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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第六章 隠居と黒猫
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4 マイクルレース場


 音楽映像撮影会が予定より早く終了したが、撮影担当が早速編集作業に入りたいと言い出したので帰還することになった。


 だが、オレは今度はボーディが乗ってきた移動用クラフターに押し込められた。


「オレもあっちと一緒に帰る」


「たまには付き合いなさい。せっかくユーリ捜査官の真似をしているのですから、このままマイクルレース場に参りましょう。割と近くにあるのですよ。ローゼスもどうですか?」


「え、何、もしかして明日の大レース会の招待状を持ってるの?あたし、御一緒してあげるよ!」


 ローゼスではなく姉御が食いついてきたが、マイクルレース場と言えば、姉御は何かの禁止措置を受けていなかったか?ボーディも冷たく言った。


「クレア捜査官のレース出場禁止措置は解けていませんよ。個人活動中のことにも関わらず、何故かわたしまで呼び出されて厳重注意を受けたのですから、連れて行けません。時事情報放送の特別枠で即時放送されますから、そちらで楽しめばいいでしょう」


「臨場感が違うじゃん!えー、いいな、いいな、そう言えば、前局長とユーリ捜査官は優勝経験ありだよね」


「ええ、もう100年以上前のことになりますね。なので、クレア捜査官が燃える気分はわかるのですが、優勝するには冷静さと理性が最も重要です」


「技量もだろ。オレは何故か、移動用クラフターの操縦資格すら持っていないのだが」


「その方が良いでしょう。クレア捜査官ほどではありませんが、ユーリ捜査官もえぐい操縦をしてわたしの理性をゆさぶってきましたからね。優勝した後でまずやったことは、奴を締めることでした」


 まさかそのせいで、祖父さんの孫のオレに操縦資格を取らせないように手を回していたのだろうか。

 オレは祖父さんがレースで優勝経験があるというのも初めて知ったくらいに興味が無かったが、オレがクラフターに興味を持たないよう情報制限でもしていたのだろうか。


 どうしてもついて来たそうな姉御を、ローゼスが大型クラフターに押し込めに行った。

 オレが逃亡する隙も無く、ローゼスがボーディのクラフターに乗り込んだらすぐに出立したので、諦めて祖父さんのことについて聞いてみたが、情報制限まではされていなかったようだ。



 マイクルレース場では、一年に一度、移動用クラフターの大レース会が開催される。


 旧世界では、自動車レースというものがあって、一定距離を走り抜ける速度を競ったり、障害物の多い自然の土地を走り抜ける技量を競ったりしていた。


 旧世界の自動車は地上しか走らず、空飛ぶ車は映画とか想像の世界にのみ登場するものだったようだが、この世界の移動用クラフターは地面と一定距離を取って空中に浮かんでいるし、制限解除すればある程度高度を上げることも可能だ。

 だが、安定した走行を維持するためには、クラフター本体に組み込んだ機能を駆使することになるし、一定以上の操縦技術も必要になる。


 クラフター関係技術の開発と向上と操縦技術の訓練のため、旧世界のようなレースを開催して競い合ってはどうかという提案があって、建設されたのがマイクルレース場である。

 一定の目標がある方が張り合いがあるという発想で、一年に一度、クラフターの性能と操縦技術を競い合う、大レース会が開催されている。


 大レース会は世界管理機構主催の公式レースであり、優勝者はもちろん上位に入賞すると褒賞の対象となる。

 初級・中級・上級と技量に合わせてコースが設定され、難易度の高い難関コースや、クラフターの機能をぎりぎりまで駆使しないとならない最難関コースまである。


 オレは時事情報放送で結果が放送されているのは見たことがあるが、興味がないので基本事項しか知らなかった。


 祖父さんにレースの映像を見せられた記憶もないが、祖父さんとボーディは最難関コースで優勝したそうだし、そのときに何かやらかしたことを孫には秘密にしようとしたのかもしれない。

 これも知らなかったが、父さんも同じ大会の難関コースで優勝していたそうだ。


「祖父さんはともかく、父さんまでとは思わなかった」


「フォウは世界研究局自然環境課の新人として難関コースに出場したのです。職務参加でしたが、ユーリ捜査官に切れてついかっ飛ばしてしまったのでしょう」


「新人で職務参加?」


「あんた全然わかってないわね。お仕事柄、どうしてもクラフターの操縦が上手くなる職務ってあるじゃない?そういうとこには技量見せてもらいつつ、レースを盛り上げて貰おうってことになってるのよ。

 自然環境課だと、自然区でお仕事するから、クラフターの制限解除は当たり前だし、調査地に向かうだけでも訓練になって技術が磨かれるわ。でも、その職場で一番上手い人を投入されると優勝を掻っ攫われて面白くならないじゃない?だから、基本的に新人さんが出場するのよ。

 ほどほどに技量を見せてくれれば、上位に入れなくても、新人だし今後に期待ってことでいい感じにおさまるから、賑やかし担当みたいな感じね」


「そうですね。フォウはユーリ捜査官に旅行に連れ回されていたので、クラフターの操縦技術はかなりのものでした。その腕前を見込まれて研究局の自然環境課に誘われたようです。

 フォウはAIへの適性はありませんでしたが、ユーリ捜査官に連れ回されたおかげで旧世界の遺跡にも慣れていましたので、デルシー海洋遺跡の研究の職務に就いたのですよ」


「父さんがデルシー担当だったことはリック博士とデルシーの支配人に聞いたが、そもそもはクラフターの操縦技術の方だったのか。やはり、オレも資格を取った方が」


 職務上必要だと主張しようとしたのだが、ボーディに遮られた。


「おやめなさい。三代揃ってえぐい操縦で周囲の理性を振り回されては困ります」


「まさか父さんもなのか?そう言えば、祖父さんに切れてかっ飛ばしたとか言っていたが」


「仕方ありません、わたしにも責任が無いとも言えませんのでお話しますが、ユーリ捜査官は息子が難関コースに出場すると聞いて、心配で鬱陶しく訓練を覗きに行っていたのです。怪我人やときに死者も出るので、気持ちは分かりますけれどね。

 フォウはいい加減鬱陶しくなったのか、訓練も大レース会も見に来るなと厳しい態度を取ったので、ユーリ捜査官は引き下がりました。そしてわたしを誘って最難関コースに出場することにしたのです」


「ねーえ、ボーディ。アタシ、どこが引き下がったのよって突っ込まざるを得ないわ。まあね、見に来るなとは言われたけど、参加するなとは言われてないけどね。そこで何で最難関に出場しちゃうのよ」


「予選にぎりぎりねじ込めたのが最難関だけだったのですよ。なお、フォウには当日まで隠していたのですが、当日にはさすがにばれてしまって、フォウは鬱陶しい父親に切れてかっ飛ばしたのです。フォウはいい子だったので、当たり散らすような真似はせず、すべてをクラフターにぶつけたのでしょう」


「確かに祖父さんは放任主義のように見せかけて、鬱陶しいよな」


 同意なのか、監視猫もにゃあと鳴いた。だが、ローゼスが横目で睨んで来た。


「アタシ、ユレスのお父さんのことは知らないけど、あんたみたいな子だったら、鬱陶しくせざるを得なかったと思うわ。それで、もしかして、ユーリ捜査官とボーディは、それに対抗して優勝しちゃったわけ?」


「父としての信頼を取り戻すためには優勝せねばならないと迫られて、仕方なかったのです。結果として、ものすごい燃えるレース展開だったせいで、翌年にもその情熱が受け継がれてしまったのか、無謀な操縦をして事故を起こしたり、失格になる人が続出しました。

 最難関コースは一時期中止になりましたし、以後は10年おきに開催することになったのです。10年も経てば、一度熱も冷めて落ち着くだろうとね」


「今年は10年に一度の最難関があるわよね?」


「ええ。ですから、ユレスのその変装を見たら、連れて行ってあげなくてはと思いました」


「三代揃ってえぐい操縦をされることを警戒するなら、オレを連れて行ってはいけないと思うんだが。レースを見てオレがクラフターに情熱を燃やし始めたらどうするんだ」


「わたしも葛藤したのですが、これもユーリ捜査官のためと思って割り切りました。マイクルレース場を背景にして、わたしとユレスの映像記録を撮って見せてみましょう。在りし日々を思い出して、危機感から精神が回復するかもしれませんし」


 確かに祖父さんの精神状態を回復させるには、思い切った方法が必要かもしれないとジェフ博士にも言ったことがあるが、何をどうすればいいのかは思いつかなかった。


 祖父さんの状態が良くないという話は、ボーディも聞いているのだろう。


 オレは最近、祖父さんに会いに特別療養所に行く回数を増やしているが、それも把握していて、あまり思いつめないように息抜きさせようと思ってオレを連れ出したのかもしれない。


 ボーディの配慮だと受け取って、大人しくマイクルレース場に行くことにした。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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