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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第四章 蛇と黒猫
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27 オランジェカクテル


 支配人もオレと話すつもりだったのか、向き合って座った。


「<知識の蛇>が関わっていると思うか?」


「それが自然な結論となりますな。あれだけ巨大な建造物に密かに推進機構も組み込む技術力となれば、<知識の蛇>くらいしか考えられません。局長も同意見ですし、ボーディ前局長からは、変態の作品かもしれないから十分注意するようにと言われております」


「ボーディが狂気的変態技術者と言っていた蛇のことか?ボーディが、デルシー海洋遺跡は侵入されること自体滅多にないが、侵入者として排除される体験をしたいがために、手の込んだことをした変態がいると言っていたことがあるんだが、それ?」


「それでございます。警備局と旧世界管理局が現場に急行して、侵入者を捕縛して球形船も回収いたしましたが、球形船を体験したことは事実ですし、それだけである程度の構造と機能を察することができるくらいには、有能な変態でございます。侵入者の場合、球形船内部に睡眠効果のある薬が投入されますので、ごく短時間しか意識が無かったはずなのですがな。

 そう言えば、ミヤリはなかなか見事な発想でしたな。デルシーの緊急脱出用球形船の話をしたときに、侵入者の場合は内部に薬剤が投入されることも説明いたしましたが、それを水中劇場にも拡大適用して暴徒鎮圧用の鎮静剤を大量投入しようと考えたのでしょうが、期待の新人ですな」


「冷静だし、捜査官向きだと思う。だが、新人に今回の件は危険すぎたな」


「ユレスは、とんでもない推論をしたときには<知識の蛇>の関与を疑っておりましたな?」


「旧世界の軍事用爆発物が出て来た段階で、支配人と姉御も疑ってただろ。旧世界管理局以外であんなものを持っていて、使おうとするのは<知識の蛇>くらいだ。オレのとんでもない推論による壮大な誘拐計画は、<知識の蛇>の技術力を前提にしないと成立しない。だから、あたって欲しくなかったんだがな」


「警備局長は、ユレスがとんでもない推論をしたからには、そうなるかもねとのご意見でしたので、自ら先頭に立って大規模に警備局を動かしてくださったのですぞ。

 相手が<知識の蛇>であれば、誘拐計画を口にしたデルソレの警備担当は<知識の蛇>の構成員の可能性が高いと見込まれて、デルソレ内に鎮静剤を大量投入するよう指示なさったのでしょう。

 ベルタ警備局長は誰よりも<知識の蛇>の手口に通じておられますし、旧世界管理局からは正式にクレア捜査官が協力することになりましたので、ユレスが首を突っ込む必要はございません。着替えてからオランジェ採取に行くのがユレスのやるべき休暇です。新人を補佐につけますので、ご存分にどうぞ」


「それ新人指導しろってことだし、休暇じゃないだろ」


 本当に人手が足りないので新人研修をオレに投げて来たのは分かるし、オランジェ果樹園の場所に案内して採取方法を指導するつもりはあったから別にいいけどな。


 新人たちがカクテルづくりもしてみたいと言うので、大ラウンジのカウンターで指導していたら、浜辺で仕事していた人たちが大ラウンジに休憩に来るようになってきた。現場は結構忙しいらしい。

 ミヤリとリマとマークの新人三人組がカウンターにくるのが見えたので、オランジェカクテルを用意した。


「あ、カクテルになるとまた違った味わいですね。成人向けの味って感じ」


「リマは味覚がまだ子どもだから、ジュースを貰ってもいいのよ」


「成人だから、これも美味しく感じるからいいの!マーク、一気飲みするのはもったいないよ」


「いいんだ。ユレスさん、何かきついお酒をください」


「旧世界ならともかく、今だときつい酒って言うと味が尖ってるという意味になるんだが。じゃあ、刺激系で」


 きつめの炭酸に酸味の強い果実を絞ってやったら、残りの二人も興味がありそうだったので、そっちにも提供した。

 甘くないのでつまみ用に甘い菓子も出したが、三人とも味覚がまだ子どもかもな。


 マークはオレがデルシー内浜辺でドルフィーたちとボール遊びしていたことを今頃知って、リック博士の裏切り行為に拗ねていたらしい。

 だが、万全の状態だったからこそ、海上からいい映像を撮れたじゃないかと二人に慰められていた。


「マークの撮った映像は映画の一場面のようだったので、高評価されると思います」


「そういえば、先輩が防犯映画はすごい出来栄えになるぞ。いい映像撮れたって言ってたけど、水中劇場の映像も組み込むのかな?」


「事件か事故か、今回の件の扱い次第になると思うわ。ところで、ユレスさん、遺物管理課に遺物映画専門の管理官がいるとお聞きしたのですが」


「紹介するか?冒険とか恋愛とか好みの物語とか、性癖とか好みのタイプとか言うだけで、お勧めを紹介してくれるぞ。ミヤリなら非公開作品も閲覧可能だ。

 旧世界におけるドルフィーに相当するイルカという生き物が出て来る作品もあったと思う。イルカは問題ないが、犯罪行為が表現されていて非公開になったんだ。犯罪の参考にされると困るから、事件とか犯罪行為が主題だったり大きく絡んでくる映画は、基本的に非公開になる。

 非公開映画でも、旧世界管理局職員が同席すれば閲覧可能だが、犯罪系の映画だとそれなりの理由がないと閲覧許可がでない。警備局だと事件とか捜査の参考にするためと理由がつけられるから、大体許可されるが」


「え、じゃあ、あたしはイルカの映画を見せて貰えるんですか?」


「旧世界管理局職員が同席して指導する必要があるが、ミヤリに頼めばいい。イルカが出て来る映画を見るならマークも誘ってやってくれ。今回協力者になったし、許可が下りやすいと思うから」


 そしてドルフィーへの道ならぬ愛から、人の世界に戻してやって欲しい。


 仲良く今後の予定を話しながら食事に行った三人を見送った後、オレはひたすらカクテルを作り続けたが、オランジェの在庫が少なくなってきたので、後は予約客用ということにした。

 注文しようとした客にお断りしているのが聞こえていたのか、休憩に来たアレク捜査官が困った顔で言った。


「オランジェカクテルは、もう無くなってしまいましたか?」


「予約客用に確保してあるから、どうぞ」


 オレも少し休憩しようと二つ作ったら、アレクが微笑んで一つ受け取った。

 仕事の話をする気はなさそうなので、映画の話をすることにした。犯罪系の映画でも冒険あり恋愛ありと、結構幅広いからな。


「恋愛ものがいいです」


「ローゼスお勧めのものだな。だが、ローゼスは泥沼愛憎悲劇みたいのも好むから、胸焼けするかもしれない」


「ユレスはローゼスと一緒にそういうのを見ていたのですか?」


「オレは話がよく分からなかったし、登場人物の関係性に混乱して、途中から猫だけ見ていた。旧世界映画には、ペットと言って旧世界人と同居していた家族のような動物が出てくることが多い。犬と猫は特に多いぞ。

 相棒のワトスンが猫だから、オレは猫の行動研究のために見ていたようなものだ。猫であってもそれぞれ性格も行動も違うから、気まぐれに翻弄してくる生き物だという漠然とした印象でしか語れないが」


「私も同じ印象を持っています。気まぐれとまでは言いませんが、翻弄されていますし」


 アレクがオレを見て言ったが、監視猫が肩の上をうろうろして、ときどきアレクの方に尻尾を振っているからか。


「猫が気に入ったのなら、猫が出て来る映画でも探しておく」


「可愛い子猫を手懐ける方法が分かる映画があったら、是非お願いします」


 細かく指定される方が探しやすいが、特殊系な指定をされるとオレの手に余るので、遺物映画専門官に聞いてみるか。

 少しは休憩できたのか、割と機嫌よく現場に戻るアレク捜査官を見送ったら、入れ替わるようにど派手なバトルドレスがやってきた。しかも二人。


 オランジェカクテルを用意したところに、どかっと座って、ぐいっと飲み干してお替りを要求されたが、残り少ないのでお一人様一杯でお願いします。代わりのカクテルを用意して差し出した。


「あ、これはこれでいいわ。なんかつまみないの。甘辛い奴、お腹にたまる方がいいかな」


「あたしには果物おくれよ。酸味が聞いてて歯触りがいいやつ」


 やれやれ、要求が多い客だな。 


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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