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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第五章 アリスと黒猫
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2 水中劇場誘拐事件


 向かいの部屋をノックしたら、アレクがすぐに出てきて中に入れてくれたが、扉は普通に閉めた。

 

 ようやく変な扱いをするのをやめてくれたようだ。警備局製防音装置を起動したので、単に仕事の話をしたかっただけかもしれないが。

 作業しながらでいいと言われたので、からくり時計を分解しつつ話を聞くことにした。


「デルソレ関係のことは、断片的には報告して来ましたが、一度整理して情報共有していいでしょうか。<知識の蛇>の関与は確定として、今後の対応について意見が分かれていますので、あなたの意見もお聞きしたいです」


「分かった。まとめてくれ」



 デルソレの水中劇場の件は、事情聴取と現場検証の結果、<知識の蛇>が水中劇場内にいる人たちを丸ごと誘拐しようと計画した、壮大な犯罪事件である可能性が非常に高いと推定された。


 その最大の根拠となったのは水中劇場の構造だ。


 デルシーの緊急脱出用の球形船を巨大にしたような形状をしていたが、水中劇場は床から下以外はすべて透明な耐圧防壁で作られていて、足下以外は全面にわたって海中が見える仕様である。

 床下は不透明で中が見えない構造になっていたが、世界管理機構に届け出の無い新しい技術を使用した高性能な推進機構が組み込まれていた。研究局の技術解析の結果からすれば、あの巨大な水中劇場を一定の速度を維持したまま輸送することが可能である。


 床下には推進装置と動力源だけでなく操縦室も存在した。

 操縦担当と思われる人員もいて、鎮静剤によって昏倒していた者たちを捕縛して尋問したところ黙秘を貫いたので、<知識の蛇>の構成員であるとみなされている。黙秘を貫くかどうかで判定できるあたり、ある意味親切な仕様だ。


 海中から浮かび上がった水中劇場が動いていたのは浜辺にいた警備局も目撃したし、映画撮影のための映像記録にも、海上で研究のために調査活動であったリック博士たちの映像記録にも撮られていた。

 水中劇場を中にいる人ごと勝手にどこかに輸送しようとしたのは確定である。


 時事情報放送ではデルソレの大事故と公表されているが、警備局をはじめとして調査にあたった関係者の間では、水中劇場誘拐事件として認識された。



 デルソレの職員と警備から事情聴取した結果、デルソレの警備職員は全員が<知識の蛇>所属と判定された。黙秘してくれるので判定が大変楽だ。


 職員も一部が<知識の蛇>のようだが、大半はデルソレの客へのサービスのために、もしくは、新たな出会いを求めてデルソレで個人活動を希望して採用された人たちであった。

 黙秘することなく採用された経緯や事件当日のことについて素直に話してくれるので判定しやすい。


 蛇の思想は迷惑だが、犯罪行為であれ進化に繋がる素晴らしい経験と主張する以上、自らの行為を否定して隠蔽することは蛇の思想に反する。


 だから蛇の幹部ほど、堂々とやったことを公言する。


 警備局に捕縛されて罰則を受けたくなかったとしても、蛇の理念も裏切れない下っ端の構成員は、沈黙するのが最善の選択になってしまう。


 ただし、後の大規模な計画のために偽証することや隠蔽工作をすることが必要である場合は、それはそれで蛇にとって重要な経験と解釈されるので、黙秘しない人の中にも蛇が混じっている可能性は否定できない。

 <知識の蛇>相手の経験値が高いベルタ局長は、油断なく証言を精査するよう指示しているだろうから、その慧眼に託すのが最善だ。



 <知識の蛇>以外の者から事情聴取を進めた結果、事件の経緯がある程度判明している。


 デルソレの合同所有者たちの代表を務めている、元セイレーヌのラキアの証言では、デルソレを建設しようと提案したのはマキナである。

 マキナは、斬新な設計をする設計士を確保して、世界管理機構の許可も取り付けて、世界管理局の監督下にある条件型交流場として承認される手はずも整えた。


 マキナの尽力が大きいので、マキナが代表となっても良かったはずだが、マキナは代表はラキアが務めてほしいと頼んだ。

 ラキアが後進の指導育成に力を入れていることと、セイレーヌの頃からラキアがリーダーである方が上手く行くと思っていたからと説得されて、ラキアも頷いた。


 代表として宣伝活動に力を入れたり広報して回ったラキアの活躍があって、デルソレはかなりの注目を集めたので、人選は間違っていなかった。

 代わりに建設計画の管理をはじめとして、裏方の人員確保や警備の手配など地味な仕事はマキナがすべて請け負っていた。


 それは、マキナの計画に必要であったからだと推測されている。


 デルソレが営業を始めて誰もがラキアが代表と認識した頃合いで、マキナがラキアに大きいイベントを企画しないかと持ち掛けた。

 不具合が発生して非公開になっていた水中劇場の修理が終わったので、それのお披露目もしたいと。ただし、事前に宣伝はせず、水中劇場が無事に公開されたことも含めて後から発表する形にするよう提案した。


 一度不具合が発生していたのでラキアも賛成し、祝花祭の後で花王と花姫たちを招待したときにイベントを開催して、水中劇場のことも派手に宣伝する計画を立てた。

 デルソレを監督している世界管理局には計画を報告済みであり、世界管理局からは見合い推進政策の一環としての協力も依頼されて、多くの招待客を招いて水中劇場のお披露目がされることになった。



 マキナ、いや<知識の蛇>にとっては、水中劇場のお披露目ではなく、<知識の蛇>の実力と技術力のお披露目の場にするつもりだったかもしれない。


 水中劇場のお披露目の当日、ラキアは予定より早めに水中劇場への案内を始めると言われて了承した。

 警備担当の采配が良かったせいか、混乱もなく、予定時刻よりかなり早く案内が完了したとの連絡を受けて、代表として挨拶をするために水中劇場に向かった。マキナは事前準備のために先に水中劇場に向かっていたそうだ。


 ラキアが水中劇場に続く通路に入ろうとしたとき、マキナから設計士の助手だと紹介された男に声をかけられて、通路に不具合が発生したと報告された。

 水中劇場の入り口の扉でも警備が何か作業をしていて、慌ててこちらに戻って来たので詳細を確認しようとしたところで、通路が突然破損して海水が流入して来た。


 これは、旧世界の軍事用爆発物ではなく今の技術で作られた爆発物を利用したと推定されている。


 姉御が現場検証に行ったが、おそらく最初は旧世界の軍事用爆発物を仕込んでいたが、扱いきれずに誤作動を起こして通路を損壊させたので、今の世界の技術で作ったものに切り替えたのだろうと推測していた。

 もしかしたら、扱いやすい爆発物を作って仕込むために水中劇場の修理に時間がかかっていたのかもしれないが、そこは黙秘を貫く蛇にしか分からない。


 通路は吹き飛んだが、緊急時に展開される隔壁は問題なく作動したし、水中劇場にもデルソレ本体にも影響がなかったことからすると、<知識の蛇>の技術力が高いのは間違いない。


 マキナが紹介した設計士というのも当然<知識の蛇>であると推測されている。マキナがすべて手配して交渉していたので、ラキアは連絡先も把握していなかったらしく、身元を突き止められていないようだ。

 治療局長の妻であるマキナの社会的信用度が高いからこそ、あえて確認しなかったのもあるだろうが、それでラキアはいいように利用されてしまうことになりかけたわけだ。


 隔壁が閉じた後、茫然としているラキアを警備が拘束した。

 警備たちに連行されながらラキアが言われたのが、とんでもないことをしたとか、すべてラキアが計画して、責任はラキアにあるというようなことだったらしい。


 意味不明すぎて茫然としているラキアのことを、大事故なのか大規模誘拐事件かを計画した主犯に仕立て上げるつもりであったと推測されている。


 そのために様々な証拠物件をそろえていたし、警備局がデルソレに鎮静剤を大量投入して全員意識不明にして制圧しなかったら、そういう台本でラキアが犯人とされてすべての責任を取らせられるところだったのだろう。


 ラキアは酷い冤罪事件を仕掛けられるところだったが、冤罪事件よりも不穏なことが想定されている。

 蛇があえてラキアを主犯に仕立て上げる偽装工作をしたり、偽証をするということは、誘拐事件だけで終わらず、次につながる何かがあると推定されるからだ。


 だが、それが何かを考える前に、オレはどうしても引っかかることがあった。


「ラキアが上手く利用されて、犯人に仕立て上げられる流れまで計画のうちだったのだろうが、オレはどうしても疑問があるんだが」


「何ですか?」


「ヒミコに<色欲>の原液を使って襲った男は、その状況で何をしたかったのか意味不明過ぎる。ラキアを犯人にするための行動にはならないよな?ラキアは女だし、その男が性犯罪をしているとしか認定できないだろ。

 水中劇場を封鎖して切り離して、中にいる人たちを丸ごと連れて行こうとする重大作戦の最中だぞ。しかも、砂浜ではバトルドレスが待機しているし、海中に網を張られていたり、転送装置は兄妹が制圧していたりという状況下だ。

 どれだけ情報と状況を把握していたのか分からないが、その状況でことに及ぼうという発想がすごい。

 <知識の蛇>はあらゆる体験を是とするがゆえに、変態的で普通ならやらない行為もするし、刹那的な快楽主義者もいるのだろうが、他にやるべきことは多すぎるくらいあるだろうと思うのは、オレが未分化型で分かっていないからか?

 まさか、もはやこれまでと思ってのことなんだろうか。旧世界では腹上死という概念があってな。男たるもの、女とやってるときに死」


 アレクの手が伸びて来てオレの口を塞いだが、肩の上の黒猫はにゃあと鳴いただけだった。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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