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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第五章 アリスと黒猫
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12 白うさぎ


 アリスの強引な論理展開に、何故かアレクが強く頷いた。


「黒猫と呼ばれていますが、あなたの見た目は白猫さんだと思っていましたが、白うさぎさんの方がしっくりきますね」


「変な納得をするな。アリスがしつこくオレを構うから、オレはめんどくさくなって、白うさぎの人形を作ることにした。構うならそっちを構えばいい。

 ボーディにその計画を話したら、白うさぎ型人形を職人に特注してくれた。<アリスの物語>に出て来る白うさぎが持っている時計は、旧世界時計のうち懐中時計という種類のものだから、ジェフ博士のところで探して修理して、組み合わせてアリスに渡した。

 構うならこれを構って、オレには構うなと言ったのに、なおさら構ってくるようになったのはどういうことなんだ」


「私もどういうことなのかと問い詰めたい気分ですが、それは特別な贈物を貰ったと解釈していいところです。今、とても混乱しているのですが、私が事件記録で確認したアリス事件の状況と……真逆の展開としか思えません」


 本当に混乱しているようで、額に手を当てて難しい顔をしているが、オレは容赦なく追い討ちをかけることにした。


「もっと混乱させてやる。

 アリスがどうしてもオレに白うさぎ人形のお礼をすると言い張るので、オレは無理難題を言って追い払うことにした。特に欲しいものはないし、強いて言うなら平和な世界が欲しいと。旧世界みたいに馬鹿やった挙句に崩壊しないようなものがいいとな。

 いくら天才様でも無理だろと挑発したのがまずかったのか、逆にやる気にさせてしまった。無茶を言い過ぎたと反省して、旧世界の楽譜で破損が大きすぎてまともな曲にならないものを旧世界管理局から貰って来て、これを復元して綺麗な音楽にしてくれればそれでいいと変更を申し出たんだ。

 旧世界の楽譜は危険度が低いから、ほぼすべてが公開対象になるし、一節の音節であれ楽曲のアレンジに使えるから自由に流通している。旧世界の楽曲には基本的に所有権とか利用権は設定されないからな。

 ただし、遺物の楽曲の一節を使ってアレンジした曲とか、破損した楽曲を復元した曲の場合、それは今の世界の人の作品だから、所有権とか利用権は発生する。

 だから、これはアリスの曲だ。あのぼろぼろの楽譜を、誰もが綺麗だと絶賛する楽曲に仕上げるとは、さすが天才様だな」


 写し終わった楽譜を、アレクに渡した。

 そして、もう一度、最初からアリス・ノートをめくり始める。


 旧世界の雑多な言語で書いた、おそらくは世界平和のためになる、あらゆる研究成果を。


 ワトスンたちだけでなく、アレクも一緒に覗き込んで来たが、多くの研究者が挑んでもいまだに解読不能なだけあって、さっぱり分からない。


「これは、あなたへの贈り物だったのですね」


「さあ?それはアリスにしか分からない。本当に世界平和を願うなら、世界全体のために使われるべきだし、だから、これは万人のためのものでいいんだよ」


「ですが、あなたへの贈り物なので、あえて旧世界の言語を組み合わせて書いたんです。世界が横取りしていいものではありません。……ところで、副館長から、ようやく白うさぎを見つけたと通信文が入りました」


 ちょうど最後までめくり終わったので、アリス・ノートを閉じて、アレクに渡した。


「なら、そっちに行くか。オレはアリスの贈物を受け取った。それでいい」


「……あなたが望む限り、何度でもここにお連れしますよ」


「それ、解読しろと言っているのか?見てもさっぱりわからんことが分かったから、勤勉な白うさぎではない怠惰な黒猫はやる気がない。

 オレはアリスのお礼の内容を変更しているから、この楽曲を全部写した段階で、アリスのお礼は受け取った。いいから、行くぞ」


 アレクがアリス・ノートを置いている間に、監視猫を胸元に詰め込んだ。アレクが微妙に視線を逸らしているが、こればかりは確認しなければならない。


「ずれてないか?」


「聞いて欲しくありませんでしたが、大丈夫です」



 副館長が待つ倉庫に行ったら、倉庫前にテーブルを出して、物品を並べているところだった。


「お待たせいたしました」


「あらいいのよ。時間がかかってごめんなさいね。ずいぶん奥の方にあったから、そこに至るまでが大変で。でも途中で使えそうな品も発見してつい、寄り道もしてしまったの。ごめんなさいね。ああ、そうだ、肝心のうさぎさんを持って来ないと」


 倉庫に引き返した副館長がすぐに持ってきたうさぎを見て、つい手を伸ばしたら、微笑んで渡してくれた。


 久しぶりだな、白うさぎ。


 アレクと副館長がその場で引き渡し関係の手続きをしてくれたので、そのまま持って帰っていいことになった。


 紳士なアレクは副館長が持ち出して来た品を箱に入れて運んであげることにした。

 遺物とか宝飾品や芸術品は、腕輪の機能で収納したり物品転送することはできない。結構大荷物になったので副館長が運ぶのは大変だろう。


 空間転送装置よりも、物品のみを転送できる物品転送装置の方が稼働コストが低くて便利でもあるが、制限が多くて使いづらくもある。

 生産局が生活物資を各個人に提供するときには大活躍しているが、遺物を扱う旧世界管理局では無用の装置となり果てていた。旧世界管理局にあるのは、物品転送装置の規制や制限に引っかかるものばかりだからな。


 ボーディが局長だった頃に、職員の更衣室に各自の着替えや監視役を転送して用意できるよう、規制や規定の一部例外規定の適用を申請して、物品転送装置を少しは働かせるようにした。

 結構便利だと思うが、子どもの頃のオレは局長室でボーディと一緒に旧世界映画を鑑賞していることが多かったが、ボーディのお気に入りの映画にそういう場面があったので、再現したかっただけではないかと密かに疑った。


 ボーディ前局長は旧世界映画とか小説などの物語を、今の世界で再現するのが密かな趣味なのである。


 天才少女アリスが話題になったときも、オレに<アリスの物語>を読ませたし、アリスには白うさぎですよと主張していたので、アリスがオレを白うさぎと呼び始めたときには、ボーディがいらんこと吹き込んだのかと思ってしまった。

 オレがアリスを追い払うための白うさぎ計画を相談したときも、すぐに白うさぎの人形の各種デザインの画面を展開して見せて来たので、あまりの用意の良さにいまだに少し疑っている。



 白うさぎはオレが持って、地下通路を通って遺物資料館に戻って副館長と別れたところで、アレクに資料館を案内すると言っていたことを思い出した。

 さすがに白うさぎを持ったままはオレも嫌だ。それを察したのか、アレクがまた今度でいいと言いだした。


「いいのか?二度手間になるが」


「はい。また今度お願いします。今は白うさぎを連れて帰るのを優先しましょう」


 だが、喫茶店で休憩してから帰ることになった。


 博士に、ついでにお使いして来いと喫茶店の飲食招待状を貰っていたそうだ。博士のお使いを注文して用意して貰っている間、オレたちも茶と菓子を貰って休憩したが、オレもよく食べていた菓子だった。


 ここの喫茶店のものだったのか。


「あなたも好きだと博士からお聞きしましたけど?」


「ここのものだと初めて知った」


「もう少し出歩いた方がいいと思いますが、うっかり落とし穴に落ちる人ですと……」


「だから違うと言っただろ」


 こういう場所には、余所のテーブルの会話が聞き取れないくらいの防音装置が備わってるはずだが、一応声を潜めて会話した。

 周囲のテーブルには男女の組がかなりいるのだが、視線がときどきこちらに向くからな。


「……アレクが目立つから仕方ないとはいえ、オレの変装が不審に思われているのだろうか」


「単にあなたが気になっているだけです。私がまた小さなレディを連れていると、噂になると思います」


「ここで休憩するとか言い出したのは、また小さなレディを盾にするためだな?」


「これも博士の任務の一環です。小さなレディの実在証明に必要なんですよ。それから、大猿は論外ですが、白うさぎは似合っていますので、自信を持ってください」


「ろくでもない自信はいらない」


 なぜ駄目なんだ、大猿。ベルタ警備局長が持っていると高評価なのに。


 白うさぎは壊れた時計を持ってる部分を誤魔化すべく、副館長がくれた花籠をリボンでくくりつけているので可愛いとは思う。そもそも、ボーディが拘って、一番可愛いうさぎを特注していたしな。

 博士のお使いの品を受け取って店を出るときも、店員にうさぎ可愛いですねと言われたが、子どもに言うような言い方だったのが少し気になった。


 成人に見えない見た目のことは割り切っているが、オレはどれくらい子どもに見られているのだろうか。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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