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護国の鬼将

 チャイムが鳴り響き、同時に黒鉄が入ってきたので生徒は席に戻る。


「そんじゃ次は魔戦科の説明をするぞ。お前らは二年になって依頼を受けることができるようになった。今までは現三年生が同伴しないとできなかったがこれからはお前ら二年だけでも依頼を受けれる。そして後輩の教育のために一年生を連れていくことも可能だ。ヒーローたるもの後進の育成は重要だからな」


 帝校は実践を多く積ませるため高校在学時から仕事を受けることができる。

 それは企業との共同研究や大学病院への出向など、魔戦科は現役ヒーローと仕事をすることも可能だ。

 魔戦科を目指す生徒は魔戦科の先輩たちと仕事に赴き経験を積み実践経験を積む。界魔もそうして実践経験を積んできた。

 やっと自分で仕事選べると聞いて生徒たちはざわつく。


「ああ、わかってると思うが難易度C以上の仕事を在学時に一人で受けることは不可能だ」


 依頼は現役ヒーローと同じく上からABCDEと依頼難易度がある。魔戦科に来る任務は命の危険があるため基本C以上しかない。

 つまり必然的にチームを組むことになる。


「それで次が重要なことだ。基本ソロで戦っていた先生はこの言葉が嫌いなんだがあえていおう。……グループを作ってくれ」


 何かトラウマでもあるのか黒鉄の顔色は悪い。

 だが中等部から交友がある人が多いため、わりと簡単にチームが出来上がっていく。

 唯一の懸念は編入生のアリスだ。その美しさと派手な登場により誰も声をかけられない。

 なにより仕事は命がけで彼女の戦闘スタイルを知らないので誰も声をかけられないのだ。

 必然的に彼女が余ってしまう。界魔が声をかけようとすると。


「まぁそうなるか。では交流をかねて模擬戦でもどうだろう」

「どういう意味だ?」

「私は自分の背中を預けるにたるチームに入りたい。だからこの目でクラスメイトの実力を把握しておきたい」

「なるほどな。まぁ時間に余裕はあるし。一人ずつ交流を深めていくといい」

「いや全員同時だ」


 生徒だけでなく黒鉄も沈黙する。

 彼女の言葉の意味が理解できなかったのだろう。

 何を勘違いしたのかアリスは立ち上がり教室中の注目をあびる。


「この後は自由時間なはずだ。ヒーローを目指すなら一分一秒も無駄にはできない。だから私一人対きみたち全員で戦おうと提案してるのだ」


 一年間戦闘を積み魔戦科に入った生徒にとってアリスの言葉は侮辱に等しい。


「さすがにそれはなめすぎじゃないのか? これでも俺たちは一年間しっかりと戦闘訓練を積んできた。同期に負けるつもりはないが」


 竜の頭を持つ生徒がアリスに鋭い眼光を送る。

 だがアリスは気にも留めず許可を求めるように黒鉄の方を見る。

 黒鉄は少し迷ったあとため息をつく。


「いいだろう。許可しよう」

「なっ! 俺らが負けるっていうのかよ!」


 オウガが机をたたきながら怒り気味に立ち上がる。

 黒鉄は彼の言葉にうなずく。


「ああ。ヴラデュレアは編入試験で試験監督を完封した生徒だ。それに前の高校では戦闘科目はいつも満点だった。俺も試験の様子を見ていたがヴラデュレアは多数対一でも十分戦える力を持っている」


 試験監督は黒鉄のような元プロヒーローだった者たちだ。

 界魔ももちろん戦いプロの強さというものを身をもって味わった。

 攻撃を読まれ魔術の絶え間ない攻撃。ほとんど劣勢だったが魔戦科に入れたのは筆記試験の成績と最後まで戦う勇気が認められたからだ。

 試験監督を完封したアリスを界魔は興味深そうに見る。


「そういうことだ。ちなみに私は円卓の騎士である父を師匠に持っていた。この意味がヒーロー目指すきみたちにはわかるだろ?」


 円卓の騎士と聞いてクラスがわざつく。

 それはアーサー王伝説から取った、ヒーローの中のヒーローと呼べるほどの実力者たちだ。世界に十万人以上いるヒーローのうち二十六人しかいない。

 だが彼女の言葉は過去形だった。それが界魔の心に引っ掛かる。


「これでも何か異論があるなら一対一で相手をしてやろう。結果は見えているがな」


 よっぽど自身の強さに自信があるのだろう。

 だが円卓の騎士を父に持ち、試験監督を完封した彼女をこれ以上批判する人はいなかった。


「では放課後楽しもうじゃないか」


 これから多数と戦うとは思えない笑みを浮かべアリスは満足そうに席に座る。

 せっかくの新学期がただならぬ雰囲気で始まった黒鉄はため息をつく。


 それから教科書の配布、仕事の受け方の説明を受け放課後となった。

 界魔たちは魔戦科の生徒が主に使う訓練施設に来ている。

 訓練施設は広く設計され、一クラスの生徒など簡単に入る広さだ。

 なんならもうあと百人ぐらい入っても大丈夫そうな広さだ。

 床はコンクリートで周囲の壁も簡単に壊れないよう円形の魔術式が複数刻まれている。頭上はドーム状になり壁と同じような魔術式が刻まれている。

 そんな広い場所に一クラスだけ集まり界魔たちの正面にはアリスがいる。


 観客席にはどこから聞きつけたのかは知らないが、教師や生徒など結構集まっていた。

 新学年の魔戦科の実力を見るためか、それとも円卓の騎士の弟子であるアリスの戦いを見るためか、皆様々な思惑がありここにいるのだろう。


 アリスは余裕な表情でまだ魔装をまとってすらおらず緊張している様子もない。

 一方彼女以外は魔装をまといやる気満々なようだ。界魔も同じように魔装を着用しようとするがオウガが彼の肩に手を置く。


「戦う前に残り時間教えろよ」

「二分二十秒だ。今朝の戦いで四十秒だけ使った」

「どうせならフルでいきたかったんだけどなぁ……」


 実は界魔の魔装には弱点がある。それは時間制限があるということだ。

 魔装による人間の限界を超えた動きは彼の肉体を破壊する危険がある。その限界稼働時間が三分なのだ。

 今朝のロックベアとの戦いで使用したため使用時間は少なくなっている。

 それにオウガはがっくりと肩を落とすが。


「二分二十秒もあるんだ。俺とお前、いやこのクラスなら勝てるだろ。もしかして心配か?」

「誰に言ってやがる。こちとら代々トップヒーローを輩出する家だぜ。そんじゃ行くぜ。魔装顕現! 駆けろ、シルヴァリア!」


 オウガは足に履いた銀色のメタルブーツのかかとを床に打ち付ける。

 するとブーツから銀色の光があふれオウガを包む。

 それが収まれば白いジャケットと黒いズボンをまとった彼がいた。

 スピード重視の装備なのか防具は変身道具であるメタルブーツと肘まであるガントレット、あとは胸部を覆う白銀のアーマー。そして黒い額当てだけだ。

 だが彼の一族はこの装備で長年生き残ってきた。


 元々オウガの一族は江戸時代末期ヨーロッパから日本に来た騎士の家系だ。その戦闘センスから要人の警護や城下町の警備などをしていた。

 二百年以上も続く家系で時には円卓の騎士になる人を輩出する名家だ。


 そして界魔も魔装をまとう

 そんな彼の雰囲気にようやく興味が出たのかアリスが表情を変える。今までつまらなさそうな顔をしていたのにとても嬉しそうな笑みだ。


「ちらほらと骨がある奴がいるようだな。少々過小評価しすぎたようだ。さすが名門だ」

「だったら早く魔装をまとえよ。その姿で戦うつもりか?」

「それもそうだな。魔装顕現。罪を貫け、ツェペシュ!」


 首にかけていた十字架のネックレスを握り締めながらアリスは紅い魔装をまとう。

 ここで界魔は「ん?」と首を傾ける。アリスの種族と魔装の名前に何か引っかかることがあったのだろう。

 だがそれが何なのかうまく思い出せない。すると肌を突き刺すような圧が界魔を襲う。


「先生、早く始めよう。日本のヒーローの卵というのがどんなものか早く確かめたいんだ」


 アリスは両端に刃がついた槍を構え獰猛な笑みを浮かべる。

 相手は複数だというのに緊張の様子がまったくない。それに他の生徒は冷や汗を流す。


『じゃあルール説明だ。ルールは世界中でありふれたダメージ変換型試合だ。耐久値が半分を切ったら死亡扱いだ。ヴラデュレア、詳しく皆に説明してみろ』


 管制室からマイクで話す黒鉄の声が訓練施設に響く。


「魔装は使用者を守るために装着時に絶対防御の魔術が発動します。今回の試合ではその魔術の耐久値を数値化し半数を切ったら死亡扱い。このような説明でいいでしょうか?」

『いいだろう。じゃあお前ら魔装の設定をしろ。設定が終わったらこっちと大画面モニターにも表示する』


 黒鉄に言われ界魔は手のひらに円形の魔術式を作り出す。

 生身の人間であれば界魔は魔術を使えない。だが魔装は存在自体が魔術そのものであり、まとえば疑似的な魔力器官が生成され魔術が使用できるようになるのだ。

 術式を指でなぞり色々操作をすると、訓練施設の大きなモニターに彼の生徒手帳の顔と緑色のバーが現れる。

 オウガやアリス、他の生徒もモニターに映し出される。唯一界魔のものにはタイマーのようなものもあった。


『よし、じゃあ準備できたようだな。試合開始!』


 黒鉄の合図と訓練施設に備えられたブザーが鳴り響く。

 ここで二種類の人に別れる。

 一つは速攻型ともう一つは様子見型だ。

 速攻型は自身の速さに自信を持ち、一年次にはその速さを磨き続けこの魔戦科に入った。

 鳥をモデルにした魔装を着た三人の生徒がアリスに一瞬で肉薄する。それぞれ三方向からの攻撃で同時に防ぐのはどうあがいても不可能な見事な連携だ。


「我ら八咫烏(やたがらす)。円卓の騎士の弟子らしいが我らの速さには反応できないようだな。終わり――」

『チーム八咫烏死亡だ。自分たちの速さを過信したな』

「なんだと?」


 だがアリスは一歩も動かず三方向からの攻撃を無力化した。三人の足元からは血のように赤い槍が無数に突き出し三人の鎧をかすめたのだ。


「ツェペシュ、ヴラデュレア……。ルーマニアに円卓の父。まさかヴラド三世の子孫か?」

「誰だよそれ?」

「私の先祖だ。オスマン帝国から私の故郷であるルーマニアを守った英雄だ。調べればすぐ出てくるだろう」


 ヴラド三世など歴史好きでなければ知らないだろう。

 界魔の言葉で数人の生徒はぎょっとし、オウガのような歴史が得意でない生徒は疑問符を浮かべている。

 だがアリスの説明と一瞬で三人を制圧した強さに皆警戒心をあげる。


「さぁ次は私から攻めるとしよう」


 そういってアリスは槍を地面に突き刺す。

 その瞬間、彼女の足元から界魔たちに向かって槍が生えてくる。

 全員ばらけるように避けるが追撃するように槍が迫ってくる。

 ここで生き残れるのは彼女の猛攻を防げるだけの防御力を持つ魔装をまとう生徒と、追撃よりかも速く動ける生徒、そして空を飛べる生徒たちだ。


 だが空から攻めた竜の生徒は枝分かれした槍により落とされ、スピード自慢の生徒も逃げ場を防がれ脱落していく。

 防御力自慢の生徒も生き残るが手数でおされどんどん倒されていく。


 生き残ったのは界魔とオウガだけだ。

 界魔は頭上にあるモニターを見る。残り時間は一分だ。

 すると未だ無傷のオウガが隣に並ぶ。


「さてどう攻めるよ。まともに近づけねぇしこのままじゃ俺らの負けだ」


 アリスはまだ余裕がある。

 それに対し界魔は時間制限がある。

 ドライグにヒーローになると約束し少しずつ目標に近づいてきた。こんなところで負けるわけにはいかない。


「リミッターを外す。だから三十秒で決めるぞ」

「はは、そうこなくちゃ。んじゃ先に行くぜ! 《銀狼》!」


 オウガはステップを踏み魔力を足にまとわせる。すると彼の履くメタルブーツやガントレットが形を変える。

 ガントレットは防御を捨て鋭い爪のようになる。ブーツも形を変えサメ肌のような細かい刃がついた靴へと変わる。

 彼の一族は古来から銀を操る魔術にたけている。鎧を剣に、剣を鎧に変えるなど彼らには簡単なことだ。

 さらに魔力で自身の身体能力を底上げすることもできる。

 そして界魔は自身の肩を鍵剣で斬る。それにより鎧に小さな傷ができる。


「解錠しろ。ヨグトース」


 ヨグトースは封じる以外にも逆に解放することができる。例えば彼がまとう魔装のリミッターを解除することなどだ。

 界魔の鎧にあった赤いひびが大きく広がり全身に広まる。

 魔力が全身からあふれるその姿を見てアリスは感心するような声を出す。


「本気、というやつか。失望させるなよ! 《紅の庭園(ローズグラディナ)》」


 槍を地面に突き刺すと足元に円形の魔術陣が作られる。そして早送りした植物の成長のように周囲に鋭い槍が生え枝分かれする。アリスの周囲には柵のように槍が生え、外に行くにつれ鋭い槍が生えている。

 まさに攻守一体の構えだった。


「「上等!」」


 だが界魔とオウガはまっすぐと突き進む。


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