表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第五章 アリスと黒猫
82/373

10 子守猫との出会い


 楽譜を写しながら何をどう話すか考えたが、ある程度オレの背景も話さないと説明しづらいことに気づいた。


「……まず、オレとワトスンのことから話さないと、疑問に思うだろうから、そっちから話す。アリス事件に直接関係ない話だが、オレがアリス事件に関わることになった原因でもあるからな。

 この世界は広大だが、転送装置があれば遠方に一瞬で移動できる。だが、転送装置で行ける場所の方が圧倒的に少ない。転送装置が設置されていない場所だと、何日どころか、何月もかかったりする。転送装置で一瞬で行ける場所でも、歩いて行くと二月くらいかかったりするんだ。

 オレの祖父さんは、そういう感覚を実体験で知らないと視野の狭い成人になると言って、子どものオレを連れて転送装置を使わない旅行に出かけることがよくあった。

 祖父さんは、世界研究家とか旅行家とか冒険家とか適当に名乗っていたが、どれも芸名というか公称を使っての活動だ。職務は旧世界管理局所属の捜査官だった。

 姉御のように遺跡調査に行くのが専門だったから、ジェフ博士と付き合いが長い。捜査官として警備局からの正式要請に応じることも多かったし、警備局長の個人的な協力者でもあった。

 オレが生まれた頃には半分引退していて、孫どころか浮いた話すらない、じじいとばばあに孫自慢をしていたらしい。あの二人は、お前の孫は自分の孫とか言ってしまえる人たちなので、オレはじじいとばばあがたくさんいる環境に少しは疑問を感じつつも、そういうものだと思って流していた。それで、あるとき祖父さんと旅行に行って、事故にあった」


「事故ですか?事件では無く?」


「オレがいちいち事件に首突っ込むかのような言い方をするな。だが、事件性皆無とも言えない。何かを調査か捜索しているように見える集団を発見して、気づかれる前に森の中に隠れたんだ。世界研究局の調査だったかもしれないが、祖父さんは、あれは<知識の蛇>だと見分けたのかもしれない。祖父さんも奴らと付き合い長いし、恨まれまくっているからな。

 当時のオレには変な人たちに絡まれたら嫌だから隠れると言って、ついでに森の散策しようと森の奥に入って行ったんだが、オレは突然開いた穴に落ちた」


 立体映像の尻尾を揺らしながら、オレの話を聞いていたワトスンがにゃあと鳴いた。


「あの……そういう、自分の身の安全すら想定外なことをするのは、やめてもらえますか」


「自分でも把握していないからこその想定外だろ。対応可能だったら想定外とは言わないし、あれは経験値高い祖父さんでも対応不能だった。祖父さんが自己弁護じゃないぞ、本当だぞ、遺跡のせいだと念押しした」


「自己弁護とか言っているあたり、自覚が多大にあると思いますが、遺跡だったのですか?」


「未発見の旧世界遺跡だった。祖父さんの相棒のAIは、捜索系の技能を持っているし、祖父さんが旅行して回っているのは、未発見遺跡の調査のためという名目で職務扱いにもなっていた。

 森の散策をしつつ、ついでに職務もこなそうとしたのだろうが、祖父さんの相棒が遺跡の管理型AIに接触して、遺跡の側は祖父さんの目の前に入り口を開けて招待したつもりだったのだろう。

 ただ、その位置にちょうどオレがいたので、オレは唐突に落ちた。遺跡は旧世界管理局職員というか相棒のAIがいないと侵入者と判定するとデルシー海洋遺跡で散々言ったが、オレ一人だけ先に入ってしまったので侵入者と判定されて、侵入者の行きつく先に落ちた。ほんの一歩の違いだが、旧世界遺跡は融通が利かないから、その一歩の違いが明暗を分ける」


「……なるほど。あなたがデルシー海洋遺跡の入り口で、自分より先には絶対に入ってはいけないと何度も繰り返したのは、その経験からでしたか」


「あれは共通の説明内容だが、オレが実体験しているのは間違いない。その遺跡はデルシー並みに侵入者に優しい設計で、殺傷性は無かったようだが、落ちて怪我していた可能性はあったな。だが、幸いと言うべきか、オレが落ちた先には子守猫がいたんだ。

 侵入者を警戒していたかもしれないが、落ちて来たのが子どもだったからか、AIの優先任務が即座に切り替わって、周囲の動かせる限りの機能や装置を突っ込んでオレを無事に保護した、のだと思う。

 当時のオレは9歳だったから、子守が必要な子どもでは無かったと思うんだが、ワトスンは遺物の猫型人工物の体を動かして、保護したオレに挨拶しに来た。にゃあとな」


 オレに寄りそう二体のワトスンもにゃあと鳴いた。


「監視猫は、その時のワトスンの体ではないのですね?」


「旧世界の遺物だし、AIが動かせる人工物だから、動物型でも外に出せない規制対象になる。監視猫は今の世界の技術で作られた人工物で、遺物の黒猫と同じ設計で作ってあるが、子守猫のAIが動かすことはできない。

 動かせたとしても、監視猫と大して変わらない行動しかとらないと思う。遺跡に落ちたオレに挨拶しに来た子守猫ワトスンは、オレの膝の上に飛び乗ってにゃあにゃあ鳴いていただけだし。侵入者を尋問していたのか、それとも子守していたのか分からないが、祖父さんが慌てて駆けつけたときには、オレはマスター登録されていた」


 子守猫がにゃあと鳴いたが、あのときのオレはにゃあにゃあ鳴く子猫に話しかけていたし、適当に返事していたので、祖父さんはそれでマスター登録の同意が得られたものとされたと推測していた。


 祖父さんはワトスンから事情聴取を試みたが、返事はにゃあだし、オレもにゃあと言われたとしか証言できなかったから、祖父さんの捜査官としての経験上、最も困難な事情聴取だったらしい。


 祖父さんは遺跡の管理型AIに通訳を頼んだが、猫語は翻訳不能ですと断られた。

 だが、ワトスンは一点ものの特別製作品であり、管理番号も無くただワトスンと登録されているAIであることと、子どもの保護育成目的のために制作されたことは回答された。


 旧世界管理局に新たな旧世界遺跡の発見を報告して、ワトスンのことも相談したが、遺物データベースにも類似事例が無いし、他のAIたちに聞いても情報不明なのがワトスンだ。

 危険度判定もできないから、旧世界管理局も扱いに困った。


 9歳の子どもをマスター登録してしまったのも問題だが、子どもと引き離すと他のAIに、にゃあにゃあ訴えるからだ。

 AIの倫理原則に反する訴えならともかく、子守猫に子どもであるマスターが連れて行かれたから助けてと訴えられて、AIの側がマスターに進言すること多数だったようだ。


「報告を受けた旧世界管理局でも悩ましい事態だったが、子守猫は最優先任務であるマスターの子守をしていると落ち着いているし、マスターに近づく危険物の感知機能と判定機能が群を抜いて高いので、オレを旧世界管理局の職員に登録してしまうことにした。

 9歳でというのは前例もないし特殊過ぎるが、すでにAIにマスター登録されている以上そうするしかないし、一点もので情報の無いワトスンの調査と監視をするには、旧世界管理局に出入りさせるしかなかった。そんなわけで、オレは9歳で臨時とはいえ、旧世界管理局の職員となった。ローゼスは24歳で成人して職員となって、一緒に新人研修受けた同期だ」


「旧世界管理局の方たちは、あなたのことを子ども扱いしているような印象でしたが、未分化型ということだけでなく、本当に子どもの頃から職員だったからでしたか」


「成人していないと勤務する義務はないが、AIの管理責任は発生するので、旧世界遺物の知識を早急に習得する必要があった。詳細不明のワトスンの情報分析も必要だから、オレは二日に一度は旧世界管理局に行っていた。

 警備局と違って暇を持て余しているのも多いから、子どもがいて珍しいのと暇つぶしでオレのことを構ってくるんだよ。一緒に旧世界映画を見て、遺物に関する教育任務とか日誌登録したりしていたぞ。

 いらんことまで喋ってしまったが、単にオレが9歳の時点でワトスンの相棒だったという話だ。説明はそれだけで良かったかもしれない」


「それだけ聞かされても疑問にしか思いませんよ。経緯を聞けば事故で仕方なかったと納得できますが、そうでなければ、9歳の子どもに対する人権問題も発生しますよね?」


「人権倫理委員会はしっかり仕事してくれるからな」


 旧世界管理局職員は相棒のAIがいるのが基本だから、遺物管理者に登録されるし、監視役のAI-ASもつく。

 適性がある人は半強制的に旧世界管理職員になるのもあって、人権倫理委員会は、旧世界管理局職員となった段階で、人権を侵害されていると判定しているくらいだ。そのせいか、人権倫理委員会は旧世界管理局と職員を庇ってくれることが多い。

 

 当然、9歳の子どもを旧世界管理局職員にするなど、人道上許されないと判断されるだろうし、オレも事情聴取された。

 事故ならば仕方ないという結論になったが、オレが成人するまでの間、定期的に状況確認しつつ配慮してくれた。


 成人してからも個人的事情があるせいか、庇ってくれることが多いので、オレの人権倫理委員会に対する信頼度は結構高かったりする。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ