24 休暇任務
デルシー海洋遺跡に続く海中通路前まで来たので、規定通りの注意事項を言った。
旧世界管理局職員しかいない場合でも、規定通りの文言を言わないと扉が開かない仕様である。ローゼスが旧世界の開錠の呪文のようなものだと言ったこともあった。
扉が開いたら、すぐそこにララが嫁を連れて待っていた。
さっそく兄妹が突入したが、兄に任せておけばいいので放置する。
姉御もバトルドレスを華麗に翻して突撃して行ったので、ドルフィーたちがくるくる回って真似し始めた。姉御はドルフィーと仲がいいのでこっちも放置で問題ない。
オレはアレクとゆっくり歩いて行くことにしたが、気まずい。
海中通路に入る前にしていた話がようやく整理できたが、姉御の解説からすれば、アレクにデルソレに潜入捜査しに行けというのは、ヒミコと結婚しろと言っていたようなものらしい。
知らなかったし、分かっていなかったとはいえ、人権問題だ。
アレクが人権尊重してくれとか主張していた理由がようやく分かったし、そういうのを察することすらできないくらいにオレが分かってないのも自覚したが、だからと言って何をどうすればいいのかもさっぱり分からない。
取りあえず悪いことをしたと思うので、謝ろうと思って顔を上げたら、上から覗きこまれた。
「もしかして、さっきの話を気にしているのですか?ドルフィーたちがあなたを心配してるようですが」
「あー、うん、敏感に気分とか察知してくるからな。さすがにオレも反省しているだけだ。ワトスン」
腕輪の子守猫を呼び出したら、やる気無く出てきて丸くなって適当に、にゃあと言ったが、ドルフィーたちには伝わったらしく、周囲を泳ぎ回り始めた。
「今さらだが、悪かった。分かっていなかったとはいえ、アレクが望まないことを強要しようとしたわけだし」
「……私が言わなかったから、あなたは知ることもできなかったんです。だから、私に付け込まれるようなことを言わない方がいいですよ?悪かったと思うなら、私が望むことをしてくれるよう迫るかもしれません」
「別に構わないが、オレにできることは限られてるから、大して役に立たないぞ。アレクに潜入捜査を強要しようとしたわけだし、お詫びに、また潜入捜査が必要な機会があれば今度は素直に協力してもいいが、オレでなければならない案件って滅多にないと思う」
「いえ、そういうことを望んでいるわけではなく、もっと普通の、例えば、一緒に映画を見に行くとか」
「映画?だったら、オレにできることはある。旧世界の遺物映画は犯罪とか事件が出てくるものが多くて、それを公開すると真似して犯罪する馬鹿が出てくるから、非公開になっているものも多い。
だが、旧世界映画と似たような犯罪や事件が起こったときに捜査の参考になるので、警備局捜査課はときどき非公開作品の閲覧に来るぞ。旧世界管理局職員が同席する必要があるが、捜査官ならほとんどの非公開作品に閲覧許可が出る。最近の事件に似たよう映画もあるから、興味があるなら一緒に見てもいいのだが」
「……お願いします」
アレク捜査官が悩まし気というか葛藤するような複雑な顔で頷いた。
気乗りしないのかと思ったが、閲覧申請するためにオレの日程が知りたいと言い出したので、さっそく事件捜査の参考にするつもりかもしれない。職務熱心だな。
デルシー海洋遺跡の入り口近くで待っていた姉御が、オレたちの話が聞こえていたのかお勧めの旧世界映画をまくしたてたが、姉御の尖った性癖で選ぶのはどうかと思う。
やはり聞こえていたらしいローゼスが、お勧めの恋愛もの用意しとくとか言ったが、それだと事件の参考にならないだろ。だが、非公開になっている恋愛ものは、事件とか犯罪絡みのものなので、絶対に参考にならないとは言わないが。
遺跡の入り口で規定通りの説明をして、一直線に展望室に行った。今回のご案内対象の兄妹は今さら遺跡の見学をしたいわけではないし、ドルフィー目的ならここに直行でいい。
「きゃあ!たっくさん来てくれたわね。もう呼んでおいたの?」
「ワトスンが何か説明したようだが、何をどう説明したのかオレも分からない。姉御の相棒から言って貰った方がまだ分かる気もする」
「どっちもどっちじゃない?あたしの相棒は直接ドルフィーと意思疎通できるわけでもないし。ワトスンだけだよ、会話してるっぽいのはさ」
子守猫が腕輪から投影した立体映像でにゃあにゃあ言ってるし、透明な壁の向う側にいるドルフィーたちもなんか言ってる感じだが、人の言語でないし、翻訳も不完全なので、オレたちにはさっぱり分からない。
姉御の相棒も動物型で、大型の猫のような猛獣の姿を取るが、ほとんど喋らない。猫的仲間だからなのか、ワトスンの言いたいことを一番読み取っているのが姉御の相棒だが、ほとんど喋らないので通訳も最小限という何とも上手く行かない組み合わせである。
人と旧世界AIと自然動物との異種族交流の結果、砂浜で映画を撮ることとか、人が騒ぎ起こすかもしれないからデルシー海洋遺跡の周辺にいた方がいいこととか、網を張った向こうは危ないから行くなと、ドルフィーたちに伝わったはずだ。
結構時間かかったので伝わったことにして、急いで戻って、海中通路入り口ですでに待機していた人たちと交代した。
オレは支配人室に呼び出されたが、アレクも付いて来た。
「そう言えば、アレクの予定はどうなったんだ?」
「支配人からお話がありますよ」
真剣な顔で支配人が告げたのは休暇任務だった。
「……この状況下で捜査官二人に休暇を満喫させるのは、職務適性を無視しすぎじゃないか?」
「ユレスもアレク捜査官も休暇でデルシーにお越しになっていることをお忘れではないですかな?迷惑な輩が誘拐事件を企もうが、断固たる態度で休暇を満喫される警備局長を見習うべきですぞ」
「ばばあはバトルドレスで暴れるつもりだが」
「休暇中に浜辺で映画撮影もなさるとは、休暇を満喫されていて大変よろしいではないですか。デルシー近くの浜辺は交流場のようなものでございますしな。
ですが、少々荒っぽい交流の場となりそうですので、ユレスも他のお客様がたも本日はお勧めできません。そのため、デルシー内浜辺を開放することにいたしました。
水辺対応装備に着替えて、午後のご案内までそちらで休暇を満喫なさることです。何ならドルフィーをお呼びしてもよろしいですし、夜の食事会のために大貝を取って来ていただけると厨房が喜びますぞ。
他のお客様方とも交流することです。おもてなし対応のための人員は手配済みでございますので、裏方仕事をしなくてよろしい」
どこが休暇だと言いたくなるような大量の任務を負わせてきたが、アレクはそれでいいのかと思ったら、昨夜のうちに了承済みだったらしい。
オレのとんでもない推論の通りになった場合、浜辺が危険なのは確かだ。子どもは結構浜辺に遊びに行くし、警備局長がバトルドレスで映画撮影していたら、好奇心で見に行きそうだ。
撮影の邪魔はしないだろうが、デルシー内浜辺に誘導した方が賢明だな。
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