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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第五章 アリスと黒猫
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18 誠実な捜査官

※残酷表現にご注意ください。


 『白うさぎを殺せ』


 アリス事件の数少ない証言者の全員が、同じ放送を聞いたと証言している。施設中に響き渡るほどの音量で放送されたし、放送装置に残された情報からも確定されている。


 アリスは白うさぎ、つまり、オレを殺せと命じた。


 これが、アリスが殺戮犯であることの根拠にもなっている。

 アリスは、特別教育舎の子ども、白うさぎと呼ばれていたユエという子どもに対して殺意があった。


 そう認定されるだけに十分な証言と証拠が揃っていたので、アリスを弁護しようとする人でも、それだけは否定できなかった。だが、疑問の声を上げる人もいた。


 ユエがアリスに白うさぎと呼ばれていたことは、特別教育舎に関わるほとんどの人が知っていた。

 オレは鬱陶しく構ってくるアリスのことを邪険にしていたが、それでもアリスはオレを構い続けていたし、アリスと一番仲がいいのはオレだと思っている人は多かった。


 アリス・ノートの保管倉庫でオレとアリスの関係を話したから、アレクは混乱とまでは言わないが、不可解という顔で言った。


「アリスが、一番お気に入りのあなたを、白うさぎを殺せと言ったのは、事実なのですね?」


「そうだな。オレもはっきり聞いたから、アリスの声がそう放送したと証言するしかない。

 警備局の事件記録で、アリスが殺戮した理由をなんとかこじつけているが、白うさぎに殺意があったアリスが錯乱状態になって、目につく人すべてが白うさぎだと思って殺して回った、ということになっている」


「こじつけたにしても無理がありすぎますし、まるで白うさぎのせいであるかのような書き方でしたので、局長に抗議しました」


「ばばあも了解の上でそういう記録になっている。その記述をそのまま受け入れるようでは、捜査官としての才能無しという判定に使えるからだ。

 錯乱状態の天才少女は一人で特別教育舎のほぼ全員を殺戮できるほどの超人だという設定は、旧世界映画でも無理がある。相手が白うさぎかどうかも判定できない錯乱状態で、天才的な才能がいかんなく発揮できるのかどうかも検討してほしい。

 だが、無理やりな理由づけをしたい気持ちが分かるくらいには、不明事項が多い事件だ。不可解なことに、アリスが殺せと指示した白うさぎ以外のほとんどが死んだのに、白うさぎは昏睡していたが生きて保護された。白うさぎがさっさと殺されていればと」


「やめてください。私が一番納得いかないのがそれです。アリス事件は未解決事件なので、捜査課の捜査官がそれぞれ独自に推測した報告書を作っていますが、冤罪捜査官は不愉快極まりない報告書を提出していました。白うさぎと呼ばれていたユエとアリスの間の確執に巻き込まれて、多くの人が殺されたし、白うさぎが早い段階で殺されていれば、ここまで凶悪な事件にならなかったと思われるという悪意に満ちた見解です」


 冤罪捜査官に反応したのか、監視猫までふしゃーという姿勢を取った。子守猫はずっとふしゃーとしているので、収拾がつかなくなる前に話を進めることにした。


「……白うさぎを殺せと放送されたが、反応は二分されたと思う。特別教育舎と関わりが深い連中は、即座にオレのことだと分かったはずだ。オレはユエという公称を使っていたが、馴染みが無さすぎて、ユエと呼ばれても自分のことだと認識せずに流していた。だから、子どもたちはアリスにならってオレを白うさぎと呼んでいた。ユエを殺せと言われても、誰のことか分からなかったかもな。

 逆に、特別教育舎に無関係な人は、白うさぎと言われても誰のことか分からなかったはずだ。例えば、オレを特別教育舎に連れて行った警備局の捜査官は、ボーディにユエを頼みますよと言われていたから、オレのことはユエという名前の子どもだと認識していた。

 あの人は、オレを送り届けたら任務終了だったが、オレが特別教育舎に行くのを嫌がっていたし、特別教育舎で出迎えた治療局職員の態度に不審感を抱いたのか、終わったら送って行くから、それまで待機すると言い張って残ってくれた。息子との約束を後日に回してまでもな。……アレクのノートには無かったが、そっちの事情も把握しているな?」


「はい。あなたがアーデルにアリス事件の全資料の開示許可を取ってくるよう要求した理由が気になりましたので、調べられる限りは調べましたが、あなたの意図はわかりませんでした。……話してくれますか?」


 尋問されているわけではないが、話さないわけにはいかないくらいに圧力がかかっている。

 ふしゃーとしてるワトスンたちを宥めつつ、アレクのことも宥めた方がいいのかと思うくらいには、内心思うところがありそうだ。 


「……事件の話の流れで、話す。

 アリスの声で白うさぎを殺せと放送された瞬間、ワトスンが思いっきりふしゃーとした。マスターを殺害対象にすることは、子守猫を本気にさせることと同じだ。オレが指示しなくても、やめろと言ったとしても、マスターを守るために、子守猫はあらゆる手段を行使する。

 何をどうしたかのかわからないが、閉じ込められていた部屋の扉が開いたので、オレは事態についてこれていない他の子どもたちに、危険だからオレについて来るなと言って逃げた。標的のオレに同行した方が危ないし、アリスのためにオレを捕まえに来られても困る。

 あの時は気づかなかったが、放送で<天使の歌声>が使われたのだと思う。遺物展示交換会で、仮面の不審者は質問しかしなかったが、やろうと思えば、精神に干渉して命令することもできる。オレと一緒に閉じ込められていた連中は、ワトスンが効果を打ち消して影響を受けなかったはずだが、その後どうなったかは知らない」


 昏睡から目覚めた後で、警備局長とボーディに覚えている限りのことを話したが、二人とも<天使の歌声>の可能性は検討していた。

 ただ、<天使の歌声>が使われたとしても、あれほど凶悪な事件に発展するとは考えづらかった。


「……放送するときに<天使の歌声>を使うことで、特別教育舎にいる人たちの精神に干渉して、強制的に指示に従わせ、白うさぎを、あなたを殺そうとしたということですか」


「<天使の歌声>は万能ではないし、人の精神は不当な干渉を拒絶したり、抵抗する。見つけろとか連れて来いくらいなら、アリスのためと思って従うかもしれないが、追いかけろとなると良心が抵抗し始めると思うし、殺せになると、人としてのまっとうな理性や良心がある限り、強く抵抗するはずだ。

 指示が不明確でも効果が薄いし、意味が認識できなければ指示に従うことはない。白うさぎが誰のことか分かっている子どもは、<天使の歌声>の精神干渉を受けてオレを追いかけて来るかもしれないが、白うさぎが誰なのか分かっていない人に、その指示は通じない。

 オレが部屋を飛び出した後、しばらくは誰とも遭遇せず移動できたが、とうとう人の気配が追い付いてきて、廊下の角を曲がって隠れた先にも、人がいた。

 見たことをそのまま言うが、オレを特別教育舎に連れて来た捜査官が、捜査官用の武装で子どもを床に叩きつけたところだった。だが、オレは捜査官は正当防衛したと証言する。襲われていたのは捜査官の方で、小さい子どもが手首に噛みついて血が派手に出ていたし、床に叩きつけられた子どもは、手も口元も血でべったり汚れていて、口から細長い何かがはみ出て」


 子守猫が毛を逆立ててふしゃーとしたので、言葉を切った。


「……察してくれ。オレは旧世界の恐怖映画のようだとぼんやり考えていたんだが、捜査官がオレに気づいて、ユエとオレの公称を呼んだ。連れて来られる途中、結構話をしていたし、ユエと呼ばれていたから、そのときは自分のことだと認識できた。頷いたオレに、捜査官は良かった、正気なのかと言ったが、その場にいた子どもたちもオレを認識した。

 白うさぎだ、白うさぎを見つけた、白うさぎを殺せ!と叫んでいたのもいたな。捜査官はそこではじめて、オレが白うさぎだと、殺せと標的にされている子どもだと認識したのだと思う。だから、迷いなくオレを庇って、オレに殺到しようとする子どもたちに武装を振るいつつ、早く逃げなさいと叫んだ。

 オレにとってあの人は、標的となった子どもを庇う誠実な捜査官だ。狂ったように襲い掛かる子どもに武装を振るったのは、標的となった子どもを守るためだったと証言する。

 後から聞いた話になるが、捜査官は、特別教育舎の入り口近くの部屋にいて、アリスの放送を聞いた。そして、誰かを殺せという不穏な放送を耳にした以上見過ごせないと、施設内部に突入したそうだ。捜査官という職務上見過ごせなかっただろうが、子どもを持つ父親としても見過ごせなかったのだと思う。

 オレを連れて特別教育舎に行くまでの間、捜査官は自分の子どものことを話していた。優秀な子で捜査官を目指していて、時事情報放送でアリスを見て一目惚れして特別教育舎に行きたがっていたが、不純な動機のせいか選考に漏れたそうだ」


「……アーデルの初恋事情より、あなたがその後どうなったかを教えてください」


 初恋に破れたのかどうか分からなかったが、アレクはデルシーで失恋すつるもりないとか色々言っていたわけだし、アーデルの初恋事情にも配慮してやってもいいと思うんだが。

 オレはアーデルの父親の捜査官と話したとき、見知らぬ少年がアリスの実態を知って衝撃を受けないよう一応配慮して、アリスについていい感じのことを言って誤魔化すくらいしたぞ。


 だが、アーデルと聞いて、ワトスンたちがふしゃーふしゃーとし始めたので、話を続けることにした。

 

「オレは逃げた。のだが、うっかりではなくワトスンの仕業だと主張しておくが、地下に落ちたんだ」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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