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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第五章 アリスと黒猫
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20 正式な証拠

※残酷表現にご注意ください。


 アレク捜査官が圧力をかけてきたが、話すつもりはある。気が重くなる話だから、向き合いたくないのも事実だが。


「流れで話すと言っただろ。まず、AIが取得した情報は、正式な証拠として採用されるのは知っているな?マスターの許可なく開示されないし、マスターの命令であっても改竄不能なので、信頼度が高い。

 今の技術で作られた装置類も、旧世界AIの情報管理技術を流用した改竄防止機能がついているし、警備局もその機能が働いている限り証拠として採用している。

 子どもで、しかも殺す標的として追われていたオレの証言は、証拠として期待できなかったが、AIのワトスンが収集した情報は正式な証拠として採用できると、それなりに期待されていた。

 だが、オレが意識不明になったときに、ワトスンも休止状態に移行した。休止状態でなくても、マスターのオレが指示しない限り情報は開示されないので、オレが目覚めるのを待つしか無かった。

 オレは保護された後、旧世界管理局の治療室に運び込まれて、6年間ずっとそこにいた。ボーディと祖父さんが治療局を警戒したのもあるが、オレが目覚めたら、すぐにAIの情報を回収できるようにだ。

 オレは、起きてすぐに、まずは情報開示しろと迫られた。地下に落ちて大変だったのが最後の記憶なので、オレは特に疑問も持たずにワトスンに指示した。

 子守猫は特別教育舎に入った時から警戒していたので、映像記録も含めて多くの情報を収集していた。だから、治療局長の挨拶も、その後の治療局職員の対応も明確になった。オレが地下に落ちるまでは、想定以上に多くの情報が取得されていた。だから……捜査官が子どもに重症を負わせている場面も、明確な証拠として採用されることになった」


 子守猫がにゃあと鳴いた。もう毛玉状態では無いが、面白く無さそうに尻尾を揺らしている。

 子守猫が情報収集したのも、オレの指示に従ってすべて開示したのも正当な行動であるが、それでオレが落ち込むのも面白くないらしい。


 立体映像だが、撫でるように手を動かしたら、オレの手のあたりに立体映像の顔を摺り寄せてにゃあと鳴いた。


「オレはワトスンが情報提供している途中から、眠り込みかけていた。何があったのか気になっていたが、治療官がこれ以上無理はさせられないと強く言ったので、眠って起きてから話を聞くことになった。だが、再び起きてもぼんやりしていたらしく、10日間くらいの間は、ぼんやり起きて、すぐに眠るのを繰り返していた。

 その間に、ワトスンが開示した情報を元に治療局長を締め上げたり、捜査官に事情聴取をしていたようだが、オレがようやくまともに起きられるようになった頃には、二人とも自殺していた。

 オレのぼんやり状態と精神的衝撃に配慮して、オレの事情聴取とアリス事件の説明は後回しになっていたんだが、オレは、治療局長のことはともかく、捜査官については正当防衛だと証言しておくべきだった。

 ベルタ警備局長は、映像をしっかり分析した結果、食らいつかれて肉も一部ちぎられていたのも確定していたし、正当防衛を主張すりゃ通ったよと言ってくれたが、長生きしているばばあは、自殺するのが本人の選択ならとやかく言わないという考えの持ち主だからな」


「正当防衛にしても14人の子どもを殺害したのは、過剰防衛と言われかねません。それに、正当防衛を主張するのであれば、治療局長に脅されたときにすべきでした。

 ワトスンとは別の誰かが撮影した、捜査官が子どもを殺している映像記録を提示されて、脅しに屈して治療局長に従うより、事実を認めて治療局長を追求することが、捜査官としての職分であるはずです。

 治療局が安全性不明の薬を投与して人体実験した結果、狂った子どもたちが捜査官を襲って食らいついた可能性も十分考えられました。偽証しただけでなく、隠蔽工作に協力することは、背任です」


「……うん。でも、オレにとってあの人は、誠実な捜査官だった。

 オレを心配してあの場に残らなかったら、あの事件に巻き込まれずに済んだし、放送を聞いて突入した後、オレを探して施設内を巡ってくれて、子どもたちに襲われたかもしれない。

 襲われていた時も、相手を行動不能にしようとしていたが、殺そうとはしていなかったと思う。たぶん……オレのためだ。捜査官が自衛もろくにできないくらいに、子どもたちは狂って暴れていたし、そんな状況でオレを庇って守りきれるとは思えない。標的のオレに殺到する子どもたちからオレを守るためには……殺すしかなかった。

 そんな悪夢のような状況が収束した後、治療局長がまた悪夢を押し付けて来た。捜査官による子どもの殺害映像を一般公開するか、家族に見せると脅されたら、自分の保身より先に家族のことを考える人だったと思う。多感な年ごろの息子が、心配性で繊細な妻が、その事実に耐えられるかどうか。あの人はきっと、耐えられないと判断した。それは、6年後に証明されている」


 オレが、事件後すぐに目覚めていればと思う。そうしたら、特別教育舎に治療局長が挨拶しにきて薬が投与されたことが証明されて、警備局長が締めあげてくれて、脅迫とか隠蔽工作は行われなかったはずだ。

 捜査官のしたことが明らかになったとしても、オレは正当防衛だと証言していた。もう、今さらでしかない話だが。


「6年後、昏睡から目覚めたオレが提供した正式な証拠により、偽証もアーデルの家族も崩壊した。

 アーデルが尊敬する捜査官である父親は、14人の子どもを殺し、偽証と隠蔽工作に協力した犯罪者として自殺し、妊娠していた母親は精神的に大きな衝撃を受けて流産しかかり、何とか早産でリリアが生まれたが母親は死んだ。

 アーデルが捜査官になってアリス事件を調べようと決意するのは当然だと思う。それから、父親が子ども殺しをした原因を突き止めたいと、できれば父親の無実を証明したいと思うのも。

 情報制限がかかっていても、アリス事件の全資料を閲覧したら、アリス事件の元凶となった白うさぎ、ユエは生きていて、旧世界管理局に所属していると特定できる」


「白うさぎは、あなたはアリス事件の被害者です。アーデルがあなたに憎悪をぶつけていい正当な理由はありません」


 アーデルの話をしているので、ワトスンたちがふしゃーとしているが、アレク捜査官までふしゃーとした顔をした。


「アーデルは、オレがAIの情報を改竄して、父親に罪を着せたと信じたいんだ。旧世界管理局がそういう技術を隠し持っているはずだと。だから、オレだけでなく、旧世界管理局にも憎悪を向ける」


「無理があります。12歳の子どもで、殺される標的となったあなたが、何のためにそんなことをしなければならないのか説明もつきません」


「アーデルの初恋事情を話しただろ。ローゼスの分析によれば、アーデルは初恋の美少女が凶悪な殺戮犯とされていることも納得がいかないのだろうということだ。

 明るく社交的な天才少女が殺意を向けるほどに、白うさぎが悪い子だったのだろうという意見もあったそうだし、白うさぎがすべての元凶で、アリスもアーデルの父親も冤罪をかけられた被害者だという観点で捜査してみるのは、個人の自由だ」


「名誉棄損と人権侵害で訴えていいと思いますよ。旧世界管理局の方がそんな意見を聞いて黙っているとは思えませんが」


「黙っていても、人権倫理委員会が締めてくれた。オレが嫌がっているのに無理やり特別教育舎に行かされたことは、ボーディが人権倫理委員会に相談していたから、旧世界管理局が動く前に人権倫理委員会が切れたらしい。人権倫理委員会は味方とはまでは言わないが、旧世界管理局を庇ってくれることが多い。アーデルはそれも面白くないだろうな」


「あなたに冤罪をかけるたびに、アーデルは人権倫理委員会に呼び出されて指導されていたそうですね。あなたも正式に抗議して訴えていいはずです。アリス事件のときにアーデルの父親があなたを助けたとしても、アーデルがあなたを不当に扱っていい理由にはなりません」


「……分かっている。確かにオレは、アーデルの父親の捜査官に借りがあると思っていたから、アーデルが復讐なのか八つ当たりかでオレに冤罪かけまくるのも流していたが、警備局長がアーデルを切ることを決めたように、オレも、<菩提樹>での会合を最後に線引きすることにした。

 だから、アーデルにアリス事件の全資料の開示許可を取ってくるよう要求したんだ」


 ワトスンたちがふしゃーふしゃーとしてるし、アレク捜査官も圧力をかけてくるので、さっさと話を終わらせてしまいたい。


「オレがアリス事件を捜査して、事件を解決するという意思表示をしたつもりだ。警備局の未解決事件だし、事件の当事者でもあるオレは、アリス事件の捜査に首を突っ込むことは、本来許されない。旧世界管理局の遺物捜査官として弁えろと、本職のアーデル捜査官には何度も言われていた身だしな。

 表向きはそうだが、ばばあはオレから事情聴取するには内容知ってないと無理だろと言って、事件記録に載ってない情報まで話したが、それはそれだ。警備局長として正式に許可したわけではないし、警備局長として強権使ってオレに許可するのも建前上問題がある。

 だから、リリアの冤罪事件の解決と引き換えに、アーデルにそれをやらせることにした。嫌がらせとか警告とか牽制とか色々込みでな。

 オレがアリス事件を捜査して、アリスとアーデルの父親がやったことを確定させた場合、アーデルはそれが虚偽だと訴えられなくなる。オレをリリアの冤罪を晴らすのに利用して置いて、別件ではオレが冤罪をかけたとかオレの推理が間違ってると主張できないだろ。

 アーデルはオレに冤罪をかけて八つ当たりするより、アリス事件の真実の追及の方に尽力して欲しかったんだが」


「残念なことに、アーデルにその気は無かったと思います。

 リリアの冤罪が晴れた後、アーデルが警備局内にしつこく周知して回っていたのは、都合よく別件として取り扱うつもりだったからではないでしょうか。アーデルは、あなたのおかげでリリアの冤罪が晴れたとは、絶対に口にしませんでした。リリアの無実さえ確定してしまえば、別件では、あなたの推理が間違っているとか、あなたが冤罪をかけたと主張するつもりだったのだと思います」


「そうかもしれないな。だが、それならそれで構わない。あれを最後に線引きすると言っただろ。オレもアーデルを切り捨てた対応をするだけだ。アーデルの話はこれで終わりでいいか?さすがにオレも疲れたし……猫がずっとこの状態だからな」


 不機嫌そうな監視猫と子守猫が同意するように、にゃあと鳴いた。 


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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