23 最優先任務
オレのとんでもない推論前提に、皆が慌ただしく動き始めたが、オレは支配人にもう寝なさいと言われて部屋に戻った。
デルシーにいる限りは、オレの日程は支配人が握っているのだ。
支配人が組み替えた日程によれば、オレは朝早くに個人的にローゼス兄妹をご案内することになったそうで、ローゼスが起こしに来た。
見合いを嫌がるロージーのために、ローゼスがオレにご案内を頼んで、ドルフィーに元気をもらってからデルソレに行くという設定らしい。
「姉御の設定は?」
「あたしはロージーに、たまにはドレス着てみなってバトルドレス着せて送り出す役かな。少しは防御力あげておいた方がいいしね。
ポーラ女史にあたしたちのバトルドレスの相談したら、警備局長の新作デザインとお揃いな感じで、衣服製造装置に設定してくれたよ。
あたしのバトルドレスは先にできたから、慣らしがてら着てみたんだけど、これ、動きやすくていいわ。ロージーのはドルフィーご案内が終わった頃にできる予定だよ」
「あのデザインなら着てもいいかと思ったけど、デルソレに着いたらやっぱり見合いなんて嫌だ、こんなドレスはボクに似合わないはずだって大騒ぎする設定さ」
「アタシ、そんなことないわ、完璧に似合ってるわよ!って盛大に褒め称えるわ!」
「あたしのことも褒めときなよね、ローゼス」
「姉御はすでに着こなしてるし、この上なくお似合いじゃないのよ。その色、海に映えていい感じの映像が撮れそうだわ」
「?映像?」
「あたしは警備局長と一緒に浜辺で防犯映画の追加映像を取ることになったんだよ。バトルドレスが暴徒を制圧する系の映像ね。警備局の新人訓練で暴徒鎮圧訓練するついでに撮影できるじゃない。必要な道具と鎮静剤は十分過ぎるほどに用意したよ」
兄妹のご案内の予定だったが、本日の作戦会議もするつもりだったのか姉御に加えてアレク捜査官もいるので、視線を向けたら微笑まれた。
「ごく自然な流れに見せた方がいいですよね」
「バトルドレスがごく自然かどうかは悩ましいが、祝花祭で派手にやらかしているし、追加映像撮影と言われたら納得されそうだとは思う」
「局長は、休暇でデルシーに来て、ついでにバトルドレス着て追加映像撮影するのは休暇を満喫している感じでいいと言っていましたよ」
「あのばばあ、実は乗り気だな。つまり、何かあったときでも何も無かったときでも、つじつま合わせできるように手配したのか」
「そういうこと。支配人が滅多にない迫力で、ユレスが寝てる間にすべて片付ける。とにかくドルフィー優先って仕切ってたから任せておけばいいさ」
「そうね。ユレスは、ひたすらドルフィー担当よ。ロージー情報だと、水中劇場には正午にご案内だし、ユレスの予想通りになったとしたら、午後には大騒ぎになるわ。
ユレスはドルフィーたちが巻き込まれないよう、デルシー周辺になるべくたくさん引き寄せて保護しておいてちょうだい。それが最優先任務だからね!」
「ローゼスの最優先任務は転送装置確保だと忘れるなよ。ロージーもいるし無茶するな。それ、制圧する気の装備だろ」
ローゼスはいつも派手な服だが、今着ているものは視覚的に暴力と言いたくなるくらいに腰から大きく膨らんだスカートのようなもので、大きく膨らませるための資材が仕込まれているわけだが、それはそのまま武装的に使える。
大きく膨らんだスカート部分も目くらましに使ったり、頭から被せて不意打ちするのに使っていたことがあるが、色んな意味で相手の視覚と常識に打撃を入れる装備だ。
「やーね、アタシは可愛い妹と一緒にお出かけするから、おめかししただけよ」
好戦的に笑っているので、そのまま信じてはいけないが、仲のいい兄妹なので、一緒に出かけることは楽しんでいるとは思う。
ローゼスにとってロージーは、妹と言うより娘に近い。
ロージーが生まれて間もない頃に両親が死亡したから、それ以降ローゼスが兄として妹を育てていた。特殊な自己表現するように育ったが、ローゼスはロージーのことをしっかり教育していたと思う。
「デルソレ組の危険度が一番高いんだから、気をつけろよ」
「分かってるわよ。事態が動いたら、すぐに応援要員を転送装置で送りこんでくれることになってるし、状況次第になるけど、警備局長と姉御も乗り込んで来てくれるわ」
「状況次第だけどね。事件が確定するまでは、新人が遊びに行った感じで送り込む予定でデルソレの招待状を用意したってさ。事件確定になったら、招待状が無くても踏み込める」
アレクはデルソレの招待状を貰っているが、ローゼスたちの応援要員として行くつもりはなさそうだなと思って様子を窺ったら、アレクがオレを見て微笑んだ。
オレに怖い顔を向けてくるわけではないが、笑顔なのに怖いときがある。ある意味高度な圧力のかけ方だ。
「私はデルソレに行きません」
「分かったから、圧力かけるな」
「んー、ユレスは分かってないね。なるほど、支配人があたしにまでユレスを教育しろって言うわけか」
「教育?」
「そ。ユレスを甘やかすなってお説教されたけど、支配人の方が甘やかしてるじゃん。ユレスは未分化型だから、恋人とかお見合いとかの話はなるべくしないようにしてたけど、知らないでいる方が危ないから教育は必要って話ね。単なるお見合いと思っていても、なし崩しで結婚に至ることもあるしさ」
「?」
「んもう、ユレスったら、全然分かってないわね!?まさか、アレク捜査官、ユレスに何も説明していないのかしら?」
「言いたくありませんでした」
「うーん、ボクは言いたくない男心は分かるけど、ユレスさんは本当に分かってないから言った方がいいよって助言するよ。成熟期に入ったばかりの子の方がまだ分かってるくらいかな」
「ロージー、さすがにそれは言い過ぎよ。アタシ、ロージーと一緒にユレスのことも教育したじゃないの」
「うん、ボクの隣でユレスさんがローゼスの話を聞いて頷いていたけど、分かってないのは分かってた」
支配人にも分かってないと言われたが、オレには何を分かっていないのかもわからなかった。
取りあえず、アレクから何かを説明されなければならないのは分かった。アレクを見たら、仕方なさげに話し始めた。
「あなたには言わなかったので、知らなかったのは仕方ありません。私にデルソレの招待状を送って来たのは、治療局長の妻のマキナです。デルソレの所有者の一人でもあります。遺物展示交換会で治療局長と共に私にヒミコを押し付けてこようとしていましたし、招待状には娘を紹介したいとありました」
「こういうのは、招待に応じてデルソレに行ったら、結婚まっしぐらな事例だね。マキナの招待でなく、別のとこから招待状貰ってデルソレに行ったとしても、上手いこと状況作って既成事実にされちゃいそう。アレク捜査官くらいにいい男だと、大変だね。女は本気でものにしようと、手段選ばず迫って来るだろうし」
「やっだ、姉御も、アレク捜査官を狙ってるのかしら?」
「男狙うより、ユレスの教育の方が優先かな」
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