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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第一章 英雄と黒猫
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9 冤罪


 アレク班長の視線が、黙々と食事をしているアーデル捜査官に向いた。


 オレと同じく会話に参加する気がないというより、参加したらそこで対話も終了すると判断するくらいの理性はあったらしい。

 アーデル捜査官に関してはローゼスの管轄でもあるので、ローゼスに視線を向けたら嫌そうに肩をすくめてから言った。


「予想はしていたけど、こいつも関係してくるわけね?でもアタシ、アーデル捜査官と話すと自然に喧嘩になっちゃうから、お話するのはやめた方がいいわ。ボーディ、よろしくね」


「そうやって、嫌な仕事を私に押し付けるのはおやめなさい。わたしもアーデル捜査官と話す気になれませんので、アレク班長が知る限りのことを聞いた方が賢明でしょう。二人で揃ってやって来る用件ですから。

 まず黒猫さんの身元をどうやって突き止めたかを聞いた方がいいですね。聞くまでもないとも言えますが、そこの捜査官が言いふらしでもしましたか。守秘義務がどうと言い張るくせに、旧世界管理局職員の個人情報に関しては守秘義務違反も甚だしいことをしておきながら、捜査のための一言で片付けた実績がおありですので」


「警備局として守秘義務を尊重するのは当然とはいえ、同僚の無礼は代わってお詫びします。これは警備局長からの謝罪でもあると、理解していただければ幸いです。アーデル捜査官の個人的事情に関しても、守秘義務を適用せずお話したいと思います」


「っ……」


 なるほど、アーデル捜査官も了承はしたくなくても、拒否権なしなのか。

 さすがに食べるのもやめてうつむいたが、アーデル捜査官が口を開くと話が進まないのはオレたち限定で常識でもあるので、その方が話が早い。


「アタシ、思うんだけど、アーデル捜査官がここにいる意味ある?自虐趣味でもあるのかしら?」


「当事者でもあり、お願いする立場でもあるので、いないと意味がないとも言えますね。ただ……ユレス捜査官とローゼス管理官は大変な迷惑を被っているようですし、そのせいで、まともに相手をする気分になれないとなれば、私も一人で来た方がましだったかもしれないと思いつつあります」


「そこは頑張って同僚を庇ってあげて!ま、いいわ、取りあえずお話を聞きましょ」


「感謝します。占拠事件については、警備局の捜査課が現場を事件を起こした犯人たちだけでなく、復古会過激派の他のメンバーも事情聴取をして、事件を起こした背景や、計画の全容解明に当たっているところですが、アーデル捜査官はその捜査から外れています。理由は、事件現場に身内がいたからです」


「捜査に私情を入れないための規定だったかしら。そう言えば、どこぞの捜査官には、アタシたちとは比べ物にならないくらい心が清らかで美しくて自慢するところしかない可憐な妹様がいるのよ。そろそろ成人って聞いたことあるわ。アタシたちが近づいたら穢れるとか何とか喚いてたときに、そんなこと言ってたの。だから、祝花祭の花王役の選考対象に残ったとかそういう話?」


「そうです。ただ、それだけではなく、復古会過激派の内通者の疑いがかかっています。具体的に言うと、手引きして犯人たちを招き入れた上に、現場封鎖の手伝いをしたことが確定されています」


 ……は?清らかな心はどうしたんだ。


 ついアーデル捜査官を見てしまったが、耐えきれなかったのか、黙っていられなかったのか、絞り出すように言った。


「……冤罪だ」


 身内としてそう言いたくなる気分は分かるが、この場でその発言だけは絶対にしてはいけなかった。

 案の定、ローゼスが無表情になった後に、友好的過ぎて非友好的な笑顔をアレク班長に向けて言った。


「ねーえ、アレク班長。アタシも個人事情を暴露しちゃうわね。アーデル捜査官の清らかな妹さんのことなんだけど、これはもう話していいと思うのよ。守秘義務とか子どもの人権保護とか言い出した瞬間、アタシたち、声を大にして公表してもいいくらいの背景事情があるの。

 あのねー、実はアタシとユレスって、当時は清らかな子どもだったアーデル捜査官の妹のリリアの偽証のせいでね、警備局の特別隔離房に十日間も閉じ込められた挙句に、外部との接触も禁止、あらゆる資料も非開示の状態で、有罪確定されるところだったのよ。

 当時は局長だったボーディと警備局長が事態に気づいて、強引に踏み込んで来てくれたから、ぎりぎりでその事態は差し止められたんだけどね、その頃にはアーデル捜査官もリリアが偽証してることに気づいていたにも関わらず、妹可愛さのあまり握りつぶして、アタシたちを有罪とできるようなありもしない証拠を一生懸命探してたのよ。

 妹の言うことを信じ切って冤罪をかけて、妹の名誉を守るために罪もないアタシたちを犯罪者にしようとしたの。捜査官まだやってるのが信じられないわよねー、ほんと。ボーディたちが乗り込んで来たときに、ある程度の情報と証拠見せてもらったユレスが即座に真犯人特定して、冤罪を晴らしたわ。

 警備局にとってはとーっても不名誉だから、その件は隠蔽されたの。捜査官の行き過ぎた捜査活動で迷惑被っただけって扱いにされちゃった。当然のことながら、ユレスが真犯人特定して捕縛に協力したことも無いことにされて、しかもそのお手柄はアーデル捜査官のものになったのよ。

 ね、すっごく酷いでしょ。事態をうまく収めるために、アタシたちは、拘束されていると見せかけて、アーデル捜査官に協力して真犯人特定のために働いていたことになったのよ。さすがにそんな人権無視した馬鹿らしいことが通るのもどうかと思うんだけど、そこは割り切って受け入れてあげたわ。

 遺物管理局に向けられる目って、きついものもあるのよねー。冤罪だとしても、十日間も特別隔離房に入れられるってどんな凶悪犯なのよって話になるし、とっても不名誉。アタシたちは、捜査協力者として事件解決に協力してあげていたということにした方がまだましだったわけ」


 よくそれだけ喋りつくせるなと思う勢いで、ローゼスが一気に語った。酒のグラスを飲み干したので、ボーディが宥めるためか、むしろ煽るためか、酒を注いでやりつつおっとりと言った。


「そういうことにするための取引はしっかりなされましたが、苦労をかけました。旧世界管理局の警備というより監視態勢の変更のための交渉材料とさせていただきましたからね」


「それ、アタシたちも何とかしたかったから、警備局のやらかしで上手く話がつくならそれでいいわーって同意したからいいのよ。ただ、アーデル捜査官はものすごく納得いかないし、アタシたちのことを目の敵にし始めたわけよ。

 大事な妹がね、虚偽証言したとか信じたくないから、冤罪ではなかったし、冤罪と証明したのもユレスの策謀に違いないって信じ切って、次に別件で事件が発生したときに、現場にいたユレスを犯人として捕縛して、また特別隔離房に放り込んだの。

 ま、それも冤罪だったけどね。警備局長はもう色々割り切って、局長権限であらゆる捜査資料と情報を特別隔離房のユレスに届ける手配をしたから、ユレスは隔離環境下で情報繋ぎ合わせて、見事に真犯人特定して冤罪晴らしたわけ。

 お迎えに行ったアタシたちを見送るアーデル捜査官は憤死するんじゃないかって形相だったわ。そこまでして、アタシたちを犯罪者に仕立て上げたかったのかしら。ま、そんなわけで、アタシたちの態度の理由が分かってもらえると思うのよ。

 それからね、用件がまさかと思うけど、リリアの嫌疑というか冤罪とやらを晴らしてほしいってことだったら、頭おかしいとしか思えないから、即座に治療局送りにすることをお勧めするわ。

 冤罪を晴らすことにかけてはユレス以上の人材はいないと実体験で理解しているとしてもよ、かつて偽証して冤罪をかける元凶となったリリアと冤罪かけて犯罪者に仕立てようとしたアーデル捜査官の苦境を、冤罪かけられたユレスに何とかしてくれとか正気で言える方がすごいわ」


 まあ、そうだな。普通の発想では考えつかないな。


 それだけ切羽詰まっているのかもしれないが、治療局送りの方がいいかもしれない。アレク班長はオレの顔を窺ってから、ため息をついて顔を覆った。


「申し訳ありません、警備局長にそこまで事情聴取してからご訪問すべきでした。アーデル捜査官の目的はその通りとしか言えません。

 私が局長室に行ったとき、アーデル捜査官がちょうど警備局長と話していたというより入口付近でもめていた様子で、出直そうと思ったら黒猫と聞こえたので、つい立ち聞きをしました。

 アーデル捜査官は警備局長に、局長ならあの黒猫を動かして冤罪を晴らすこともできるはずだと訴えていたのです。遺物捜査官など、ろくに仕事もせず、特段の変事なしと日誌を登録するしか働いていないのだから、警備局権限で強制任務をさせてもいいはずだと」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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