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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第五章 アリスと黒猫
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7 再びの女装


 ジェフ博士が帰って来たので、食事しつつ明日の予定を話したら、お使いして来いと言われた。


 遺物展示交換会で最後まで残っていた、装飾品の腕輪型旧世界時計の評判が良すぎて、遺物資料館から展示用に何点か譲って欲しいと依頼されたそうだ。

 博士は見栄えがする五点を用意したが、自分で届けに行くと他のからくり時計や大型時計も譲ってくれという話になりそうなので、行きたくないらしい。


「宝飾品はいいんだが、大型のからくり時計は修理に手間かかってるし、どれも愛着あるから渡したくねぇんだよ。半分はお前の祖父さんが修理したものだしな。あとすぐに不具合がでて修理が必要になるから、そのたびに呼び出されるのはめんどくさい」


「確かにめんどくさいな。手が足りないときはオレまで呼び出されそうだし」


「だろ?あと、儂の旧世界時計は高評価だとかで、警備用意して受け取りに行くとまで言われたが、それもめんどくさい。儂の妻の弟である警備局職員に持って行ってもらえばすべて片付くだろ。それから、ユレスは儂の遠縁の孫になって行ってこい」


「?今までもそうだった……いや、まさか」


「時事情報放送で遺物展示交換会のことが取り上げられたせいで、儂は小さなレディについて聞かれまくるし、見合いまで斡旋されそうになったぞ。実在するのかってあたりを突っ込む鋭いのもいてな。あの変装がばれたら、身の安全的に問題なんだろ?つまりばれないためには、小さなレディが実在するってのを見せておいた方がいいぜ」


「待て、頭が混乱して来たが、つまり、また女装しろと?意味が分からない。あの変装をすると仮面の不審者に見つかるかもしれないから女装しないのが正解なのに、小さなレディが実在しないとばれるのもまずいからと言って、小さなレディの存在証明のためにまた女装するのか?」


 自分でも何言ってるか分からない感じに混乱したが、アリアとアレクの姉弟は理解したらしい。


「遺物展示交換会でもアレクが付き添っていたから、また今回もそうなのだと自然に納得されると思いますわ」


「そうですね。小さなレディが博士にお使いを頼まれたことにした方が自然だと思います。預かったのは、遺物展示交換会で最高評価とされた宝飾品の旧世界時計ですから、何かあっては危ないので、私が警護役としてエスコートさせていただきます」


「儂から先方に伝えておくから頼んだぞ」


「待て!オレは頷いていないぞ。何故、女装!?」


「ユレスに似合いそうな服を作っておきましたから、大丈夫です。あまり女装に見えないし動きやすそうにしつつ、ワトスンを胸元に収納できるようにした自信作です!」


「え、なんでそんなもの、作ったのか?何故?」


「前回のものは急いで作ったので、納得のいく出来栄えではありませんでしたからね。ジェフもいつか使う機会がくるかもしれないし、作っておいても損はないって言ってくれて」


「まあな。こういうのは備えた瞬間に機会が巡って来るって、お前の祖父さんなら言いそうだがな。儂としちゃ、女装ってより、猫隠し用って思ってのことだ。お前だとばれる一番の要因は猫だろ。胸元に猫しまってしまえば自然に隠せるし、その分胸元が膨らむから女装になるが、もう猫隠せるなら割り切れよ」


「説得力あるが混乱する気遣いするな!?いや待て、落ち着け。いいか、じじい。明日の優先目標はアリス・ノートだ。つまり、保管倉庫に行くのに変装していたら不審人物だろ」


「ご安心ください。私が同行している場合、保管倉庫地区に入るときも、保管倉庫に入るときも私の腕輪の認証だけでいけますから。遺物展示交換会でもそうだったでしょう?警備局の権限はこういう時に使わないと」


「ばばあを悪い方向に真似するな。そういうのは、確か警備局で特別な保護が必要と判断された場合とかに限定されていたはずだぞ。局長とか信頼度の高い職員しかできないはずだが……」


 信頼度の高い英雄様に無意味なことを言うところだったが、余裕の微笑みがかえってきた。


「このために品行方正でいるわけではありませんが、使えるものは使いましょう。不穏な事件続きですし、外出するときに変装しておいた方が安全ではありませんか?アリス・ノートを確認していただくまでの間の安全確保も正当取引に含まれています」


「そのために女装することまで取引した覚えはない!」



 結局押し切られて、再び博士の屋敷から出発するのが自然ということで屋敷に泊まらされた翌朝、アリアの手により小さなレディが出来上がった。

 前回よりはましだ。監視猫も素直に胸元に収まってるし取り出しやすい。しかも服装に合わせた帽子まで作ってくれていたので変装効果は抜群とはいえ、何故、こんなもの、作ったんだ!


「可愛くできてるぞ、子猫ちゃん。お守役から離れるなよ?」


「噛みつくぞ、じじい」


「アレク、これをお願いしますね」


「はい」


 アレクがアリアから渡されたのは楽譜の入っているケースだった。楽譜は作品とか芸術品の範疇に入るので、腕輪の空間拡張機能で収納することはできない。

 手で持ち運ぶしかないが、アリス・ノートを閲覧しに行くなら、楽譜のケースを持っていた方が自然か。


「楽譜と利用権をアリアに渡すためという名目でアリス・ノートを要求したわけだし、それを持っていたほうが自然だな」


「はい。楽曲をそのまま使うのは歌姫の矜持にひっかかるようですが、せっかくなので一部だけアレンジして使いたいそうです」


「だって、あれはアリスの曲でしょう?わたしの曲に少し取り入れるのはともかく、そのまま使ったらわたしがわたしでなくなってしまうわ」


「……そうかもな。アリアのそういう考え方はいいと思う。だから歌姫マリア・ディーバの歌は魅力的なのだろうし」


 世界進化論は、世界は不滅の魂が経験を積んで進化するために構成されたと語る。人は魂が世界を体験するための器だ。

 核である魂を反映させて、人の体は成長して成熟し、魂の特質を精神体が表現する。だから、人それぞれ、体も精神も表現が異なっていて当たり前だし、自分らしい自分を作り上げていくとこそ、進化だとする説もある。


 体は男、心は乙女の特殊な表現をするローゼスも、自分を表現しているという点では文句のつけようもない。そういう独自表現を規制することは、人の進化を阻害すると解釈される。

 

 誰かの作品を自分の作品のように扱うことは不作法だし、何より、自分の独自表現をないがしろにしてしまうと感じる人もいる。

 だが、誰かの作品に影響を受けたり、一部を取り入れて、新たな自分の表現にしようとするのは、その人を成長させ進化させることでもある。あらゆるものは、互いの影響を受けずにはいられないし、影響を受けるからこそ、異なるもの、新しいものが生み出されるからだ。

 

 ただし、時に強烈な魅力と個性を持つもの、天才少女のように影響力の強い存在なり、その作品の場合、単に追随して複製品をばらまくだけになりかねない。

 そこにその人の自己表現は無いし、アリアが言う通り、わたしがわたしでなくなってしまった状態だ。人としての成長も進化もないし、逆に自分をなくした模倣品になってしまって、進化の逆方向に進みかねないとも思う。


 アリアはアリアだ。アリスの模倣をするつもりもない、しっかりとした自分の表現がある人だからこそ、魅力的な歌姫だ。



 だが、少し困ったところはある。オレの女装の映像記録を撮りたい、これも作品だからと主張してきたが、オレは断固として却下した。

 オレの女装映像に関しては、旧世界管理局長直々に秘匿命令が出ているのである。オレの身の安全のためにも、例外は認められない。


 旧世界では腕輪のような機能を持つ、小型の情報装置を各自が持っていて、映像記録機能も組み込まれていたらしい。しかも無制限で使えるため、相手の同意を得ずに映像記録を取得できたようだ。

 今の世界では、勝手に映像記録を取得して利用することは個人の尊厳を傷つけかねないと判断され、腕輪には映像記録機能は組み込まれていない。


 映像記録は専用の撮影機材で撮るのが基本であり、撮影対象の許可も当然必要だし、基本的に映画や研究用資料やデータベース登録用などの作品として製作するものである。

 時事情報放送も、情報作品として撮影されたものを配信している。誰かへの取材の場合は、当然当人に許可を取るし、遺物展示交換会のような多くの人が集う場の場合、入場することがそのまま時事情報放送に情報作品撮影の許可を与えたことになることが、イベントの基本情報にも明記されている。


 ボーディはオレの女装映像を勝手に撮影したわけだが、映画作品の背景映像として、個人の特定ができないように加工して公開すれば、規制に引っかからなかったりする。そして、加工前の映像記録については、非公開にして適正に管理されていれば、問題視されない。

 映像記録撮影には結構抜け道があるし、ボーディ前局長はぎりぎりのところを熟知しているのだ。


 とにかく、腕輪に映像記録機能を組み込まないことを決定した先人は英断であったと心から思う。

 オレが許可しない限り、オレの女装映像はこれ以上増えないからな。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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