表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

STORIES 036:夢見る頃を過ぎても

作者: 雨崎紫音

STORIES 036

挿絵(By みてみん)



人生で初めてのデート、あなたは誰とどこへ行ったのか、覚えていますか?


もちろん、よい思い出になったよね?

それとも、何か大きな失敗を…?


.


高校2年生もそろそろ終わろうかという頃。

生まれて初めて、異性と2人きりで出かけるチャンスがやってきた。

いわゆるデート、ね。


遅いでしょ、ずいぶんと。


学校帰りに喫茶店に寄るとか、それすらも緊張して誘えない…というよりも。


2人きりになっても、何をどう話したら良いのか、まるで思いつかなかった。

長らく、女の子と話すのが苦手だったからね。


興味がないわけじゃないんだよね。

むしろ、気軽に仲良く話したくて仕方ないわけで…


なんだろうな、あの感じは。


今じゃ人前でMCなんかやりながら、ペラペラといつまでも喋ってられるのにねぇ。


.


春休みになったらさ、どこかに行こうよ。


どこか、なんて言ってるけれど…

ほぼ決めてあるんだよね、ぎこちなく誘いながらもさ。

そう、千葉県民ならすぐに思いつく定番スポット。


夢の国。


人生で初のデートだからねぇ。

まぁ、好意を持ってくれている相手なら、断られる心配もないし、訪れるだけで満足感のある場所だしねぇ。


.


ちなみに時は、80年代〜90年代。


ケータイなし。

インターネットなし。

洒落たなチェーン系カフェなし。

電車は1時間に数本。


その頃の中高生を悩ませる、深刻な問題があった。


…待ち合わせ方法。


家に迎えに行くと言ったって、車が使えないなら遠すぎるし。


下り電車で2つ隣の駅まで迎えに行くとすると、合流してまた次の上り電車に乗るまで、数十分も駅舎の中で待つハメになる。


駅前にスタバなんてなかったんだ。

今もないけど…


それはともかく、とびきり仲良くなってからなら、そういう待ち時間も楽しめたのかもね。


.


「じゃ、そこの駅で7:13発の電車の、後ろから3両目に乗ってきて。そこで合流ね。」


そんな待ち合わせをすることになった。

なんだか『恋に落ちて』って映画みたいじゃない?

当時は知らなかったけど。


彼女を乗せた電車がホームに滑り込んでくるのを見守っていると…

なんかもう、ドキドキを通り越して、逃げ出したくなるくらい。


そう、前の晩からものスゴい緊張感。


だって、万が一にも寝坊して乗り遅れたりなんかしたら、この世の終わりを迎えてしまうんだよ。


彼女を乗せた電車はただ走り去ってゆき…

もう二度とは戻らないのでした…


色んな意味でね。


.


いや、彼女が乗り遅れるパターンもあるよね。


「寝坊しちゃった❤︎」


なんて愛らしいLINEが届くこともなく、

ただ事態を飲み込めず、呆然と次の駅へ運ばれてゆく…


当時はケータイなんて持ってないからね。


どこかの駅で降りて、彼女の家に恐る恐る電話してみるしかない。

公衆電話からね。テレホンカード使って。


お父さんが出たらどうしよう…

というか、

家にいたらいたで、その後はどうしたらいいんだ?


.


幸いにして、その時は問題なく合流できた。


最初のミッションをクリア。

このドキドキは、恋する気持ちからじゃないのかも?


もちろん混雑している夢の国。

春休みだからね。


まぁ、場所はどこだったとしても…


これ正解?こんなときはどーすんの?

年上の余裕を装いながら、自問自答の連続。


楽しいのか疲れるのか、

よくわからなくなってたりして…


.


初デートで夢の国へ行くと破局する、説。


その頃はそんな噂がまことしやかに流れていた。

ホットドッグ・プレスとか、そんな情報雑誌でね。

情報に踊らされてた頃のわたし。


とはいえ、まるっきり嘘という訳でもない。


要するに…

何をしてても待ち時間が長い場所なのが問題。


付き合いが浅くて会話が盛り上がらないと、間がもたないんだよね、たぶん。

当然、スマホなどというヒマ潰しのための救世主も存在してないから尚更に。


退屈そうな彼女の横顔…


.


でもね、

初々しい2人が、おっかなびっくり振る舞いつつ…


帰る頃には少し打ち解けてたりするのは、微笑ましいよね、たぶん。


家を出てから帰るまで、誰に邪魔されることもなく2人だけの時間を過ごしてね。

あの頃は、話の途中でピンコーンとかバッグの中で鳴らなかったし。


帰りの電車の中で、肩の力を抜いて笑いながら話しているとよくわかる。


待ち時間のあいだ、退屈そうに見えた彼女の横顔。


そうじゃなくて、彼女も緊張してたんだよね。

そっと手を握ったりできてたら、その表情も和んだのかもしれなかったね。


この時間にここまで帰れたら、門限には間に合うかな…

そんなことを考えながら窓の外に目をやる。


.


夢の国で撮った写真は、DPE店に持ち込んで…

現像、プリント、焼き増しもした。


それを渡す口実で、また会う約束したり。


そういうの思い出すと…

そのもどかしさが楽しい環境だったんだよなぁと思う。


イマドキの若者には、何のことやらわからないだろうけどね、そんな楽しさ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ