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ダイナミック登校

 それからすぐ捕獲部隊が来た。ロックベアは専門の業者に引き取られトラックの荷台に乗り、界魔をじっと見つめながら去っていく。

 それを界魔は手を振りながら見送る。


 姿も見えなくなりようやくひと段落し界魔はスマホを見る。

 腐れ縁の幼馴染であるオウガから連絡が来ていて、どうやらクラスは二年一組なようだ。

 あと始業式が終わったと。

 一応マリアから先生に連絡がいっていたおかげで先生も怒っていないようだ。

 だがクラスのオリエンテーションには連絡事項などもあるため参加したいところだ。


 界魔はスマホの時計を確認する。今の時刻は九時二十分だ。

 春休み前にもらったプリントでクラスのオリエンテーションの開始時間は九時半からで、アプリで現在地を見る。

 結果どれだけ急いでもオリエンテーションの途中で教室に入ることになると結論が出た。

 新学期早々不運だなと界魔はため息をつく。


「では行くとしよう。この時間ならオリエンテーションには間に合うはずだ」


 だがアリスはまだ間に合うと言い界魔は呆れたように彼女を見る。


「どれだけ急いでも無理だって」


 一応ここからでも山の上に建つ学校そのものは見えている。

 だがそこに行くには川を越え住宅街を抜け、山を登らなくてはならない。

 編入生であるアリスは土地勘がわかっていないため間に合うと言ったのだろう。

 だが諦める界魔に対しアリスの目は諦めていない。


「私が間に合うといったら間に合う」


 そういってアリスは右手を広げる。すると背中にこうもりのような赤い翼が現れた。

 まさかと思ったのもつかの間、界魔はアリスに手を握られる。


「では空の旅といこうではないか」

「確かに間に合いそうだけど心の準備が――」


 ヨグトースをまとった状態では跳躍はできるが飛行はできない。

 ましてや生身の飛行など人生初経験だった。

 覚悟を決める前にアリスは界魔の言葉をさえぎり翼を羽ばたかせ飛翔する。

 あまりの高さに言葉を失っているとアリスが界魔の手を自分の腰に回す。


「しっかり捕まっていろ。時間ギリギリだから最高速度で飛ぶ」

「だから心の準備が!」

「そんなもの気にしていては遅刻するぞ。ヒーローを目指すならばすぐに覚悟を決めろ。では行くぞ、界魔!」

「だから待っ――!」


 空を飛ぶ覚悟の次に女性の腰につかまれという覚悟を求められる界魔。

 色々混乱するがここで手を離せば地上に真っ逆さまだ。

 さすがに怖くなり覚悟を決めようとするもその前にアリスは翼を羽ばたかせる。

 界魔は急いで腰を掴む腕に力を込める。女性特有の柔らかさや温かさを感じるが猛スピードで飛ぶため風の勢いの方が強い。

 だが眼下には地上からでは絶対見えない景色が広がっていた。

 住宅街をすぐに抜け標高三百メートルの山を空のルートで登っていく。


「生徒は毎朝この山を登っているのか。大変だな」

「それが日々の体力作りにもなるんだよ」

「なるほど。では私も明日から徒歩でのぼるとしよう。しかしこの山が魔獣の躯のあととはな。剣豪宮本武蔵、すごい剣士だ」

「知ってるのか?」

「ああ。私の故郷でも宮本武蔵は有名だ。山斬りの武蔵という異名もあるらしいな」


 自国の英雄が褒められ界魔は嬉しそうに笑みを浮かべる。

 実は帝校は魔獣の躯の上に建てられた学校なのだ。

 江戸時代初期まで東京の真ん中に山などなかった。

 だが大阪の陣から一年後東京湾から山のように大きな魔獣が現れ江戸で大暴れしたのだ。

 初代将軍家康は軍を率いそれの討伐に当たった。

 なかでも一番活躍したのは武者修行中だった宮本武蔵だ。

 人間である彼は魔装をまとい、城を簡単に粉砕するような魔獣に勝利したのだ。

 だがその躯はあまりに巨大すぎるため簡単に処理できなかった。

 というより他の魔獣が近寄らないメリットなどを考え、人々は魔獣の躯の周辺に再び街を作ったのだ。

 その後、家康は魔獣を討伐するための帝魔塾を設立しこれが学校の元になった。

 アリスたちはその魔獣の上を飛び校舎の全体が見えてくる。


「広いな。さすが日本有数の名門校だ」


 アリスは感心したように声をもらす。

 東京帝魔学校は中等部もある学校だ。

 ヒーローを育成する学校は国内でも五校しかないため校舎数が多く生徒数も五千を超える。

 学科は五つに別れている。

 戦闘を得意としプロヒーローを育成するための魔戦科。

 ヒーローが使うための武具を製作する魔装科。

 魔術と医学の勉強をする医術科。

 軍の指揮官になる者を育成するための魔導科。

 魔術使用に関する法律を学ぶ法魔科。


 界魔がいるのは高等部一年次に選択できる魔戦科だ。

 ちなみにクラスは全十二クラスのうち二クラスしかない。


「そういえばアリスは何科の何組なんだ? 俺は魔戦科一組だ」

「まったく同じだ。しかしかなり広い敷地だな。どこが私たちのクラスだ?」

「じゃあ案内するから俺の言う通り飛んでくれ」


 生徒数が五千人以上もいる学校で学科によりいろんな建物があるのが帝校の特徴だ。訓練施設や病院、研究施設など他に学校らしく食堂もある。

 初見で迷うのは当然の敷地面積だった。だが界魔の案内で無事高等部にはつく。

 するとチャイムが鳴り響いた。

 学校の一番高い建物に備え付けれた時計を確認するとちょうど九時半だった。

 もう間に合わないかと思っていると正面の教室から何かが反射するのが見えた。

 教室の中を見ると狼のような耳を生やした銀髪の青年が手鏡を持ち必死にアピールしていた。


「あそこが俺らの教室だ!」

「そうか。では突っ込むぞ」

「は?」


 アリスは驚く界魔の手を引きはがしお姫様抱っこのように抱える。

 何をするのかと冷や汗を流した瞬間彼女は教室の方に突っ込んでいった。

 窓は閉まっていて教室にいた銀髪の青年が慌てて後ろ側の窓を開ける。

 開いた窓にアリスはそのまま突っ込んだ。

 同時に担任らしき長い黒髪が特徴の若いエルフの男性が入ってくる。

 先生は教室の注目を浴びるお姫様抱っこされた界魔と、彼を抱くアリスを困惑した目で見る。


「何をしてるんだお前ら?」

「ちょっとした戯れです」

「そ、そうか。とりあえず席につけ」


 真っ赤な顔を手で覆う界魔のために担任の先生は何も聞かない。

 だがその優しさが彼の顔をより真っ赤にした。

 それから皆教卓の方を見て担任は黒板に自身の名前を書く。


「これからお前たちの担任になる黒鉄政宗だ。歳は七十六、種族は人間交じりのエルフだ。教師になって三十二年、それより前はプロヒーローとして戦っていてヒーロー名は刀狩り。名前の通り趣味は刀剣集めだ」


 魔人は人間とは寿命が違う。日本で一番長寿な魔人で千年以上生きている魔人もいるほどだ。

 そのため生徒は特に驚かず静かなままだ。


「じゃあ出席番号順で定番の自己紹介といこうか。そうだな、種族と趣味、好きなものとかでもいい。ヒーローたるもの親しみが必要だ。皆の心をつかむような挨拶を頼むぞ」


 それから一人ずつ自己紹介をしていく。竜人や鬼、人狼など様々な種族がいる。

 だが先ほどのことがあり界魔はほとんどが頭に入らず、背中をつつかれてはっとする。

 どうやら彼の番なようだ。自己紹介の文など何も考えておらずとりあえず立ち上がる。


「真田界魔、です。見た目は人間だけど一応九尾の狐と雪女の血、人間の血も流れてます。俺は先祖返りらしいです。趣味は料理で基本なんでも作れます。これからよろしくお願いします!」


 クラスメイトなのになぜか敬語を話してしまう。

 先ほどのことがまだ尾を引きまだ緊張しているのだろう。

 界魔はそのまま席に着き机の上に肘を置き手の平に顎を乗せ窓の外の方を見る。新学期早々やらかしたなと彼の心は曇っていた。

 後ろの方からは腐れ縁の幼馴染の笑いをこらえる声が漏れてくる。

 界魔が姉と姿が全然違うのは流れる血にある。父方が九尾の家系だが人間の血が多く入り込み、母方の方にも人間の血が混じっている。

 結果、界魔は人間の遺伝子が強く発現し魔力器官を持たないのだ。

 そして今度はアリスの自己紹介となった。


「ルーマニアから来たアリス・ヴラデュレアだ。種族はドラキュラだ。趣味は音楽鑑賞とゲームだ。日本に来たからにはフォルテのライヴに行きたいと思っている」


 フォルテとは日本で有名なアイドル系ヒーローだ。

 まだ高校生なため正式なヒーローではないがテレビや雑誌にも取り上げられている。

 高貴な雰囲気からは以外、アリスはアイドルオタクだった。よく見れば彼女のかばんにはフォルテの象徴である黒い羽根のストラップがあった。

 そんなフォルテのファンだと聞いて二人の生徒がびくりと震える。

 それから自己紹介が終わり休憩時間となった。

 皆席を立ちスマホをいじったり友人のもとへ行ったりする。

 界魔は後ろを見て腐れ縁の幼馴染であるオウガの方を見る。

 彼も身長が伸び髪は背中まで伸ばされ首らへんでゴムでしばっていた。


「マリアから聞いたぜ。ロックベアと鬼ごっこしたらしいな。ていうかなんで編入生とあんな登場の仕方したんだよ」

「それは遅刻しないためだ。君は確か……」

「俺はこいつの腐れ縁の幼馴染オウガ・シルバーだ。ま、これから仲良くやろうや。しっかしあんな登校するとは、かなり面白かったぜ」

「ふ、そうか。ならばよかった」

「俺は恥ずかしかったよ……。ただでさえ目立つのにこんな目立ち方はしたくなかった」

「君は有名人なのか?」

「まぁある意味有名人だな。クラスの連中見てみろよ」


 オウガに言われアリスはクラスメイトを見る。

 皆去年からの関係からかグループを形成していて新学期とは思えない雰囲気だ。中高一貫のため顔なじみばかりなのだろう。

 そしてアリスは何かに気付いたのか目を細める。


「人間がいないな」


 アリスの言う通りこのクラスには界魔以外人間がいなかった。

 だがそれも当然のことだ。魔力器官がない人間はヒーローに向いていないのだ。

 一応それを補うための魔装があるが魔術を使えないのは大きなデメリットだった。

 それでも夢を諦めずヒーローを目指す人間の学生はいる。だが進級時の学科選択における実技試験で落とされるため人間は必然的に少なくなる。

 現役ヒーローでも人間は全体の一割もいない。


「そういうことだ。こいつは魔戦科っていう高倍率の試験を人間の身で突破した期待のエースなんだよ。まぁ補欠ギリギリだけどな」

「そ、それは言うなよ!」

「私の一撃を止めておいて補欠か……」


 アリスは界魔と武器を合わせたときのことを思い出す。

 魔装をまとっていたとはいえ彼は人間の身で魔人の一撃を止めたのだ。


「その魔装いったなんの魔獣から作られたものなんだ?」

「あぁ、それは……」


 界魔が答えようとするとチャイムが鳴り響く。


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