26 事件の顛末
宿泊施設デルシーの支配人室は、陸上の高い位置にあって浜辺側が良く見えるし、遥か向こうにデルソレも見える。
浜辺の監視任務も込みでこの部屋を支配人室にしたらしいが、そのために、今は非現実的というか旧世界映画的な光景の絶好の観覧場所となっていた。
オレたちが入室したら無言で窓を示されたが、すごい光景だな。
「映画より、映画っぽいな」
「手の空いている者が総力を挙げて映像記録中でございますが、デルシー内浜辺の方にも映像記録係を回していたので手が足りなくて困りました。昨夜のうちにボーディ前局長が映画用機材を送ってくださっていたので、定点記録のために設置しておいたのも稼働させて対応しております。では早速、現在の状況をお話しいたします。まず……」
まず、デルソレに行ったローゼスとロージー兄妹は見事な演技力で現場を翻弄しつつ、転送装置近くに居座った。
同じ頃合いに浜辺に映画機材を抱えた警備局とバトルドレス二人が姿を現し、デルソレには、浜辺で火宴祭に出す防犯映画の追加映像を撮影すると通知された。
支配人ははっきりとは言わないが、煽ったのだろう。
何らかの犯罪計画を実行しようとしている場合、警備局長の存在を無視することはできない。鋼の女ベルタはそれだけ有能で恐ろしい相手だ。
やる気に溢れたバトルドレス姿で浜辺に現れた警備局長を見て、恐れて計画を中止してくれるならそれでもいい。デルソレには後で正式に手を回して調査を入れればいいだけだ。
今回は、誘拐計画を耳にしたが、時間も情報も証拠も何もかもが足りなかったので、事件発生したとしても最悪の事態は回避できるようにするのが限界だった。
そもそも事件発生するかどうかすら不確定だった。
事件など起こらない方がいいのだが、警備局長がいても強行するような相手だった場合、焦らせて煽って、計画に狂いを生じさせるのも有効な手である。
警備局長以下警備局職員が浜辺に揃っている状況は、デルソレで犯罪計画を実行する寸前であった場合、ものすごい圧力になったはずだ。
ローゼス兄妹が逐次デルソレ内の情報を流して来たが、予定より早く水中劇場への案内が始まり、兄妹のこともご案内しようと職員だけでなく警備も来た。
だが、ロージーは男は近づくな、女の警備員寄越せと要求して、相手を翻弄した。いや、単に趣味かもしれない。
ほとんどの客が水中劇場に入ったのにごね続ける兄妹に相手は切れたらしく、強引に捕まえて連れて行こうとしたので、即座に正当防衛して、転送装置を制圧した。
ローゼスもロージーも護身以上にできるし、兄妹が揃うと割と凶悪だ。どちらが襲撃した側か突っ込まれないことを祈る。
兄妹が転送装置を確保した頃、海上で調査活動中のリック博士たちは、突然球形の巨大建造物が浮かび上がってきたのを確認し、ドルフィー保護のため、防護網の機能を展開して海上まで保護障壁を展開した。
浜辺で防犯映画撮影中の警備局と旧世界管理局一同も突然の事態に驚いたが、警備局長の指揮の下、迅速に事態の対応にあたった。
警備局長はデルソレの水中の建造物で事故が起こって浮かび上がったに違いないと判断し、建造物が流れないよう、警備局の訓練施設にけん引するよう指示した。
建造物は動いていたが、リック博士がドルフィー保護のための障壁を展開していたおかげで警備局の施設側に流れつつあったので、即座に砂浜に引き上げることができた。
透明の強化防壁から見える水中劇場内は突然の事故により大混乱していたので、警備局長は怪我人を出さぬよう、警備局の訓練のために用意していた暴徒制圧用の鎮静剤を水中劇場に投入するよう指示した。
事故現場であるデルソレには即座に警備局職員を派遣していたが、中から助けを求めて出て来たのがロージーである。
兄と共にデルソレに来たが、突然デルソレの警備に襲い掛かられたと訴えられ、警備局職員はデルソレ内に突入した。
報告を受けた警備局長は、デルソレ内の転送装置に人員を送りこむと共に、デルソレ内部にも暴徒鎮圧用の鎮静剤を投入するよう指示した。
客を襲うようなデルソレの警備担当は信頼できないし、デルソレで発生した事故のせいで、デルソレ内部も大混乱している可能性があるからだ。
大量に鎮静剤を投入した結果、デルソレ内は完全に沈黙し、現在は現場検証をすると共に、一人ずつ運び出して鎮静剤の中和薬を投与して、事情聴取に当たっている。
水中劇場の方も鎮静剤が大量投入された結果、全員が意識を失って、混乱のせいで怪我人が出る事態は回避された。
こちらも救助しつつ中和薬を投与して、事情聴取をしていく次第である。
「ただ、人数が多いので時間がかかることでしょうな。大事故ですので、世界管理機構にも報告済みでございますし、救援のための人員と資材が続々と到着しております。
わたくしどもデルシーといたしましては、支援はさせていただきますが、管理遺跡間近で起こった事故によって遺跡に変事が起こらぬとも限りませんので、適正な遺跡管理のために通常通り職務を遂行させていただくのみです」
「……取りあえず、オレの日程はそのままだと念押しされたのは理解した」
アレク捜査官には逐次情報を入れていたようだが、オレには何も知らせてこないあたり、支配人の固い決意と覚悟がうかがえる。
アレク捜査官を見たら、ものすごく残念そうな顔で言われた。
「人手が足りな過ぎて、私にも動員がかかりました。休暇はここまでのようです」
「アレク捜査官は、宿泊予定期間中はどうぞデルシーを拠点としてご利用ください。警備局長もそのおつもりですしな。休暇返上されたとはいえ、デルシーの大ラウンジのカウンターでカクテルを飲んで休憩なさっても良いと思いますぞ。オランジェカクテルはもうお飲みになりましたかな?」
支配人がオレに視線で圧力かけて来たので、頷いた。
「オレはオランジュ採りに行ってカクテルを作るくらいは許されるらしいから、気が向いたらどうぞ」
「楽しみにしています。では、行ってきます」
眼下で忙しそうに働いている人たちの群れに加わりに行くアレク捜査官を見送って、オレは支配人に向き直った。
「話があるという顔ですな?」
「めんどくさい話がな」
ここまで読んでくれてありがとうございました。




