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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第六章 隠居と黒猫
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2 自然区


 姉御は文句を言っていたが、大型クラフターが動きだしたら諦めたのか、オレに絡み始めた。


「ユレス、服の趣味でも変わった?それとも男でもできた?自然区に出るからってことで、ちゃんとした装備にしたのは褒めてやるけど、明らかにサイズ合ってないのを着てるとねぇ」


 にやにや笑ってる姉御に、ローゼスが冷たく突っ込んだ。


「姉御ったら、暇ねぇ。アタシは虚しい突っ込みをしたりしないわよ。それに、分かって言ってるでしょ」


「そりゃもちろん。ユーリ捜査官愛用の外套じゃん。何回か作り直してるはずだけど、同じデザインにするあたり拘りかと思っていたら、単にものぐさなだけだったよ。あたしが新人の頃にこの外套を着たユーリ捜査官に庇われたことあるけど、かっこよかったね。ユレスは着られてる感じだけど」


「オレもそう思うが、昨日祖父さんの療養室に行ったときに警備局のばばあに会って、今日は自然区に連れ出される予定と言ったら、祖父さんのクローゼットからこれを取り出して、着て行けと言われた。防護効果が高いらしい。オレ用に今から特注しても間に合わないと」


「んもう、ただ撮影に行くだけなのに、どんな危険地帯に冒険に行く予定にされたのかしら。まあ、備えておいた方がいいとは思うわ。ユレスはうっかり落ちるかもしれないしね」


「うーん、他にも装備させとくか。あ、そうだ、予備の防護グラスがあるからあげる。あたしにはちょっと華奢過ぎたけど、ユレスにはちょうどいいだろ。それにあんたの目の色だと外の光がきついかもしれないしね」


「そうね。外套のフードも被せておいた方がいいわね」


「それ、旧世界的迷信だろ。旧世界と今の世界は世界の光源も違うし、人の身体も進化してるのに、祖父さんも割とうるさかったけどな」


「そりゃ経験がそう言わせたわけじゃん。どっちにしろ、自然区の方が光が強いのは本当だから、生活区ですらほとんど出歩かないユレスが自然区に長時間出ていたら、光がきつく感じるよ」


 旧世界では太陽光という別の世界の光が光源だったりエネルギー源だったわけだが、別の世界の光だからか旧世界の人の身体に悪影響を与えることもあったという遺物資料が見つかっている。

 太陽光から体を保護するための身体の自然な防御反応で、肌の色が黒くなって光を吸収して悪影響を最小限に抑えたようだ。太陽光が強く影響を与える地域では人は黒い肌の色で生まれていたあたり、自然の調節機能は優秀だと思う。


 旧世界の終末期になると人は世界中の至る所に移動していたが、肌の色が白い人たちが太陽光が強い地帯に行くときは、体が痛まないよう防護措置が必要だった。

 オレのように色素が薄い場合は、帽子や外套のフードを被ったり目を保護する必要もあったらしい。


 この世界では大気自体が発光しているし、人の身体もそれによって害を受けることはないと確認されているので、色素が薄いと光に弱いというのは、オレは旧世界知識を知るがゆえの旧世界迷信だと主張したい。


 ただ、姉御が言うように、普段外に出ないと外の光がきつく感じるというのも事実である。


 この世界で開発された装置類は、明時間に大気の発する光を取り込んで稼働動力源にしているし、暗時間の動力源とするために光を吸収して蓄積している。だから、装置類の多い施設内ほど、空間に満ちる光量が少なくなる。

 暗時間の生活区を照らす照明具も明時間に光を吸収しているので、自然区から生活区に入ると光が弱くなったと感じるし、逆に生活区から自然区に出ると光が強いと感じる。


 オレは滅多に外を出歩かない生活をしているので、素直に防護グラスをつけることにした。

 ローゼスがせっかくだから髪型もいじると言い出し、結局他の職員たちにも寄ってたかっていじられて、目的地に到着して大型クラフターから降りた時には、変装が完成していた。



 目的地で待ち合わせていたボーディ前局長が、オレの姿を見て感想を述べた。


「ユーリ捜査官を真似したのでしょうが、どう見ても子どもが背伸びしたようにしか見えませんよ。見覚えがあるというか、フォウがときどきこういう恰好をさせられていたのを思い出しました」


「あら、そうなの?フォウってユレスのお父さんのことよね」


「ええ。ユーリ捜査官とは髪色しか似ていないと言ったら、似たような服を着せて親子を演出していましたね」


「祖父さんは割と見た目から入るよな」


 亡き父の記憶は多くは無いが、祖父さんと正反対の性格だったのは覚えている。祖父さんが言うにはオレは祖母さん似らしい。父とオレは髪色も似ていないが、少なくとも服装をお揃いにして親子を演出しようとはしなかった。


 姉御がどうせなら祖父さんっぽい髪色にしようと言い出したので、今のオレは祖父さんと似たような髪色になっているわけだが、祖父さんと父さんは髪色だけは似ていたとなれば、ボーディが祖父さんより父さんの方を思い出したのも納得だ。



 撮影準備をしている間、オレは前局長のおもてなしをしろと言われて、並んで椅子に座って自然区の景色を眺めることになった。

 引退して隠居したことになっていても、旧世界管理局の影の権力者はいまだにボーディなのである。


 人生300年を超えても局長の座に君臨し続ける強烈なばばあもいるが、250年もしたら職務の第一線を退き、役職を後進に譲ることが一般的である。


 200年ほど生きたら、今までの人生を振り返って身の回りを整理しつつ、今の体での人生体験を終わらせて新たな人生を始めたくなる人が出て来る。


 旧世界では人生の終わりである死は恐ろしいものだったようだが、この世界には、魂は不滅で何度も世界で人生体験を繰り返すとする世界進化論の概念が浸透しているので、死は新たな人生への旅立ちと解釈されている。

 遺される者は、その死を悲しむより、新たな人生への旅立ちを応援する方が健全だというのが一般的な考えだ。


 ゆえに、世界管理局は人生200年を超えた人たちから申し出があった場合、職務を辞して長老会に所属し、今までの職務経験に応じて要請があったら臨時で職務につけばいいように配慮する。


 人生250年を超えると、旧世界で言うところの老害のように、新しい発想を受け付けず今までのやり方に固執して組織の運営と発展に害をなすことがないよう、次の世代に役職を譲ることを推奨される。

 世界管理局は職務を配分せず、長老会に移行するよう手配するのが基本だ。


 ポーラ女史は順当に引退して長老会に所属しているが、教育指導担当として臨時の職務を依頼されることが結構あるし、長老会に移行したとしても、完全に職務から離れる人は意外に少ない。


 もちろん例外もあって、当人の意志と職務関係者の要望によって300年を超えていようが、第一線で活躍するジェフ博士とベルタ警備局長のような人もいる。

 同等の職務がこなせる人材がいない場合、世界管理局は世界全体のためにその職務への残留を依頼することになる。


 ジェフ博士の場合は、旧世界遺跡の経験も知識も豊富過ぎて、博士が参加するだけで調査の危険度が各段に下がるとすら言われているからだ。

 調査隊の指揮や采配も上手いので、後任が育つまで職務を継続して欲しいという声が多いし、当人も仕事するのが好きな人なので現役で働いている。


 ベルタ警備局長に関しては、当人の意志もあるが、鋼の女と同等の実力を持つ後継者が見つからないからだ。警備局の職員からの信頼度も高いし、個人活動の時間でも性犯罪をする男どもを指導して回って生活区の治安維持に尽力しているので、人々からの支持も高い。

 実力と実績も十分過ぎるので、鋼の女が引退した場合、犯罪発生件数が激増するかもしれないと予想する人すらいる。鋼の女はいるだけで防犯効果が高いのは間違いない。



 旧世界管理局のボーディ前局長は惜しまれつつも、250年超えたわけだから隠居しますと言って引退した。


 旧世界映画では、現役を退いて相談役とか助言者的な立ち位置で若者を導く、賢者とか長老とかご隠居という類の役が出てくるものがあるので、自分でもやってみたくなったらしい。

 そのための<菩提樹>だし、目的は達成されていると思うが、いつも忙しそうなので、隠居ではないと思う。


 遺物管理課の遺物映画専門の管理官の分類では、ご隠居というのは、交流をほとんどせずに静かな日々を送っているのが基本らしいからな。


 ボーディがお気に入りの旧世界映画に出てくるご隠居は、孫のお守をしながらまったり風景を眺めていたが、もしかして、オレは今その再現に付き合わされているのだろうか。

 おもてなしをしろと言われたが、お茶を注いでくれたりお菓子をくれるのはボーディだし。

 

 監視猫もオレの膝の上で丸まってのんびりしているし、自然区の光景を眺めながらの平和な時間だから、たまにはいいけどな。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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