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赤い桜

 アリスの歓迎会から数分。

 空腹だったオウガはカレーを飲み物のように食べ、もうなくなりそうだ。

 界魔とアリスは手を合わせ食べ始めアリスも同じ動作をまねて食べ始める。


「そういえばアリス先輩ってフォーメーションはどこか希望ってありますか? 私と同じ後衛か中衛、脳筋二人がいる前衛。この三つがあります」

「まぁあながち間違いじゃないけど……」


 脳筋と言われたオウガはぴたりと食事を止め気まずそうな顔をする。

 界魔も図星をつかれ苦笑いをしている。


「ルーマニアにいたころは中衛か後衛をしていたからそこがいいな」

「まぁあの戦い方ならそうか。こっちでもそれでいいと思うぞ」

「今までは俺か界魔どっちかが中衛にならないといけなかったからな。これでガンガンいけるぜ。ってどうしたよ、そんな顔して?」


 アリスは模擬戦でほとんどその場から動かずクラスメイトを倒していた。遠方まで届く無数の槍の攻撃。そして自身を守る盾としても使っていた。

 彼女ほど後衛に向く人物はいないだろう。

 するとマリアが不貞腐れたようにそっぽを向く。


「どうせ私は弱いですよーだ」

「「弱い?」」


 オウガと界魔は同じように首をかしげる。

 彼の言葉はマリアが弱いせいで後衛にならざるをえなかったという言い方だ。

 それでマリアが不貞腐れたのだろう。


「勘違いしてるようだけどマリアは強いよ。人にはいろんな強さがある。肉体や魔術が強い奴、精神が強い奴とか。お前は精神と魔術が強い人だ。お前の魔術のおかげで俺たちは安心して戦えてる。だから自信持てって」

「そうそう。お前の身体強化のおかげで俺たちは今までやってこれたからな。何度お前に助けられたかもう覚えてねぇよ」

「そ、そうですか。ならいいです」


 基本からかうことが多い界魔たちに素直に褒められ、マリアは恥ずかしそうに髪をいじる。

 いつもとは逆の立場で顔を赤くする彼女に、界魔はニヤニヤと口角を上げる。

 逃げるように視線をそらしたマリアはわざとらしく咳ばらいをしてアリスの方を見る。


「というわけです。私の身体強化魔術は二人のお墨付きなので期待していてくださいね」

「ああ、楽しみにしておこう。それと中衛からの二人の支援方法だが私の魔術についてせっかくだから話しておく」


 突然アリスは歯で指を噛みそこから血が流れ出る。

 それに界魔たちがぎょっとしマリアがハンカチを出す。だがその一瞬の間にアリスの傷はふさがり血が止まっていた。

 そしてアリスが魔術を使うとこぼれ出た血が結晶になる。


「私の一族は高い再生力と血を使った魔術を使う。血と魔力を混ぜればこのように結晶になるんだ。魔装を使えば少量の血で巨大な結晶を作ることも可能だ」

「なるほど。オウガ先輩と少し似た魔術ですね」

「まぁ似てるけど便利さでいったらアリスのほうが上だな」


 オウガの力は銀の形態変化だ。一見アリスの魔術と似ているが銀などそこらへんにあるものではない。

 しかも質量を越えたもの以上のものはできない。

 それに対しアリスは血が数滴あれば先の模擬戦のように槍の森を作れる。

 このことから彼女のほうが戦術面でも優れているのだ。


「この力があれば二人のサポートが可能だ。敵の攻撃の妨害や足場の生成など、傷口を防ぐことも可能だ」

「万能すぎんだろ。うらやましいぜ……」


 自由自在に形を変える魔術ならではの力だ。戦況によってはさらに多種多様な戦略を期待できるだろう。

 その応用性の高さにオウガが自嘲気味につぶやくがアリスは首を横に振った。


「いや強度面で見れば私の負けだ。私の作った槍を壊しまくった君ならわかるだろ?」


 界魔はアリスとの模擬戦を思い出す。

 アリスが作り出した武具は数は恐ろしいがオウガに簡単に破壊されていた。一方彼の防具は傷一つなかった。


「質のオウガと量のアリス。それにサポートのマリアか。あれ? 俺の役割ってなんだ?」

「「「魔封じ」」」


 界魔の疑問に三人が間を置かず答える。魔人にとって魔術の源である魔力を封じられるのはそれだけ脅威なのだろう。


「俺ら魔人は魔力を封じられたら人間とあんま変わんねぇ。お前の力は俺ら魔人からしたら厄介極まりないんだよ」

「そういうもんか」


 魔人であるアリスとマリアがオウガの意見に同意するように何度もうなずく。

 それからマリアがアリスを質問攻めにしてアイドルオタクということが露呈したり、アリスが推しのアイドルであるフォルテのことを熱く語るなどした。

 マリアが顔を赤くしていると彼女の頭に赤い花びらがのる。アリスがそれを手に取る。それは桜の花びらのようだったが桜にしては赤いため首をかしげる。

  マリアも机に落ちた花びらを手にとってじっと見る。


「この桜は花びらが赤色なんですよ。もう花は散らしてしまいましたけど、写真家が毎年撮らせてくれっていうぐらい綺麗なんですよー。あと花見も格別です」

「花見できるのは来年だけどな」

「そんなに待たないとダメなのか。でもなんで赤いんだ? 桜の花びらはピンクか白だと認識しているんだだが、もしや日本ではこちらが常識なのか?」


 枝からもわかるぐらい立派な桜の木なのに、その花を見られずアリスは落ち込む。せめてもと赤い花びらを見てなぜ赤いのかと首をかしげる。


「あれは魔力を吸って開花する突然変異した桜なんだよ。昔家康がその綺麗さにほれて大阪から江戸に持って帰ったんだ。将軍も認める綺麗さだから楽しみにしてろよ」


 大昔地球に来たのは魔人だけではない。

 彼らは地球を自分たちの適した環境つまり魔力が満ちた環境にするため異世界の植物も持ち込んだ。

 それは光合成時に酸素と魔力を放出し地球の大気組成をゆっくりと変えた。

 それにより地球に元からあった植物は魔力を取り込む進化をしたのだ。この桜もその一つだ

 界魔の説明に関心するようにオウガはうなずく。


「さすが歴史好き。なんでも知ってるな。中等部からここにいたのに知らなかったぜ」

「いやお前は知っとけよ。わりと有名な話だぞ」

「歴史には興味ねぇからな」


 界魔は何も知らない幼馴染に呆れた顔をする。

 ヒーローたるもの歴史は重要だからだ。過去の事件の教訓を学び未来で似た事件を起こさないため、そして起きた場合の対処法を知るなど歴史を学ぶことは色々メリットがある。

 だがこれは界魔の持論でこれ以上とやかくいうつもりはなかった。

 再び唐揚げを口に運ぼうとすると散った桜を見るアリスが視界に入る。

 どこか寂しそうな表情で界魔は食器を置いて桜の木を見る。


「桜がまた咲くのは来年の春だ。そのとき皆で花見をしよう」


 界魔の提案にアリスは驚いたように彼を見る。


「お、そりゃいいな」

「私も同意見です。アリス先輩はどうですか?」


 意見を聞かれアリスはほほ笑む。


「もちろん私も同意見だ。今からとても楽しみだ」


 アリスは嬉しそうにサンドイッチを食べる。


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