25 デルシー内浜辺
デルシー内浜辺には、通常は立ち入ることができない。
宿泊施設デルシーの建物で取り囲まれた砂浜区画であるが、そこから海に潜ると海中通路まで行けてしまうので、防犯上の観点から閉鎖している。
海中通路の破壊行為を仕掛けられることまで警戒しているわけではないが、ときに馬鹿な客が海中通路のところまで潜って、海中通路に入った人たちに挨拶しようとするからだ。
ドルフィーを楽しみに入ったのに、やってきたのは人という大変残念な話である。がっかりされるだけなので、そういう行為はやめてもらいたい。
デルシー内浜辺では自給用の貝の栽培もしている。大貝と呼ばれていて、肉厚で美味しいので、隠れたデルシー名物でもある。
定期的に採取してデルシーの厨房で料理されて提供されるが、砂の中に埋まっているので、砂を掘って採取するのに割と手間がかかる。
支配人はそれを客にやらせてしまうべく、餌としてオレとアレクを用意した。
子どもはやり始めると夢中になるから、オレが実演すればすぐにひっかかると読んだのだろう。
成人でも嵌まる人は嵌まるし、そうでなくても子どもが貝掘りしてるのを見て楽しんだりできるから、悪い計画ではないが。
溺水防止機能がついた服に着替えてデルシー内浜辺に入ったら、あちこちにテーブルと椅子、飲食物も用意されていたし、砂を掘るための道具も準備されていた。
オレがアレクに大貝の掘り方を教えていると、浜辺に来た子どもたちが突進して来た。情報回るの早いな!?
デルシー専属職員も配備されていたので子どもを網で受け止めて、そのままオレに引き渡して来たので貝掘り指導をした。
大きいお客様もたくさん来たからそっちも指導したが、ジェフ博士は指導しなくてもいいだろ。アリアはどうしたんだと思ったら、椅子に座ってこっちに手を振ってきた。
「儂も大貝食べたいと思ってたし、ユレスがここにいるなら、ドルフィーが覗きに来るだろうと思って連れて来たんだ。って、おいおい、もう来たぞ。呼んだのか?」
「呼んでないが、今日はなるべくデルシー海洋遺跡周辺にいてくれと伝えておいた。仕方ない、少しサービスする」
ドルフィーに気づいた人たちが、オレに期待の目を向けているからな。水際ぎりぎりまで行って、監視猫が首に巻きついてきて苦しい中、声を上げた。
「ドルフィーが来ましたが、相手は自然に生きる動物ですので、無理に近づこうとせず、自然な交流を心がけましょう。研究局の博士たちがいらっしゃいますし、分からないことは質問してください。こちらのリック博士はドルフィーの専門家ですから」
仕事しろ、専門家!最前列できゃーきゃーやってる場合ではないぞ!
「ドルフィーは大貝も食べます。今から私がドルフィーにボールを投げて遊びに誘いますが、遊んでくれたドルフィーにはお礼に大貝をあげたいと思いますので、用意してくれると助かります」
黙々と掘っていたアレクがオレに大貝を渡してくれたので、貝を専用ナイフで開けて用意した。
ララが顔を出したのでボールを投げたら、ジャンプして尻尾でぱしっと叩いてオレに返して来たので、歓声が上がった。
ララにお礼の大貝を投げたのも見事に受け止めて食べた。誘拐されたララを保護した後でこうやって遊んだことがあるし、他のドルフィーも真似したがったのでときどきやっている。
問題はオレの体力が削られることだが、ここに配備されている専属職員が上手く調整してくれるはずだ。というかしてくれ。
任せろと視線が返ってきたので、オレたちはドルフィーを餌に、小さい客も大きい客もひたすら貝掘りさせまくっては、ドルフィーたちに大貝を献上するということを繰り返した。
飽きないのかと思うくらいだが、オレが午後のご案内のために撤収すると告げると、まだやりたい顔だったあたり、飽きないんだな。
アレクも一緒に撤収した。オレの遺跡ご案内に警備局として同行するらしい。ドルフィー狙いの誘拐事件の可能性はかなり低いが、絶対にないとも言えないので、不測の事態に備えて配備したそうだ。
マークとリック博士はドルフィー優先を前提に協力してくれているので、配慮したのかもしれない。
「そう言えば、デルシー内浜辺にリック博士がいたが、マークはいなかったな」
「リック博士とマークは徹夜で海洋調査に出て、網を張って、記録装置も配置して来ました。正午過ぎから再び調査のために海に出る予定ですので、それまでの間は休息することになっていましたよ。
ただ、私と支配人が本日の予定を相談していたのをリック博士も聞いていて、頷いてから徹夜の任務に赴かれました。おそらくドルフィー優先で予定を組み替えたのだと思います」
「とことんドルフィーには手を抜かないな。で、マークには黙っておいて、休息させて操船させるつもりか。リック博士の操船は荒いから、その方が賢明だとは思うが」
「ジェフ博士が、リック博士の船には乗りたくないと言っていましたが、それほどですか」
「それほどだ。リック博士の養子で助手のマークは、操縦資格が取得できる年になったら即座に取得した。船にしろクラフターにしろ、マークの方が操縦が上手い。リック博士は船の先端で腕組みして立たせておくのが一番役に立つらしい」
「あの、それはただの置物というか船の飾り的なものではないですか?」
「船の飾り的なものを置くなら、ドルフィー像の方がいいんじゃないかと言ってみたことはあるんだが、ドルフィーをそんな危険な場所に置きたくないそうだ。デルシーの玄関ホールにあるドルフィー像はリック博士が作ったものだし、リック博士の屋敷にたくさんあるんだけどな」
「そうだったのですか。姉もあのドルフィー像を気に入っていますし、取りあえずドルフィー型人形を特注するつもりです。遺物展示交換会で取引した、猛獣型人形を作った職人の連絡先を渡しておきました」
「アレクも猫を特注することになっていたな」
「はい。とても可愛い猫を特注しました。早く手元に来てくれるといいのですが」
午後のご案内のためにドルフィー像の前に行ったら、さっき別れたばかりの連中がすでに待っていた。
子どもたちは自ら網を持つくらいのやる気ぶりだが、突進しないなら網はいらないんだが。
貝掘りで体力を削っておいたのが良かったのか、今回は網の出番が無いのに、何故か子どもが自主的に網を持つという状況でご案内したが、特段の異変もなく終わった。
支配人のところに向かいつつ腕輪を確認したが、特に連絡も来ていない。
「オレの方には何も連絡が無いんだが、アレクはどうだ?」
「はい、無事に事件発生して解決しました」
……は?
ここまで読んでくれてありがとうございました。




