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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第六章 隠居と黒猫
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1 移動用クラフター

第六章開始。

更新速度を落とします。



 その獣は、定義できない何かがAIを動かし、世界を崩壊させたのだと告げた。



◇◇◇旧世界管理局遺物管理課捜査官日誌◇◇◇

63410629 0800 ユレス・フォル・エイレ捜査官、捜査官席に待機開始。

63410629 1200 特段の変事なし。ユレス・フォル・エイレ捜査官勤務終了。



 日誌を登録して振り返ると、すでにローゼスが待機していた。


「管理官日誌の登録はどうしたんだ」


「やあね、この部屋で一人のあんたと違って、アタシのとこにはお仲間がいるのよ。共同作業ってやつね。後は任せて出て来ただけ。そんなことより、早く行くわよ、撮影に!」


 諦めた気分で更衣室で着替えた。

 この事態に備えて持って来ていた外套を羽織って、監視猫を肩に乗せて受付館に出たら、転送装置の前には警備局が立ちふさがっていた。オレを逃がすなとか、いらん指示が出ていそうな気がする。


 受付館の正面には、大型の移動用クラフターが用意されていた。

 旧世界管理局所有の自然環境対応型の大型クラフターだ。主に遺跡調査に行くときに使用される。


 旧世界では、移動するために自動車という乗り物が使用されていたが、その一種でバスという大型で箱状の形態のものを真似て作ったものだ。

 観光用のバスというものを参考にしたそうで、下層に荷物を詰め込み、上層はゆったりとした空間を確保して、周囲の景色が見渡せるようになっている。


 旧世界の移動用の自動車は、車輪を回転させることによって、陸上を移動していた。この世界では原始的な道具として車輪を利用していた痕跡はあるが、車輪を利用した技術は発展しなかった。

 代わりに発展したのが振動と電磁分離に関わる技術である。クラフターは電磁分離による地面との反発作用によって空中に浮いており、空間中の電磁力との吸引・反発作用を利用して、推進したり停止する。


 クラフターという名は、移動用の道具として最初に開発された作品の名称だったが、その名が大きく取りあげられて広まって定着した。

 最初の作品は多機能型だったようだが、移動用として要望されることが多く、移動に特化した移動用クラフターの開発が進んで、広く普及している。


 移動用クラフターには、自動走行機能と事故防止機能が組み込まれているので、事故が起こる可能性はほとんど無い。

 それでも操作を誤ると事故が起こるので、クラフターを操縦するには資格が必要になる。5回の講習を受けて、基礎知識試験に合格すればいいので割と簡単に取得できる資格だ。


 成熟期に入ったら人と交流する機会が増え、教育の幅も広がるので、13歳から移動用クラフターの操縦資格を取得できる。

 13歳になったら取得する人が多いようだが、オレは昏睡していたので取得していないし、実はいまだに取得していない。


 職務で必要となることも多いので、成人までに移動用のクラフターの操縦資格を取得するよう奨励されるが、強制ではない。

 旧世界管理局の職員としてはむしろ必要な資格だと思うのだが、周囲の誰もオレに資格を取得するよう言わないあたり、オレの逃走防止のためとか何らかの思惑があってのことではないかと、勘繰っていたりする。


 ローゼスに大型クラフターに押し込まれつつも抵抗して、操縦席の後ろに行こうとしたら強制連行されて奥に押し込まれた。


「オレもそろそろ、クラフターの操縦資格を取るつもりなんだが」


「無謀なことはやめなさい。あんたはただ運ばれていればいいのよ」


「やはり、誰かがオレに資格を取らせないよう手を回してるんだな?」


「ボーディの配慮に今頃気づいたわけぇ?いいこと、あんたがクラフターに乗って移動していたらね、その途中で事件を引っかけるに決まってるでしょ!それかあんたの祖父さんみたいに、ふらりと大自然の中に冒険に出たきり戻らなくなったりとか、ろくでもないことしか予想できないって心配そうな顔で言われたら、そりゃ、配慮するわよ、ボーディに」


「オレに対する配慮でないのは理解した」


「あんたに対する配慮も一応あるわよ。治療官が、あんたが移動用クラフターを操縦しているときに、うっかり昏睡して事故にあったら大変って心配するんだもの。そりゃ、配慮するでしょ、治療官に」


「オレに対する配慮ではないが、確かにそれはまずいのは分かる。だが、昏睡から目覚めて以降、再び昏睡したことは無いだろ」


「昏睡の原因が不明だから警戒しちゃうのは仕方ないでしょ。まあアタシも制限解除しないなら、そこまで心配しなくてもって思うけど、これは課長の配慮でもあるのよ。クラフターの操縦資格があると、あんたも遺跡調査に連れて行かれかねないでしょ。

 ユレスが不在のときに、遺物管理課に特級危険物とか危険物が持ち込まれて来たら、課長が体張って判定なり封印処理しないとならなくなるじゃない。ワトスンみたいに一瞬で判定できないから、二日間くらいは緊張の日々を送るのよ?そりゃ配慮するわよ、課長に。アタシだって愚痴聞かされたくないもの」


「オレに対する配慮じゃないだろ。それから、オレが遺跡調査に回されない理由を初めて知った。局長は資格要件が足りないとしか言わなかったが、まさかのクラフター操縦資格だったのか。すぐに取得しろと言うだけで終わる話じゃないか」


「制限解除も必要よ。治療官が、制限解除して操縦しているときに昏睡したら死亡事故って心配した報告書出してるから、めぐりめぐって、あんたはクラフターの操縦資格が無い方がいいってことで合意してるわけ」


 移動用クラフターの操縦資格は簡単に取得できるが、クラフターの機能を最大限使用するためには、制限解除試験を受ける必要がある。


 自動走行機能や事故防止の安全機能が働いているということは、本来の性能に大幅に制限をかけていることでもある。

 人が社会生活を送る生活区ではそれで十分だが、それ以外の自然の世界、自然区と呼ばれることが多いが、自然区をクラフターで移動するときには、制限は邪魔になる。障害物があったり起伏があったりすると、事故防止のためにすぐに停止してしまうので、先に進めないのだ。


 生活区であっても、警備局が緊急で駆けつけたり、犯人追跡のためにクラフターを制限解除して走らせる必要もあるし、治療局も大怪我をした人のところに、治療装置を組み込んだ専用クラフターを制限解除して走らせたりする。

 自然区で自然環境や遺跡を調査する研究者は、クラフターの制限解除をしないと現場に到達できない。旧世界遺跡のほとんどは自然区にあるので、旧世界遺跡の調査に行く旧世界管理局職員も当然のごとくクラフターの操縦資格と制限解除が必要だ。


 だが、大型クラフターに乗り合わせて移動する場合、操縦するのは一人だし、遺跡調査の資格要件となっているとまでは思わなかった。


 旧世界遺跡は危険なので、最悪の場合は一人だけ生き残って、自力で帰還することも想定されてのことだとローゼスに言われて納得したが。

 確かに最後の一人として生き残っても、移動用クラフターを操縦して帰還できなかったら意味がない。


 だが、クラフターの操縦資格があって制限解除試験も通った人であっても、緊急事態でなければ、操縦席に座らせてはいけない人もいる。

 その筆頭である姉御が、オレの隣まで押し込まれて来た。


「いいじゃん、ちょっとくらいあたしが操縦しても」


「駄目よ。いいこと、今は緊急時じゃ無いのよ。姉御の超絶技巧は緊急時にのみ輝いて欲しいの」


 旧世界で言うところのハンドルを握らせてはいけない人種は、この世界にもいるのだ。


 姉御は、あり得ない角度で走ったり、壁を走ったり、二回転決めて方向転換したりという、無駄極まりない技巧を駆使して、最速で障害物を走り抜けるのを快感に感じる特殊性癖なのである。姉御は特殊性癖ばかりを攻め過ぎだ。

 危険な旧世界遺跡では、姉御のみならず同行者の命も救うことが多々あるそうだが、体験した者たちは皆、二度と御免だと証言するし、オレもジェフ博士に何度も愚痴られている。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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