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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第四章 蛇と黒猫
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22 とんでもない推論


「あら?ユレスったら、何か思いついちゃった顔してるわね」


 オレは何も言わなかったのに、さすが親友なのかローゼスに勘付かれた。いや、アレク捜査官もじっとオレを見ていたので、何か気づかれたのかもしれない。

 全員オレを見て発言を待っているので、言うしかなかった。


「……期待されても困るんだが、言うだけ言ってみる。デルシー海洋遺跡の緊急脱出用の球形船って、侵入者は海上投棄されるだけだが、旧世界管理局の職員が乗っていると、推進装置が起動して動かすことができる。

 それを参考にして、ものすごく壮大な犯罪計画を立ててみたが、水中劇場の中に招待客を詰め込んで、密封して接続部分を封鎖して、切り離して海上に排出する。水中劇場に仕込んでおいた推進装置を起動して動かして、水中劇場ごと中身全員を誘拐して持っていく、というのはどうだ?」


 さすがに静まり返ったが、誰か突っ込んで欲しいんだが。

 こういうときはローゼスと思って見たら、がくがく頷いてから言った。


「えっと、壮大な誘拐計画ね?でもね、アタシ、直観的に、いけるわって思っちゃったの。どうすればいいのかしら!?ちょっと、姉御!?」


「ちょい待ち。水中劇場は球形だから、全体の三分の一くらいの高さのとこに床張ってるし、床下は見えないようになってる構造だね。ひっくり返らないようバランスとるために重量入れてるからかと思ったけど、推進装置と動力源組み込む余地は十分ある。むしろ装置とか組み込めばそれがそのまま重量になるから、合理的。

 水中劇場の扉さえ閉じてしまえば密閉できるし、デルソレと繋がる通路をすぐに切り離したいなら爆破してしまえばいい。ララが持って来た軍事用爆発物なら範囲を絞れるから、水中劇場とデルソレ本体は破壊せず、通路だけ破壊することはできそう。爆発物仕掛けないといけないけど、建設中に仕込んでおけるかもね。水中劇場の不具合ってどういうのだった?」


 ローゼスが相棒にも手伝って貰って色々調べていたが、警備局の情報を照会したアレク捜査官の方が早かった。


「構造上の欠陥が発見されたので、通路を再建設したようです。水圧で通路の壁の一部が損壊したことになっていますが、通路に仕込まれていた爆発物によって損壊した可能性も考えたくなりますね」


「なるね。この旧世界の軍事用爆発物って量産品だから、結構誤作動多いよ。複数接続していたうちの一つが誤作動して爆発したけど、これは巻き込まれずに済んで、破損したとこから海中に落ちたってことはありそう。んー、やばい話になってきた。アレク捜査官、警備局が立ち入って通路の調査とかできない?」


「個人所有の場ですので、確たる証拠か証言がなければ難しいです。何とか理由をつけて手続き踏んでも数日かかりますので、明日には間に合いません」


「ボクがまた客としてデルソレに行ってもいいけど、明日お披露目予定の水中劇場に続く通路だと、見せてもらうのは無理かな」


「無理ね。んもう、時間が足りな過ぎるわ。誘拐とか不穏な発言聞いちゃって、気になるから調べ始めた段階なのに、ユレスがいきなり結論に飛んで壮大な誘拐計画を思いついちゃっただけだし、証拠どころか情報も足りてないわよ。ちょっと、ユレス。とんでもない推論しておいて、何を他人ごとの顔してるのよ!」


「支配人に言ってくれ。オレの日程は支配人に完全に握られているし、休暇とドルフィーを優先しろと圧力かけられているオレにできることはほとんどない。だが、オレのとんでもない推論とやらが合っていたとしても、あくまでドルフィー優先でいいなら、対処手段はある。リック博士に協力してもらうことになるが」


 マークがぐっと指を立てて来た。ドルフィー優先と言うだけで、マークの協力は得られるとは思ったが、それでいいのかと言いたい。


「何でも言ってください。ドルフィーのためなら、俺と博士は死地に飛び込む覚悟があります」


「本当にやるのは知ってるからやめろ。ドルフィー保護用の網とか開発していたことあるだろ?あれを使う。

 警備局の施設を基点にして、デルソレを砂浜と網で囲って、ドルフィーがデルソレ周辺に行かないようにしておけば、デルソレで何があろうがドルフィーに被害は及ばない。

 網を張る理由は、自然環境調査名目でも夜間の海中生物の生態調査でも何でもいいんだが、研究局の博士が不意に思いついて研究のためにやったことにする。警備局に話を通して許可貰う必要があるが、それはアレク捜査官か警備局長がやってくれると期待する」


 姉御はオレが何をしたいのか分かったようで、笑いだした。支配人も珍しく悪い感じに笑ったので、後は任せていいか。


「あははっ、あ、相変わらず慎重なのか大胆なのか、よく分からない発想するよね」


「デルシーからリック博士に依頼しても良いですな。ドルフィーが旧世界の危険物を拾って来たので調査を手配する予定ですが、それまでの間ドルフィーの身に危険が及ばぬよう網で仕切ったということでいかがですかな、マーク」


「博士は喜んで徹夜作業でもしてくれると思います。俺もですが」


「そうしておくだけで、万が一水中劇場が切り離されて動き出したとしても網で止められるし、警備局の訓練施設に誘導できるということですか。さすがですね、ユレス捜査官。それならば、今からでも対応が間に合いそうです」


「ものぐさなユレスらしい合理的かつ労力少ない作戦でいいと思うわ。でもね、ここはまず、誘拐事件を発生させる前提じゃないの!って突っ込むところだと思うわ」


「ローゼスが突っ込んでくれて安心した。最初から後手に回るのはまずいと思うが、証拠もないし、とんでもない推論に過ぎないし、そのくせ時間も無い。諦めて事件発生させてしまう方向で検討したから、誰か事件を発生させない方向で考えてくれると助かる。特に新人諸君」


 ドルフィーの安全確保を優先しつつ、万が一デルソレで壮大な誘拐事件が発生したとしても止められるようにしてみたが、誰か人道的観点から意見して欲しい。

 純真かつ純粋な良心に期待して新人三人に視線を向けたが、ミヤリが真剣な顔で言った。


「ユレス捜査官の推論どおりである場合、事件を未然に防ぐのは難しいと思います。デルソレの警備担当が誘拐犯一味ですから。それに、水中劇場で丸ごと誘拐するつもりだった場合、中の人たちの保護と犯人一味の制圧は、逆に簡単ではないかと思います。密閉された水中劇場内に、警備局の暴徒鎮圧用の鎮静剤を大量投入してしまうのはいかがですか?」


「ミヤちゃん、思い切りよすぎる発想だって!?でも……混乱している人たちが大騒ぎになるより、安全かも。見張りか脅し役が一緒にいたとしても、一網打尽にできちゃうね。密閉空間だと、大量に使用すれば一気に全員の意識を奪うこともできるって習いましたけど、班長?」


「そうですね。明日は浜辺の訓練施設で、暴徒鎮圧の訓練をしてもいいと思います。訓練中のところに、海中から水中劇場が浮かび上がってきて、中にいる人たちが混乱して大騒ぎになっているのを見て、このままでは怪我人が多数出ると判断して人命保護の観点から鎮静剤を内部に大量投入したと、無理のない流れで説明できそうです」


 ミヤリとリマの思い切りよすぎる提案に即座に乗っていいのか、アレク捜査官。ロージーとローゼスも躊躇いなく乗ってきた。


「いいね、それ。錯乱状態の人を落ち着かせるのってかなり大変だし、大怪我しかねないから、治療局としても推奨するよ。遠慮なく大量投入しちゃっていいと思う。ボクの経験からして、多すぎるくらいでちょうどいいし。心配なら、解毒治療の用意して待機するからさ」


「んー、準備だけしておいて、あとはデルシーにいる治療官に任せてもいいと思うわ。アタシとロージーは、明日はお見合いのためにいやいやデルソレに行ったことにしましょ。ロージーは駄々こねて、転送装置の部屋の近くから動かない姿勢でいてちょうだい。

 デルソレの警備が裏切ってるのなら、転送装置をロックして使えなくされちゃうかもしれないから、確保しておいたほうがいいわ。デルソレの扉から突入するより、転送装置で転移してくる方が楽だもの」


「確かにそうだけど、簡単なことじゃないよ、ローゼス」


「アタシとロージーならやれるでしょ。デルソレの警備が襲ってくるようなら、兄として必死に妹は逃がしたって美談もありね。ロージーは警備局に兄を助けて!って泣きながら駈け込むのよ。いい感じじゃない?」


「現場の状況によって台本を変えないといけないけど、いい感じだね、ローゼス。ボクたちがデルソレの警備に襲われた場合は、暴徒鎮圧用の鎮静剤をばら撒くのもありだけど」


「道具や薬剤類は多めに用意しておくとしますか。そちらの手配はお任せください。ローゼス、転送装置は頼みましたぞ。それさえ確保できれば、人員なり資材なりいくらでも送り込めますからな」


「一応アタシの身を心配してくれないかしら。あと資材用意するなら映画の撮影用機材も用意して欲しいわ。きっとすごい映像が撮れるわよ。色々うやむやにして誤魔化すには、あれが最強の道具でしょ」


「俺と博士は研究中ってことで海に出ていてもおかしくないから、海からの映像も撮っておきますよ」


「いいわね、それ。とってもいい作品ができそうじゃない?」


 具体的に細部を詰め始めたが、オレのとんでもない推論前提で話を進めるのはいかがなものか。旧世界映画じゃないんだぞ。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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