表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第五章 アリスと黒猫
85/373

13 仮面のない不審者


 空間転送装置のある区画管理事務所に向かって歩きつつ、オレの今の見た目について聞いてみたら、成人まで3、4年くらいな年頃に見えるそうだ。


「姉には可能な限り成人済みに見えるような服でと頼んだのですが、限界がありました」


「未成年を盾に使うのは、品行方正な警備局捜査官としていかがなものかと思うので、成人済みの盾を探せ」


「あなたは私より年上ですよね?」


「都合のいいときだけそれを持ち出すな、年下。まあ、オレも見た目を都合よく使うときはあるけどな。世界管理局が半強制的に交流場に参加させるときとかは、見た目を利用して参加してすぐに逃走していたのは否定しない。年齢詐欺って、罰則とかあったか?」


「変な心配しないでください。騙される方が悪いんです」


「それ、警備局が言ったら駄目だろ。っ?」


 不意に手を引かれて引き寄せられて、花壇と椅子のある野外休憩所に連れ込まれた。


 どうしたのかと聞く前に、知らない男が手を挙げてこっちに来るのが見えたが、アレクの知り合いか?

 見知らぬ男を警戒してか、アレクはオレを背後に回しているので、事件の容疑者という可能性もあるが、それにしては男が気安い感じなので違和感だ。


 微妙に緊張感が漂う中、男が声をかけて来た。


「やあやあ、お二人さん。久しぶりだな、俺が分かるよな?」


 いや、分からないが。アレクが分かってるならいいかと思って流したら、しばしの沈黙の後、男が言った。


「え?お嬢さん、まさか、俺を覚えてないの?」


 誰だ?


 この姿のオレに見覚えがありそうな態度だから、遺物展示交換会で挨拶した誰かだと思うが、アレクに丸投げ状態で頷いたり会釈したくらいしか記憶がない。つまり、誰なのか分からない。


 諦めてアレクに聞こうとしたところで、愕然とした顔の男が、服のポケットから出した仮面を被った。

 人間の顔を作ってはいけないという規制に引っかからない、顔を隠して視界を確保するくらいの実用目的の仮面だが、見覚えがある。


 ああ、あれか。


 ようやく分かったが、仮面の不審者として出会ったわけだから、当然素顔など分かるわけがない。それなのに、素顔の方で自分を覚えていないのかと言うのはどうなんだ。分からなくて当たり前だろ。思い出そうと頑張って損した。


 仮面は変装の一種だし、仮面を外して服も着替えるか外套を羽織れば、普通の人に紛れ込める。

 オレも姉御も、仮面の不審者を追っても人に紛れ込まれて見つからないだろうと割り切ったが、その効果を現在、実体験している。


 せっかく被った仮面を外しつつ、不審者が言った。


「おいおいおい、まさか、仮面つけて来ないと分からないとか考えてないかよ?成人してもお守役が必要そうなお嬢さんだな」


「私が喜んでエスコートさせていただくつもりですが、不審者に言われたくありません。忙しいので、後日、警備局に出直してください」


「また出直せってか?仕事する気があるのかないのか分からんが、取りあえずお嬢さんを巻き込みたくないのは分かった。信じなくてもいいが、俺もそうなんでな。足止めがてら挨拶に来たわけ」


「迷惑です。大変邪魔なのでさっさとお引き取りください」


「俺も別に英雄さんと話したいわけではないんだが、お嬢さんを危険に巻き込みたくないってことだけは同意できるはずだぜ?」


「同意はしますが、あなたを信じられません」


「俺の感傷だと言ったら信じるか?お嬢さんは初恋の君に似ていてね。白いうさぎを持ってるとなおさらだから、つい出てきてしまった。大猿よりそっちの方がいいぜ」


「同意します。大猿は警備局長に差し上げましたが、あなたもご執心のようでしたし、欲しければそちらへどうぞ」


「遠慮するぜ。あのばあさんに怖いくらいに似合うし、大猿は、ばあさんのものでいい」


 緊迫感あるのかないのか分からないが、何故か同意に至った。だが、そんなに駄目か、大猿。


 アレクは少しだけ会話する気になったようだ。


「足止めと言いましたが、雑談するだけでいいのですか?」


「いいんだよ、あっちに行かせたくないだけだから」


 仮面のない不審者が指し示した方向は、保管倉庫地区?何となく嫌な予感がして、アレクの手を握っておいた。


「おっと、お嬢さんを害するつもりは無いんだ。あっちに行かなければ問題ない。察するに、また博士のお使いに行って、うさぎ貰って来たんだろ?このまま帰ってくれるなら問題ない。だがなぁ、うさぎを置いてからまた戻ってきて、アリス・ノートを見に行くのはやめてくれ」


 もう見て来たのだが。とは当然言わないし、アレクもただ無言でオレを背後に隠した。


「私がアリス・ノートをいただいたのに、見に行くなというのはおかしな話ですね」


「まったくだな。英雄さん一人で行くなら、俺は別に構わないんだが、それでも暴走する馬鹿は気に喰わないらしい。姉のために楽譜を写しに行くならいいんだが、他の情報も見られることに対してぴりぴりしてるのもいてな」


 仮面のない不審者が楽譜が入っているケースを見たが、実は写してきたとかいらんことは言わないぞ。色々と不穏だからな。


「アリス・ノートの所有者が、楽曲以外の情報は見てはいけないというのも、おかしな話ですね」


「本当にな。ある意味高く評価されて、警戒されていると思ってくれ。英雄さんを経由して警備局長のばあさんとか、手強い黒猫が出て来るんじゃないかとな。

 英雄さんは最近、黒猫と仲良くしてるって聞くし、そのうち連れて来ちゃうかもしれないだろ。今日はお嬢さんを案内してあげるつもりだったのだろうが」


 不審者には残念なお知らせだが、お嬢さんは実は黒猫だし、もう連れて行ってもらったのだが。やはり、いらんことは言わないが。


「いけませんか?たまには外出して、珍しいものを見てもいいと思いますが」


「もっと女の子が好きそうなとこに誘えよ。旧世界言語で書かれてるわけだから、お嬢さんが興味持ってもおかしくないとは思うが。旧世界管理局の子なんだろ?まだ未成年っぽいし、20歳くらいか?」


 旧世界管理局の職員になるかどうか、つまり、旧世界のAIに適合する精神波長を持っていて、AIの相棒を得ることができるかどうかは、成熟期の中頃くらいから検査されることになる。

 オレのように事故で旧世界遺跡に落ちてAIのマスターになることが無いとも限らないので、事故防止の観点からも必要な検査なのかもしれない。


 検査の主たる目的は、旧世界管理局の職員を一定数以上は確保するためだ。ある程度は血統的に出やすいらしいが、法則性が無いので全員検査しないと分からないらしい。

 祖父さんには適性があったが、オレの両親は適性が無かった。祖父さんは魂の性質によるのかもしれないと言っていたことがあった。


 デルシー海洋遺跡のような有用な旧世界遺跡は維持管理し続けたいし、危険な旧世界の遺物を保管管理するのも旧世界管理局職員がやるしかないので、旧世界管理局は積極的に人員を確保し続ける必要がある。

 だから、子どもたち全員が検査を受けるし、検査で適合可能性ありとなったら、旧世界管理局でAIと引き合わされる。

 

 適性は個人差があるが、成熟期に入ったら大体判定できるし中頃くらいにはほぼ確定されるそうだ。

 オレは成長期の頃から適性が高かったのだろう。アリスも検査を受けたが適性は皆無だったから、オレを構うことにしたわけだ。


 検査は定期的に行われるが、適性がある場合は20歳を過ぎた頃からAIと引き合わされて、相棒を探すことになる。

 24歳で成人したら旧世界管理局職員として登録されて、相棒のAIの情報記録媒体が組み込まれた特別仕様の腕輪を渡されるという流れだ。


 有用だったり珍しい機能のAIのマスターになった場合、特例措置で未成年のうちから旧世界管理局の臨時職員として登録されることもある。

 職務に協力するために、いちはやく相棒のAIが組み込まれた腕輪を渡されるし、監視役も付くことになる。


 オレは無理やり特例措置に該当させて、9歳から旧世界管理局の臨時職員となったわけだが、普通はせめて20歳を超えてからだ。


 そうでないと、人権倫理委員会が厳しい目を向けて来る。人権倫理委員会は未成年の人権にも特に配慮してくれるし、彼らの働きぶりには助けられた。

 成人した今となっては年齢詐欺をしたくないのだが、アレク捜査官はさらりと話をすり替えた。


「女性に年齢を聞くものではないというのが警備局長の指導ですので、お答えできません」


「あのばあさんは堂々と公表してるだろ。それからあのおっかない姐さんがお嬢さんに遺物を投げ渡してるわけだし、お嬢さんが旧世界管理局の子ってのは、ばればれだって。しかも珍しい技能持ちだろ。もしかして、ロック系?ナイン・エス?」


 っ!?動揺を抑えたつもりだが、読み取られたらしくにやりと笑われたが、オレは別に技能を当てられたからでなく、ナイン・エスという呼び名を知っている方に驚いただけなんだが。

 誤解してくれる方が都合がいいので、アレクの影に隠れて誤魔化すことにした。


「当たりか。前のマスターがとうとう死んだか?お嬢さんが受け継いじまうとはね。あ、だから、この前預けたもののことはもういいんだ。ロックされたら手出しできないし、俺もああいうのはあまり好きではなかったからな。

 ただ、お嬢さんの技能を邪魔に思う人は結構いるから気をつけな。俺はお嬢さんに危害は加えたくないのだが、危険な犯罪者とか暴走する馬鹿は強硬手段に出ることもある。あんな感じで」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ