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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第六章 隠居と黒猫
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3 音楽映像撮影会


 旧世界管理局が所在する人工湖を囲む森林地帯を抜けて、しばらく行った先に、見晴らしのいい高台がある。

 人工湖を警備する警備局の詰所兼監視所もあるし、旧世界管理局の職員も遺物も使用した防護警備装置の点検のために来るので、割と皆に馴染みの場所だ。


 オレたちはここでボーディと待ち合わせをして撮影を行うことになっていたが、警備局と旧世界管理局が合同制作した防犯映画の追加映像の撮影ではない。

 防犯のための作品として制作しつつも、デルソレの大事故の映像を背景にしたバトルドレスによる暴徒制圧映像も盛り込んだ超大作は、すでに火宴祭の新作映画審査委員会に提出されている。


 この世界で制作された新作の映画作品のほとんどは火宴祭で初公開されるが、あちこちで派手に映画撮影をしていたのを知っている人は多く、異色ながら期待の作品と言われているようだ。


 あと数日で新作映画が一斉公開されて、生活区のあちこちでバトルドレスを着た警備局長とクレア捜査官が派手に映し出されることになる。

 最近は不穏な事件が続いたり、失踪者が出ていたりもするので、防犯効果を期待したい。



 準備完了したと呼ばれて配置について、今から撮影されるのは、音楽映像作品だ。


 制作途中で止めて未完成であった、旧世界の<私たちは世界だ>を再現した歌を完成させる計画に着手したボーディは、雄大な自然の映像を背景にした音楽映像作品として制作することにした。


 映像作品にしたのは、旧世界の言語で歌う前半部分について、今の世界の言語で翻訳した歌詞を映像に添えて、そのメッセージを伝えたかったからだ。

 今の言語で歌う後半部分の歌手は、旧世界管理局の中から選りすぐりの人材を集めた。ボーディ前局長はいまだに影の権力者なのである。デルシーの専属職員まで呼び寄せているあたりに本気が窺える。


 本日は、個別に練習してきたり、少人数で集まって練習してきた歌手たち全員を集めての撮影会になったわけだが、これもボーディの拘りである。

 個別に音声情報を取得して編集すればいいと思うのだが、それでは一体感と統一感を得られないらしい。この世界の雄大な自然を音楽映像の背景に採用したいのと、大自然を前に歌うという臨場感を出すために、この場に計画に参加する一同を集めた。


 オレは歌わないし撮影担当でも無いのに連行された理由は、猫である。


 にゃあを作品全体に散りばめて旧世界と今の世界とを繋ぐというボーディのとんでもない発想は、誰も突っ込まないどころか賛同が得られたそうだ。

 議論はあったと聞いてほっとしたが、一番熱い議論はどこでにゃあを入れるかだったと聞かされて、オレはおかしいと思った自分の感性の方を疑わねばならないのかと密かに悩んでいる。


 オレは、にゃあは却下されたから、練習に参加しろと言われずにすんだのだとばかり思っていたが、にゃあのタイミングについては、猫任せにして本番で合わせればいいという結論になったそうだ。


 どうせ、ワトスンがにゃあと鳴くだけだから、練習はいらないでしょとローゼスに言われたが、妙な大任をぶん投げられたオレに身になってみろ。オレは投げられたのはワトスンだと割り切って、猫に投げるが。


 ボーディが注目を集めて言った。


「それではよろしいですか、皆さん。今から予行練習くらいの軽い気分で一度通してやってみますから、気楽に挑みましょう。ユレス、いいですか」


「ワトスン」


 オレの腕輪から立体映像で飛び出て来た子守猫がにゃあと鳴いたが、何故かやる気に満ちている気がする。監視猫もやる気らしく、オレの肩上でぴしっと座り直した。


「よろしいでしょう。いいですか、ワトスン、いつも通りでいいのです。世界が平和だとあなたのマスターも平和に過ごせますからね。子守猫としての重大な使命と思って、世界平和のために鳴いてくれることを期待します」


 にゃあと返事したから、オレはもう投げておくことにした。そして、ボーディの相棒が歌い始めた。


 ジェフ博士も絶賛するだけあって、見事な歌声だ。

 旧世界の歌詞だが、ある程度は理解できる旧世界管理局の職員は何を訴えているか何となく分かる。


 これは、私たちはすべて世界の一員であると、だから一つに繋がろうと歌う歌だ。


 もしかしたら子守猫もこの歌を、旧世界で流れていた歌を、実際に聞いたことがあるのかもしれない。練習に参加もしていないのに、見事に合いの手を入れるかのように、にゃあにゃあ鳴いた。

 監視猫もときどき子守猫に寄りそうように、にゃあと鳴いているが、まさか猫どうしで練習でもしていたのか?


 前半の終わりが近づいて、ボーディが完璧!というような合図をしてきたが、姉御とローゼスを含む後半の歌手たちも奮い立ったらしい。

 任せなさいよ!という合図して来たが、オレではなくワトスンに言え。


 ボーディの相棒が歌い終わったところで、子守猫が大きくにゃあと鳴いた後、乗りに乗った姉御が最初の一節を歌った後に次々に続いて行き、ワトスンたちもにゃあにゃあ鳴きまくった。


 何故だろう、混沌としているのに、環境効果のせいか、そもそもの曲と歌詞の良さのせいか、普通にいい楽曲に仕上がったような気がする。

 最後のにゃあと楽曲の余韻が消え去った後、しばらくの沈黙の後で、うわーと歓声が上がったし、ボーディが興奮して言った。


「素晴らしいですよ、完璧です!!わたしたちの歌とにゃあが一つになった最高の作品となりましたね!!」


「アタシ、胸が熱くて、歌詞が震えちゃったわ。ええ、最高!なんかもうこれでいいんじゃないかしら。だって、またやり直しても、この新鮮な感動が薄れちゃいそう」


「あたしも今のでいいと思うよ。にゃあの余韻とあたしの第一声が綺麗にはまったと思うんだよね。次もここまで完璧に行けるかどうか自信ないし」


 子守猫のワトスンがオレを見ているので、立体映像だが撫でたら、にゃあと鳴いて腕輪に飛び込んだ。監視猫もすり寄って来るので撫でておく。


 実は詰所の警備局も警備しつつオレたちの音楽映像撮影会を見ていたので、感動したとか素晴らしかったと感想を言ってくれるものの、全体的に感想に、にゃあという単語が混じってくるので、あちこちでにゃあにゃあ言っている混沌とした現場になった。


 オレの肩の上からそれを眺めて、黒い子猫がにゃあと鳴いた。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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