女性は少し沈黙した。一息ついてこちらにちゃんと目を向ける。
「…貴方は勇者に選ばれたのです。世界を救う勇者に」
「ゆ、勇者…?」
その一言だけ伝えると俺の返答を待ってるかのように凝視し沈黙する。
「い、いや、違くてですね?…えっとつまり…」
もう一度質問をしようとした時。頭の中に情報が一気に流れ込む。
彼女はどうやら本当の女神様らしい。俺は交通事故で死んでしまった。そしてこの白い空間は女神様と選ばれた勇者しか入れない神聖な場所。その勇者という枠に俺が選ばれた。女神様曰くこれは運命らしい。たまたまなのだろう。
「なるほど…いろいろわかりました。俺が勇者となって悪を倒し、世界を救う…」
女神は静かに頷く
「急なことでまだまだ追いついてないことが沢山だけど…だけど…貴方の目を見ているとやるべき、やるしかない、やってやるという気にさせられる…」
(お父さん…お母さん…妹…ごめん…俺死んじゃったらしい。なにもしてあげられなくてごめん…今度はさ俺、頑張るから見ててよ…)
気合を入れ深呼吸をする。自分に喝を入れるように…覚悟が決まった。それと同時に女神様が展開した光のゲートが作動する。一歩踏み込んだらそこは未知。期待と不安が身体中を渦巻く。
「勇者様。こちらを…」
女神様の両手には自分と等身サイズの大きな剣があった。その剣を俺にスッと差し出す。
「これが、勇者の…俺の…剣。」
俺はそれを手に取り光のゲートへと向かった。余計な言葉はいらない。ただ一言だけ。
「行ってきます!」
足を踏み入れるとフワッと視界を光が包み込む。徐々に視界がぼやけて見えて…。
ジリジリジリ………
目を覚ました。もちろん夢である
__________
俺の名前は、山下怜。15歳の高校一年生だ。
もちろん普通の高校生、今日は土曜日なのだが部活がだるくて仮病使って休んでいるようなどこにでもいる学生である。
そんな俺には最近不可解なことが起きている。それは、毎日毎日同じような夢を見ていること。内容はその時その時違うのだが基本“異世界”に関する夢である。
「また今日もかよ…、何週連続だよ…全部記憶残ってるのもキモいし…、あと俺あんな積極的な人間じゃねぇから!毎回毎回…。」
異世界への転生、転移が決まりその世界に向かおうとゲートに入る。光が広がる。目が覚める。ルートは毎回一緒である。日によって女神がめちゃ年齢いってるロリタイプだったり、包容力エロエロお姉さんだったり、気難しい清楚系だったりと様々。
「脳みそに俺の好みを探られてるみたいだな……もっかい寝るか」
せっかく部活をサボったので今日は寝活を満喫していたい。その気持ちでまた睡眠に入った。
何時間か寝て、ぼやけた目を擦る。少し肌寒い。だが冷房のような風ではない。そんなことよりベッドが硬い。
「………ん?」
少しずつクリアーになった視界でよく周りを見渡す。中世を感じさせるような建物が並んでいた。目線を下に落とし、自分を見てみると、どうやら外で寝ていたらしい。
「………いや、分からん。なんだ、なんで俺は外で寝てるんだ?自分の部屋で寝てただろ…、あとなんだこの建物は、アニメの世界以外で見たことないぞ?」
最近見ていた夢のせいもあって、非常識な考え方をし始めた。
「まぁ、結構ぽいな……異世界っぽい建物ではある。………流石に夢か。」
と、言ったところで夢の覚まし方など分からないのでとりあえず起き上がりそこら辺をうろうろする事にした。
街並みを見ていくと流石にこれを夢という言葉で終わらすには情報が多すぎると思い始めていた。
「そう言えば俺の格好、部屋で寝ていた時のままだな。…なぜ靴を履いているのかは分からんが、寝る前に流石に履かないもんな。」
上下ブカブカのスウェット。つまり部活動でいつも来ているやつだった。部活直前まで行こうか行かないかで葛藤をした結果、着替えだけしてサボることに決めたのだった。なので格好はわかるのだが、なぜ靴を履いているかは分からない。
仮に俺のことを寝ていた時の状態で異世界へ転移させたのであれば裸足であるはず。だが俺は靴を履いてるだけではなく靴下も履いていた。
「まぁ、ないよかありがたいんだけど…、まじなんかこれ…、まじで異世界なんかな…。」
かつて感じたことのない無気力が俺を襲う。
「え、面倒くさい。どうすればいいのだって。普通説明あるもんじゃないの?それはアニメの中だけ?ならなんで現実でこんなんなってんだよ。」
ぶつぶつ独り言をいってストレスを少しでも発散する事にした。
道もわからぬままただ歩いていくとあることに気づく。それは俺のことを誰も見ない、気にもしていないということ。
「だーれも俺のこと見ないのな。どう考えてもこの格好浮いてるだろ…。」
ずっと歩いているとどうやら商店街のような人が集まる場所まで来た。
「まあ、流石に腹括って誰かに聞くか…。でもなに聞けばいいのか分からんもんな。とりあえずは飯とか、お金とか、家とか、人間の基本的なところをどうにかしていかないと。」
結構人見知りの俺にはきつい仕事だが俺は、店を切り盛りしているイカつめのおっさんに話しかけた。
「………。」
普通に無視された。もう一度話しかけた。
「あ、あの〜…。」
「………。」
全く目も合わせない。こんな目の前にいるのに気づかない訳ない。完全に無視されている。少し腹も立ったので声を大きめに話しかけた。
「あの、すみません!?」
俺の声にビックリしたようでとても驚いていた。どうやら俺のことに気づいて無かったらしい。存在感が薄いとは言えどこれは酷い。
「へい!いらっしゃい〜!よく来たねお兄ちゃん。さっ、どれがいい?うちはいつでも新鮮だよ〜!」
ガツガツ来るタイプはあまり好きではない。面白くないくせに会話の主導権を握ろうとしてくるからである。
「え、えっと…買いに来たわけじゃないんですけど…。」
おっさんは目を細めて俺を睨む。
「なんだ兄ちゃん、客じゃねぇのか?ならさっさと帰りな、商売の邪魔だ。」
案の定の反応ではある。でも今回ばかりはこちらとて聞きたいことがある。引くわけにはいかない…。と一つ気づいた事があった。
(そう言えば忘れていたけど、言語…。日本語だ…。まあ、アニメとかでよくある翻訳機能的なものがついてる可能性もあるけど…)
俺は少し固まってしまう。だが、聞き取れないよりは流石に希望が見えてくる。なんとかなるかもしれない。
「おい?さっさとどきな?いつまでも金無しの相手していられねんだよ!」
言葉を整理する。まだ完全に聞きたいことが決まっているわけではないがやるしかない。
「すみません、一つ聞きたいことがあって…。」
すると店のおっちゃんは遠くを指差した。
「あっちに行けばギルドがあるから、何か聞きてぇならそっちに行きな!俺はしらねぇよ。」
「…ギルド。」
あるのかなとは思っていたが、実際にあると調子が狂う。ますますここが異世界なのだと実感するハメになるから。
「ほら、ほんとに邪魔だ!さっさと行った、行った。」
俺を追い払うおっちゃんにお礼を言って指指してた方に向かった。
ご閲覧ありがとうございます!投稿ペースは自分のペースでゆっくりにはなるかもですが、気長に読んでくれたら嬉しいです!最初の方は少し退屈かも知れませんが、どんどん面白いものを作っていきます!よろしくお願いします