1 ドルフィー型人形
第五章開始。残酷描写も入りますのでご注意ください。
その獣は、人を救うために天使を喰らって世界を終わらせてやったのだと告げた。
◇◇◇旧世界管理局遺物管理課捜査官日誌◇◇◇
63410522 0800 ユレス・フォル・エイレ捜査官、捜査官席に待機開始。
63410522 0900 ユレス・フォル・エイレ捜査官、遺物資料閲覧申請の立ち会い任務開始
63410522 1200 遺物資料閲覧申請の立ち合い任務終了。ユレス・フォル・エイレ捜査官勤務終了。
日誌を登録して、いつもの手続きを終えて監視猫を肩に乗せて受付館に出たら、資料閲覧申請者が待っていた。
旧世界管理局長に挨拶して、警備局長からの届け物を渡してから退出すると言っていたはずだが、早いな。
勤務が終わったらジェフ博士の家に行こうと誘われたのを、新婚家庭に行くのは嫌だと回避したつもりでいたが、回避できていなかったらしい。
「ユレス、姉も待っていますので、来てください」
エスコートでもするかのようでいて、割と強引に転送装置に連れ込まれたが、警備局の警備は仕事しろ。何故オレが逃亡しようとすると立ち塞がって、拉致されるときは黙って行かせるんだ。
博士の屋敷の転送装置の部屋に到着したところで、一応聞いてみた。
「もしやまた怪しい物品が送られて来たのか?」
「いつも事件発生しているかのように言わないでください。そういう話をすると事件発生のフラグになってしまうんですよね?」
「オレは極力何もせず怠惰にしているのに、出歩くと何故か事件に遭遇するので、フラグ効果はあまり意味がないと思うが」
「よけいに悪いと思います」
アレク捜査官の姉であり、今は活動休止中であるが人気の歌姫のマリア・ディーバであり、遺物研究家として有名なジェフ博士の妻であるアリアには割と重大な用件があった。
広いテーブルの上にずらりと並べられたドルフィー型人形について、オレの意見を聞きたかったそうだ。
そこはオレではなく、ドルフィー専門家のリック博士か、デルシー海洋遺跡管理者の支配人の意見を聞いた方がいいと思うのだが、お気遣いのあるアリアはすでに聞いていた。
デルシーから帰る前に、二人にドルフィー型人形を作りたいと相談したところ、オレがいいと言えばいいという回答を貰ったそうだ。
あの二人にとって、オレはドルフィーの代理人的位置付けらしい。正確にはオレの相棒であるAIワトスンがだが、にゃあとしか言わない代理人でいいのだろうか。
だが、オレはドルフィー案件については、突っ込まないことにしている。ドルフィーに関しては、オレの意見は聞かれているようで聞かれていない。ただ頷けばいいだけなのだが、たくさんあるドルフィー型人形の中から好きなものを選べと言われると困る。
実はまだあるとアリアが取りに行ったので、オレの隣に座っているアリアの弟であり、警備局の英雄であり捜査官でもあるアレクに聞いてみた。
「どれがアリアの好みなんだ?」
「全部ですので、気にせず選んでください。ドルフィー・ハーレムは問題がありますので、3つに絞っていただく必要がありますが」
微妙に引っかかる言い方をされたが、デルシーの支配人から、せっかくだからドルフィー型人形を大量生産してデルシーで展示して取引できるようにしたいと言われているらしい。
今までにもそういう話は何度かあったのではないかと思うのだが、普通の観光宿泊施設ではなく旧世界遺跡の管理用の施設という側面を強調するために、あえてそういうものは置かないようにしているのだと思っていた。
アリアは支配人に相談するときに、実は持って来ていた猛獣型人形を見せて、この職人に依頼すると言ったところ、支配人がこの出来栄えの職人であれば、研究資料的な位置付けで扱えると頷いたそうだ。
リック博士のようにきゃーきゃー言わないだけで、支配人のドルフィー愛も強いのは分かっている。今までドルフィー型人形の企画を却下していたのは、納得のいく職人がいなかったからなのだろう。
オレがいいと言えばと回答しつつも、オレの知らない水面下ではすでに計画は進行していたし、量産計画も検討されていて、職人が最大効率を維持するには、デザインは3つに絞らないと無理だという結論にも至っていた。
パーツが多すぎると間違って作ってしまうこともあり得るので、その判断は妥当だと思うが、そもそもポーズとか向きとか色々変えて試作品を作るなと言いたい。
戻ってきたアリアがドルフィー型人形をさらに追加しつつ説明してくれたところによれば、職人にドルフィーの映像記録を見せたら、やる気に満ち溢れて作りまくってしまったそうだ。
こうしてまたドルフィーファンが増えた。
デザインが決まったら、支配人が職人をデルシーにご招待して更なる高みを目指すらしいので、オレには割と重大な任務が課せられている。
ドルフィー型人形を作ること自体はすでに決定事項であるし、オレの意見も聞かれていないが、支配人の指令は、デザインを3つに絞って決めろというものだとようやく解読できたので、さっさと選んだ。
アリアがさっそく連絡すると忙しそうに通信しているが、何故この3つなのかを突っ込まなくていいのだろうか。そこは隣にいる捜査官が聞いてきたが。
「参考に、どうしてこの3つを選んだのか聞いていいですか?」
「大きいお客様が持ちやすいサイズ、小さいお客様が持ちやすいサイズ、添い寝しやすいサイズ。以上」
「見た目で無く、まさかの大きさでしたか。しかも最後の添い寝って何ですか」
「アリアだって猛獣型人形でやってるんだろ?ふわふわで柔らかいからクッションがわりにいいと思う。博士が職務で遅いか、留守の時にそうすると言っていたが」
聞いていないのかと思ったら、連絡を終えたアリアが恥ずかしそうに、弟には言ってないと告げた。
何故かと思ったら弟は難しい顔をしていたので、姉弟間では言えない事情でもあったのだろうか。まずいことをばらしたかと思ったら、弟の方が真剣な顔で言いだした。
「姉さん、それは……浮気では?」
「違います、ジェフの許可もとってありますもの、いいんです!」
「アリアでなくて、お腹の子どものお守役だと解釈しろ。子守猫のようなものだ」
「……あなたにそう言われると、必要ないと言えなくなりますが」
逆にどういう意味だと追求したい。
「アレクも猫を特注したんだろ」
「私は撫でているだけです」
「まあ、猫は撫でるくらいしかできないしな」
オレの監視役である黒い子猫が、オレの膝の上で丸くなったので撫でてやったら、にゃあと鳴いた。猫を眺めながらアレクが言った。
「デルシーの職員の方たちは、あまり動かない装飾品のような監視役が多かったですね」
デルシー専属職員は全員旧世界管理局の職員なので、当然のことながら監視役のAI-ASを連れて勤務している。だが、接客する都合上、目立たないものにしているし、魚とか貝の小型の海洋生物の形の装飾品のようにしている人が多い。
「接客も職務の一部だから、監視役がなるべく目立たないようにしているし、旧世界管理局側も配慮して、デルシー専属職員は監視役のサイズの基準を引き下げている。
相棒のAIの影響度とか危険度に応じて監視役のサイズが決められているが、危険度が高いと判定されるとそれだけ監視機能を強化しないとならないので、大きく作らざるを得ない。
ローゼスは巨大な蝶だが、あれは髪飾りに偽装しているようで大きすぎるからどうしても目立つが、あれより小さくできない。姉御は武装としても使えるよう、決められたサイズよりあえて大きく作っているが」
「便利そうと言うより、動物虐待っぽく見えますよね、あれは」
姉御の監視役は蛇だ。
<知識の蛇>のことを知っていると非常に意味深な選択なのだが、蛇の形状は腰帯の代わりにしたり、簡易的なロープにしたり、鞭代わりに使ったりと、道具としては大変有用な形と思えど、酷使されている現場を見ると監視蛇に同情したい気分になる。
姉御としては本物の動物でもないし、むかつく犯罪者集団的な蛇と思えば、酷使しても良くない?という割り切った態度だ。
監視役の破壊を目論んでいると受け取られかねないし、監視蛇に内蔵されたAI-ASは抗議してもいいと思う。
だが、姉御は壊れないようにとことん丈夫にして!と強く要望して、監視蛇に様々な機能を組み込ませているので、AI-ASの方も、武装的な相棒として頼りにされていると認識して意外に上手くいっているようだ。
姉御の相棒のAIは監視蛇が気に入っているわけではないが、姉御の武装強化になると一定の理解は示していると言っていた。
姉御の話題になったのでアリアが教えてくれたが、姉御はポーラ女史に監視蛇に合う感じのバトルドレスのデザインと制作も依頼したそうだ。
アリアからドルフィー型人形のデザインが決まったと連絡を受けて、隣からポーラ女史が来て、バトルドレスのデザイン案も見せられたが、ドルフィーはともかくバトルドレスはオレの管轄外だ。
ベルタ警備局長もお揃いで作ったら大迫力になりそうなので、ばばあに聞いてみたらどうかと適当に言って流したら、確かにベルタには似合いそう!とアリアと二人で盛り上がって、更なるデザイン検討会を始めたのでオレは退避することにした。
夜には博士が帰って来るから一緒に食事しようと言われていたので、帰れなかったので、オレ用の部屋に逃げ込んだ。
妻の弟枠でアレクもオレの向かいの部屋を貰ったそうで、そこに置いてあるからくり時計の調子を見て貰えますかと言われたので、オレ用の部屋に置いてある工具箱を持って向かいの部屋に行った。
ここまで読んでくれてありがとうございました。




