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円卓のヒーロー

 新学期が始まり二日が経過した。

 新クラスにも慣れ一部の生徒はもう仕事に行っている。

 一方、界魔たちはまだ仕事に行っていなかった。

 新しい仲間が増え、マリアも仕事に連れて行けるようになりどんな仕事に行くべきかとこの二日間議論していた。

 慎重にならなければ命に関わるからだ。


「アリスがいるから難易度高いのもいけるけどマリアのことも考えたらなー」

「難しいやつはやめといたほうがいいな」


 魔戦科の生徒が主に連れていく一年生の生徒は同じ魔戦科を目指す生徒か、戦闘時の衛生兵の役割を持つ医術科の生徒だ。

 前者であれば仕事の成功率は上がるが万一があれば死亡リスクがある。一方後者では生存率は上がるが、非戦闘員である医術科の生徒がいればあまり難しい依頼はできない。

 オウガも悩みながら腕を組む。


「そういえばマリアは医術科の生徒らしいがどんな魔術を使うんだ?」

「あいつは音による身体強化魔術の他に、歌で味方の強化とか治癒をする魔術を使うんだ」

「歌とは変わっているな。上手なのか?」

「「うまいぞ」」


 仕事を探すばかりで互いの力をまだ確認していなかったアリスが疑問をこぼす。

 アリスの疑問に界魔とオウガは間髪入れずそろって答える。

 その顔は大げさに言っているわけではなく真剣で妙な説得力があった。


「そこまで言うならぜひ聞いてみたいものだな。まぁフォルテは越えられないだろうが」


 アリスは自己紹介でフォルテという歌手のファンだと公言するほどの熱狂的なファンだ。

 先日の鬼神のような戦いぶりから一転しフォルテを語るときのアリスは嬉しそうだ。


「アリスってほんとフォルテが好きだな。どういうところが好きなんだ?」

「普段のゲーム配信とかではかわいいのに、歌うときは別人のようにかっこいいんだ。その歌唱力とギャップに私は心を揺さぶられたんだ」

「へー、あいつゲーム配信とかもするようになったのか。今度覗いてみるかな」


 アリスの心を強く揺さぶるフォルテに界魔が関心を寄せる。

 だがそれはアリスのオタク魂に火をつけ瞳がきらりと光った気がした。

 幾度も界魔の歴史オタク魂に火をつけたオウガが何かを察したような顔をする。話題をそらそうとするももう遅い。


「そ、そうか! ではRPGとかいいぞ。自分でプレイするよりフォルテのプレイのおかげでますます面白くなる。他にはアクションゲームとかだな。本人は苦手と言っているが少しずつ成長する姿が応援したくなる。あとは――」


 アリスが話しているとチャイムが鳴る。

 それにオウガは内心ほっとした。もしチャイムが鳴らなければ彼女はこのまま語り続けていただろう。


「む? 語り足りないのだが仕方ない。また次の休み時間に色々教えよう」


 まだ話そうとするアリスに界魔は冷や汗を流す。

 席に戻るアリスの背中を見て界魔はほっと息をつく。


「ありゃ語らせたら二時間コースだな」

「なんでわかるんだよ」

「歴史を語ってるときのお前にそっくりだったからだ」


 オウガの指摘に界魔はびくっと体を震わせ、壊れかけの歯車のように顔をオウガに向ける。

 その顔は少し赤かった。オウガに指摘され客観的に自分を見た結果恥ずかしくなったのだろう。


「……ごめん。あと今まで何も言わず聞いてくれてありがとう」

「よせやい。ていうかいいじゃねぇか。我を忘れるぐらい好きなことがあるなんてよ」

「そういうもんか……。いやそうだな。悪くない」


 界魔は席につき頭をかかえるアリスの方を見る。きっと熱心に色々語りすぎた自分が恥ずかしくなったのだろう。

 ちらっとアリスが界魔の方を見れば二人は目が合いさらに彼女の顔が赤くなる。とりええず界魔は手を振るもアリスは慌てて目をそらす。

 戦闘面だけでなくこうした一面を見れたことが嬉しかったのか、界魔は笑みを浮かべる。

 それから教室の扉が開き黒鉄が入ってきた。


「はい、おはよう。さっそく朝礼といきたいが全員家康ホールに向かえ。一限目もなしだ」

「何かあったんですか?」

「そこらへんもホールに全員集まってから話すから全員速やかに移動しろ」


 チーム八咫烏の一人が質問をする。

 だが何があったかは答えてくれず皆仕方なく移動を開始する。

 家康ホールは帝校の全校生徒を収容できる大ホールだ。使用するのは入学式や終業式、文化祭などのイベントごとでそれ以外は講演などでしか使わない。


「こんなことはよくあるのか?」

「いや初めてだ」


 急な集会はよくあることなのかとアリスが界魔に問いかける。

 だが界魔もこんなことは初めてで首を横に振りながら答える。

 いったい何事かと胸に不安を抱きながら界魔たちはホールに向かった。

 ホールはどこからでもステージが見れるように三階建ての吹き抜け構造だ。集まった生徒は高等部の生徒と教師だけかと思ったが。


「おいあれシールダーじゃないか?」

「うおっ! ほんとだ。なんで東京のトップヒーローがここに……。ていうか他にもテレビで見たようなヒーローがいっぱいいるな」


 オウガが指さした方向には眼鏡をかけた緑色の髪をした男性がいた。

 彼こそ東京の頂点に君臨するヒーローだ。モデルのようにスタイルがよく女性を魅了するような顔立ちで一部の女生徒がこそこそと話している。


 見渡せば東京だけでなく各県を代表するトップヒーローたちが集まっていた。

 本来彼らは舞台上で講演をする立場が多いが今日は客席の方に座っている。

 ホールの席がほとんどうまったところで照明が消されホールは静寂に包まれる。

 明るいのは舞台だけで誰が現れるのかと界魔たちはドキドキしながら待つ。


 そして舞台袖から現れたのは雪のように白い長髪が目を惹くスーツをまとった美女だ。

 腰からは白い三本の尻尾が生え、頭には狐のような耳がある。

 その姿を見て界魔は驚いたように目を見開く。


「雪姉? でもなんでここに」


 現れたのは七年経ち成長した界魔の姉である真田雪狐だ。

 近くで彼の言葉を聞いていたアリスがぎょっと驚く。

 この大観衆の中、界魔の声が聞こえたのか雪狐は一瞬彼の方をまっすぐ見る。

 だがそれも一瞬ですぐに目線をそらし舞台の中央に向かう。そして演台の前に立つと頭を下げる。


「まずここに集まってくれたヒーローたちに感謝を申し上げます。知っている方もいると思いますがまずは自己紹介を。私は円卓の騎士が一人真田雪狐です」


 真田と聞いて一部のクラスメイトが界魔の方を見る。苗字が同じで彼に混じる血から二人に血縁があるかもしれないと驚いたのだろう。

 両親の死後ヒーローを目指したのは界魔だけではない。

 雪狐もヒーローの道を志した。そして彼女は高いヒーロー適性があり去年十九歳で円卓の騎士になったのだ。

 円卓の騎士は世界中を飛び回り平和のために戦う。雪狐と過ごしたのは年末年始でそれ以外はほとんど会えない。

 まさかこんなところで会うとは思わず、界魔は嬉しさ半分不安半分といったところだ。

 いったい円卓の騎士として帝校に来た彼女が何を話すのかと。


 すると雪狐の後ろにあるスクリーンに赤髪の男性が映し出される。

 映し出された男性は界魔にヒーローの道を示したドライグによく似ていた。赤髪に白いメッシュなどまるでドライグを若くしたような姿だった。

 それは当然で彼はドライグの息子だからだ。

 だが彼はもうこの世界のどこにもいない。


「皆も知っていると思いますが半年前に円卓のリーダー、アーサー・アルビオンが戦死しました。我らヒーローの天敵であるイガル教の手によってです」


 イガル教と聞いて界魔は沸々と怒りがわき自然と拳を握り締める。

 界魔と雪狐の両親を殺したのはイガル教だからだ。

 国際魔導軍が発足するより前から存在し多くの英雄たちが彼らと戦い、世界中で文献が残されている。

 彼らは大昔魔人を率いて地球にきたイガルを信仰する宗教団体で、彼の死後も魔王復活そして狂信的な魔人至上主義を掲げ、世界中で戦を起こし続けている存在だ。

 まさにヒーローの天敵といえる存在だ。


 そして雪狐は次のスライドを出す。

 そこに映るのは金色の柄と黒い刀身を持つ剣だ。刀身には葉脈のように赤い線がある。


「この剣の名はラグナーク。円卓のリーダーが代々振るう剣です。アーサーが死んだ今この剣の適合者がいません。私はこの剣の適合者を探すために日本に来ました」


 ラグナークは教科書にも載るような有名な剣だ。

 魔王イガルを殺した剣をイガルの骸を使い強化した剣で長い歴史がある剣だ。

 ヒーローを目指す者たちにとってはまさに現代にある伝説の剣で、それの担い手になることを目標とするヒーローもいるほどだ。

 歴史好きそしてヒーローを目指す界魔も例外ではなく瞳を輝かせる。

 だがすべてのヒーローがラグナークの担い手になれるわけではない。

 実力はもちろん、ラグナークに認められなければならないのだ。

 すると東京のトップヒーローが手を上げる。


「封魔空絶、いえヒーロー名シールダー。どうかしましたか?」

「おやおや氷姫に名を知ってもらっているとは光栄ですね。なに少し聞きたいことがあるんです。なぜ適合者を探すのにこんなにヒーローを集めたのですか?」


  ヒーローは仇討ちなどを防ぐためにコードネーム代わりのヒーロー名がある。雪狐にもそれはあり、九尾の氷姫という名前がある。


「それは今回の任務に関係します」

「任務?」

「はい。現在ラグナークは日本近海の魔導軍基地に移送中です。今回皆さんを集めたのはその適性検査を日本軍基地で受けてほしいからです」

「ずいぶん簡単な任務ですね」

「いいえ。これはAランクの任務です」


 たかが適性試験を受けるだけなのにそれがなぜ高難易度の任務なのかと周囲がざわつく。

 適性が低ければ死ぬ危険があるのか、それとも実戦でテストをするのかと色々皆考察する。


「一か月前アフリカ大陸にある魔導軍基地がイガル教の襲撃を受け壊滅しました。理由は三日間も同じ場所でラグナークを保管したからです。幸い剣は奪われずに済みましたが三百人以上が犠牲になりました」

「なぜイガル教はラグナークを狙うのでしょうか?」

「ラグナークはイガル教に対抗できる強力な武器です。しかもこの剣はイガルを殺した剣で強化のため彼の躯が使われています。イガル教にとっては憎んでいる剣なのです」


 イガル教を倒す強力な武器としてラグナークは必要だ。逆にイガル教にとっては組織の邪魔になり信仰の対象であるイガルの尊厳を踏みにじった忌むべき剣だ。

 たった三日同じ場所に保管しただけで大勢の犠牲者を出したことに界魔は息を飲む。

 彼だけでなくアリスたちも険しい表情をしていた。


「私たちは二度と同じ過ちを繰り返さない。そのため現在ラグナークは一日単位で世界各国に転移しています」

「それで次に来るのが日本ということですね?」

「はい。皆さんの任務というのはラグナークの適性検査を受けること。そして日本の防衛です。これを一日で行います」


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