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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第五章 アリスと黒猫
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8 お使いの報酬


 まずはお使いを済ませてしまうために遺物資料館に行ったら、思ったより人がいた。閑散としているよりはその方がいい。


 遺物資料館の総合情報から展示されている遺物の映像情報を確認することもできるが、実物を直接見る方が得られる情報が多いし、遺物資料館に来て直接見ること自体が人生体験とも言えるだろう。

 

 旧世界では、食事や睡眠と言った生存のための基本的行動にあてる時間すらないくらいに、過酷な勤務を要求される人もいた。正当な契約に基づく報酬もなく、道具のように酷使されたという記録が多数発見されている。


 人権侵害や虐待だけでなく、人が自分の人生体験をする機会すら奪う、人の進化と世界の進化を阻害する悪質な行為である。

 進化を得られず、逆に進化が阻害されるようになったら、世界は崩壊するしかない。旧世界は崩壊する理由に事欠かない。


 旧世界の過ちを繰り返さないよう、世界管理機構は個人活動の時間を十分に確保できるように、社会奉仕活動としての勤務時間を調整している。

 ときに、警備局長のような仕事中毒の人もいるが、ほとんどの人は個人活動にあてる時間を十分に確保できるので、各種作品や芸術の鑑賞に赴くことが多いし、交流場においての人との交流も盛んだ。


 <知識の蛇>の行き過ぎた思想はともかく、多くのことを体験すると、それだけ人の精神体は経験を糧に成長するし、進化に繋がるのは事実だ。


 腕輪の通信文で簡単なやりとりをするのと、直接顔をあわせて同じ会話をするのでは、同じようでいて交わされる情報量も親密度も各段に違うという研究報告もある。

 決められた会話を腕輪の通信文で10回繰り返しても関係に進展は無いが、直接対面して同じ会話を交したら3回で互いに対する親しみが増して、関係が深まったというものだったか。


 直接の体験と交流に勝るものはないという分かりやすい事例である。

 なので、腕輪の機能で多用される通信文は、あえて文字制限をかけて簡単な連絡事項に留めて、話があれば直接対面して話すようにと指導される。


 この世界には転送装置が普及しているので、腕輪の通信機能で面会の連絡や日程調整をして、転送装置で移動して対面して話すのが自然な流れだ。

 旧世界には転送装置が無かったので、遠方にいる相手と直接対面して話すのは大変だった。だから、各個人が持っていた小型の情報装置の通信機能が発達したのだろう。


 遺物資料館にも旧世界の小型の情報装置が展示してある。機能は完全に壊れていて参考資料としての展示になるが、宝飾品で装飾された美しい品だ。

 旧世界人は画一化して、規格化されて生きた道具のようになっていたように受け取れる遺物資料も発見されるが、それでも、各個人が常に持ち歩いていた小型の情報装置にはそれぞれ独自の装飾を施されているものもあり、個人としての自己表現もなされていた根拠として扱われることもある。



 オレたちが遺物資料館の受付で用件を告げたら、すぐに副館長室に案内された。ジェフ博士が連絡をしておいた先方だと思うが、部屋に入ったところで気づいた。見たことがある。

 一時期博士の助手していた人だ。遺跡調査の方ではなく、旧世界時計研究所の方だが、不器用だったので助手に向いてなかった。ポーラ女史とあんまり相性が良くなかったのもあり、博士が別の仕事を紹介したと言っていたか。


 元の姿のオレと挨拶したことはあるが、まったく気づかれていないくらいに、アリアのしてくれた変装は完璧らしい。


 だが、噂の小さなレディだということは即座に見抜かれた。いや、変装だから見抜かれているわけでもないが、この件について考えると混乱しかしない。

 小さなレディの存在証明にはちょうどいいから流した。博士は、副館長が話して回るだろうと見込んだんだな。


 社交的で噂話も大好きという女性なので、適任と言えば適任。引きこもりだけどお喋り大好きのポーラ女史と一見合いそうに見えて駄目なのは、この人はジェフ博士の妻の座を狙っていたからだ。


 祖父さんが言うには、ポーラ女史はジェフ博士のことが好きらしい。

 だが、積極的にどうこうなるより、博士が遺跡調査に飛び回ってるのを見てるのが好きという進展しない二人で、その距離感が互いにうまくやっていける秘訣だと言っていた。


 だから、ジェフ博士の結婚に一番動揺したのは多分ポーラ女史だし、相手がベルタ局長ならば、少しぐらい嫌がらせしてやって自分の恋に終わりを告げようと思ったのだと推測した。

 これがポーラ女史の最大の秘密だが、最大と言ったのは大げさだったかもしれないが、ポーラ女史が一番知られたくなくて、知ったところで誰も得をしない情報であるのは間違いない。


 まさかの勘違いに気づいたポーラ女史は、心から反省して心苦しく思ってるがゆえに、アリアにも優しくしてくれていると思う。

 いらん秘密を暴露して関係崩壊させるより、いい方向に行ってくれたと思いたい。



 会話も何もかもをアレクにぶん投げて、お使い任務を半ば放棄していたら、何かの物品リストを見せられた。

 この中から選べと言われたが、オレたちのお使い任務の報酬的なものとして遺物資料館所蔵の物品の中から好きなものをくれるらしい。展示するほどではないが、それなりに価値があるもののようだ。


 博士は5点の旧世界時計の譲渡についての取引は終わっているから、ただ渡してくるだけでいいと言っていた。

 だが、遺物資料館側としては、本来であれば正式な警備を用意して受け取りに行くような物品なので、警備を請け負ったアレクに対して何か報酬を渡さねばならないようだ。アレクはあくまでも小さなレディが預かってきたし、自分は小さなレディの警護役だと言い張ったので、オレが選ぶらしい。


 副館長も、ならばオレが選ぶのが当然という顔で頷いたが、オレはこの強引な論理展開にまったくついていけない。だが、アレクの思惑くらいは分かる。

 遺物展示交換会のときのように、再び小さなレディのお望みのままにしたという噂を流して、盾に使うためだな。


 ならば、オレは大猿のような物品を探してやる。


 だが、不穏な気配を察知したのか、アレクと副館長は動物の置物とか可愛いものと指定して絞った物品リストを見せて来た。

 アレクの圧力を感じる笑顔からして、大猿のようなものがあったとしても、確実に排除されているに違いない。

 

 諦めて、アリア向けに可愛い動物型人形を探そうと思って流し見していたら、一点を見て息が止まった。まさか。


「?どうしましたか?」


 気づかれるほどではなかったはずだが、優秀な捜査官にはオレの動揺が分かったらしい。だが、今は、それもどうでもいいくらいには、気になってならない。


「この、うさぎの」


 今回もあまり喋るなと言われているが、何をどう説明すればいいのか。取りあえずリストの物品を指し示したら、アレクと一緒にそれを覗き込んだ副館長がああと頷いた。


「時計を持っているうさぎと登録されているから気になったのかしら?詳細情報を見てみるわね。あら、旧世界の遺物時計を持っているようだけど、映像が無いわね。ああ、なるほど、時計が壊れているから修理後に撮影する予定だったのかしら。

 少し珍しい形の旧世界時計だから資料として置いていたものよ。時計は未修理のままだから、あまりおすすめはできないけれど、動物と旧世界時計だから、気になってしまったのね?一応、どういうものか見てみる?すぐ近くの保管倉庫にあるから、持って来るわ。ついでに他の気に入りそうな動物型の人形か置物も持ってきてあげるわね」


 どうしようか。アレクを見たら頷かれた。


「ならば、私たちも同行していいですか?私たちも保管倉庫に用があって、この後そちらに向かうところでした。もちろん資料館の保管倉庫に入れてくれとは言いませんし、休憩所で待っています。物品を持って往復するのは大変ですよね」


「それは助かるけれど、よろしいの?ああ、そう言えば、あなた、アリス・ノートをいただいたのでしたっけ。マリア・ディーバの弟さんでしたわよね?あの歌姫なら、素晴らしい歌に仕上げてくれそうだし、楽しみにしてますわ。もしかして楽譜を写しに?」


 副館長はアリス・ノートが保管倉庫地区にあることも含めて色々知っているらしい。単にオレが知らなすぎるだけかもしれないが、アレクが持ってきた楽譜ケースもちらりと見ての分析力はかなりのものだ。


 それをオレに発揮して、変装しているオレの正体を見抜かれたら困るような、見抜かれない方が複雑なような気分でいる間に、アレクと副館長はさっさと話を決めて、オレを連れて地下通路に移動した。

 

ここまで読んでくれてありがとうございました。

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