21 水中劇場
ローゼスたちだけでなくロージーたちも戻ってきたところに、クレア捜査官も到着したので、情報交換会及び説明会兼誘拐対策検討会議となった。
警備局長はあくまでも休暇を満喫するつもりで、海中ラウンジに食事に行った。旧世界の危険物のことも報告したのに、さすが豪胆なばばあである。
ローゼスが空腹を訴えたから、オレたちも厨房から飲食物を取り寄せて食事することにしたので、会議というより宴会という態であるが、支配人が仕切っているので、それなりの緊張感は保たれている。
支配人が今までの状況を簡潔にまとめて全員に再確認させてから、ララがオレに遺物の落とし物を渡しに来たことを話した。
「旧世界の危険物でしたので、急遽クレア捜査官にお越しいただきました。時間的余裕が無くて申し訳ありませんが、お気づきになったことがあればお願いしますぞ」
「んー、これくらいならユレスも鑑定できると思うけど、旧世界遺跡で良く見つかる汎用品の軍事兵器だね。爆発物だけど、こういうのって水に弱いし、防水仕様じゃないからもう使えなくなってる。でも水に落ちる前は使えるものだったし、水に落ちてからそんなに時間経ってなさそうだね。
あとは、コードを切断したというより千切れた感じだから、これと同じようなものが複数個接続されていたはずだよ。何らかの理由でこれを外したのか、落ちたのかは分からないけど、爆発させる目的で複数仕掛けておいたけど、爆発させる前にこれは海中に落ちて、ララに拾われたと推測する。
ワトスン証言だと、デルソレ近くから持ってきたんだよね?デルソレで誘拐計画があるかもしれないってことなら、事件に関わってる可能性があるし、これ以上は他の皆の話を聞いてからにしようか」
「それでは、まずは私から。警備局捜査官としての見解を言えば、デルソレで誰かを誘拐したとしても、逃走経路の確保は困難です。デルソレは大部分が海中にあり、出入り口は砂浜にある一つだけです。安全対策と防犯対策も込みであえて一つだけにして、入口扉の警備を強化しています。デルソレ内から人を誘拐して連れ出すためには、扉の警備を突破する必要がありますが、難易度が高いですね。
扉を抜けたとしても砂浜なので動きづらいですし、砂浜一帯は景観維持のために規制がかかっていますので、逃走用のクラフターなり船を近くに用意しておくのは無理です。事前に警備局の許可を得ていないものは、すぐに警備局が確認しに来ますから。
砂浜にある警備局の訓練施設は、デルシーだけでなくデルソレも視認できる位置にあって、各種機器類が捕捉領域内での不審な動きをするあらゆる移動用の人工物の動きを観測しています。デルソレ内部の誘拐と呼応して、デルソレ外部から迎えの別動隊が強襲してきたとしても、デルソレに近づく前に、警備局が十分対応できます」
「そうよねぇ。警備局の施設はデルシー海洋遺跡の警備のために設置されたようなものでもあるけど、デルソレをわざわざあの場所に建設したのって、警備局の目が届くから立地条件だけで安全度が高いし、万が一の時に警備局を頼りたいがためだしね」
「ララの誘拐事件があってから、リック博士が世界研究局の他の部署に頼んで、監視装置とか観測装置とか警備警戒装置とかをあちこちに設置してあります。すべて正常に作動中だし、追加して追跡用の装置類も稼働させてきました。ドルフィーを誘拐しようとする不穏な動きがあれば、すぐに察知できます。俺はもう、ドルフィーを誘拐させたりしない!」
「素晴らしい心がけですな。誘拐はいけませんからな、ドルフィーにしても人にしても」
支配人が何故かオレを見て言ったが、誘拐犯の狙いがデルシーでなくデルソレである可能性が高いので、支配人はさしてやる気がない。
油断しているわけではなく、デルシーの客なり職員なりドルフィー狙いであった場合、誘拐を防ぐどころか誘拐犯を積極的に仕留めるくらいの備えを用意しているからだ。デルソレが標的なら、デルシー用の備えの出番はない。
オレがデルシー内にいる限りは、支配人の目が届くので平和な休暇を過ごせるというのは、誇張表現ではない。
だが、何事も絶対はないので、オレの捜査官的倫理観から発言しておくことにした。
「オレの祖父さんが言うには、対応可能だと安心した瞬間に対応不能の状況が発生する。デルソレの外に逃走できなくとも、デルソレ内の転送装置から逃走する経路が無いとも言えないし。ロージー、デルソレ内部はどうだった?」
デルソレには転送装置が設置されているので、デルソレに出入りするのは転送装置経由が基本だ。
転送装置があるからこそ、多くの人が集う交流場となるし、転送装置を設置するために、世界管理局の監督や指導を受けることになったのだろう。
転送装置は世界管理局の管轄だから、デルソレが勝手に運用したり設定を変更することはできない。
転移する際に腕輪の本人認証が必要なので、誘拐した人を転送装置で連れて行くことはかなり難しい。連れて行かれたくないなら認証しなければいいだけだからな。
意識不明の状態だと認証できないし、脅して認証させようとしても、転送装置に組み込まれているバイタル情報解析で異常を察知されて転送許可が下りないこともある。
脅されて怯えている場合、身体的にも精神的にも恐怖や緊張による反応が出るからだ。
治療局のロージーはそういうことも当然知っているので、治療局的見解も語ってくれた。
「ボクが見たとこ、転送装置経由で誘拐するのは無理かな。転送装置の部屋だけでなく、その手前の部屋でも認証が必要なんだ。最新のバイタル解析装置が組み込まれたタイプのだったから、脅して認証させようとしても、引っかかると思う。
デルソレの治療室は最新設備が入っていたから、意識不明者の緊急搬送が必要ってことで転送装置に連れ込む許可は出ないかな。無理にデルソレから動かさず、治療官の到着を待つよう指示されるはずだよ。
海中にあるから、安全対策とか救護体制はしっかりしてるし、警備も割とできるのが入ってるようだけど、そこは問題ないと言えないかな。これは二人に報告してもらおうか」
「あ、じゃあ、あたしから。例の男たちを見つけたんですけど……デルソレの正式な警備の人でした」
「はい。外に出ていたときは私服だったと思いますが、正式な警備の制服を着ていました。相棒のAIの測定情報から目測で体のパーツの計測をした結果、ほぼ同個体と判定されたので間違いないと思います」
「へえ、やるじゃん。もう相棒とそういうことできるようになってきたんだ?えらいえらい、この調子で頑張りな」
姉御が遺物調査課の後輩の報告を聞いて機嫌よく撫でているが、特務課の元先輩の方はリマの報告を聞いて割と難しい顔をしている。
別にリマの報告に不服があるわけでなく、まずい事態だからだが。
「リマ、その二人は他の警備員と距離がありそうでしたか?」
「それが、距離感が全然なくて、すごく連携取れてる感じなんです。特務課の班みたいにチームって感じで、もしかしたらあの二人以外も仲間かもしれないって思ってしまいました。証拠はなくて、ただの勘ですけど」
「あら、勘って結構当たるものよ」
「そだね、あたしも女の勘で獲物を追いかけられるし。でもやばいな。デルソレの警備自体が裏切ってたら、やりようはいくらでもある。デルソレって今、花王と花姫たちがいるんだっけ?」
「そうだよ。ボクは挨拶しに行って来たけど、壮観だったね!魅力的な子たちだから、誘拐の標的にされても納得かな。
誘拐は明日決行って言ってたんだよね?ボクも明日、デルソレで見合いを設定されたけど、他にもそういう子がいたし、招待客も明日は特に多いみたいだ。
何かあるのかなって思って探ってみたら、デルソレの水中劇場をお披露目をするんだってさ。ほら、デルソレが公開される前に派手に宣伝されたけど、直前になって不具合発生したから非公開になったやつ。
一度大々的に宣伝したのに不具合発生でお披露目できなかったし、またとなったらデルソレの信頼度が落ちるから、今回はあえて宣伝せず、突然公開して驚かせて話題をさらうつもりかな。花王とか花姫をご招待したのもその一環かもね。
デルソレ内では、水中劇場のお披露目っていうことは伏せて、明日はすごい秘密イベントがあるとか、明日デルソレに来た人は全員ご招待とか、噂だけ流して煽ってるよ。ボクは職員の子に教えてもらったんだ。今夜から空気入れて試運転してみてから、明日の朝には正式発表で正午にはご案内だってさ。だから明日は絶対来てねと誘われちゃったよ」
「ロージーさんの口説き手法は芸術的でしたね。秘密は徹底されていたと思いますが、あっという間に職員の方を口説き落として情報入手しました」
「うん、あたしも見ていて、びっくりだった。あたしたちというお邪魔虫がいたにもかかわらず、職員の女性はうっとりしていて、あたしたちのことなんて眼中にない感じだったし」
「んもう、ロージーったら、情報収集のためとはいえ罪作りなことしちゃ駄目よ。でも、よくやったわ」
「そうですな、重要な情報を入手されましたな」
支配人が褒めたが、情報収集能力の高い支配人のことだから、実は知っていたのではないだろうか。支配人はオレの視線をすっと躱して、アレク捜査官に話を振った。
「アレク捜査官も招待状をお持ちでしたな?」
「私は行くつもりはありませんが、明日は是非お越しくださいと通知が来ていました。明日は水中劇場お披露目で忙しいとしたら、隙をついて誘拐するいい機会となるかもしれませんね。警備担当が誘拐犯一味であるならば、なおさらです。ただ、秘密のイベントのために多くの人が来るとなれば、誰が誘拐の標的となるのか、推測するのが困難極まりないです」
「そうよねー。明日だもの、調べるのも無理があるわよ。姉御はどう思う?あって欲しくないけど、その旧世界の危険物みたいのを使う可能性ってあるかしら」
「んー、これって、割と絞った範囲だけ吹っ飛ばすから、デルソレでは結構使えるかもね。施設が破損して海水が流入したら大変なことになるから、デルソレだと安全対策してるだろうし、緊急事態の対応もしっかりしてると思うけど、だからこそ爆発が起きたら、最優先で対処しに走るし注意がそっちに向くから、その隙に誘拐なりなんなりしやすくなる。
でも自爆したら意味ないから、限定した範囲だけ吹っ飛ばせるようこれを使うことにした、ってことはありそうだけど、なんかしっくりこないな。ユレス、あんたはどう思う?」
支配人がオレはあくまで休暇とドルフィー優先という視線で圧力をかけてきたが、姉御は話を振ってくれた。
だが、時事情報放送もまともに見ていないオレが、誘拐犯が標的にしそうな人が誰かを推測することは不可能だし、爆発物の使い道は姉御が専門家だ。
捜査官として何か言うべきかもしれないが、何も思いつかない。仕方ないので、明日お披露目される水中劇場についての感想を言ってみることにした。
ローゼスが参考資料にとでも思ったのか、あれこれ展開した画像の一つを拡大した。
「水中劇場って、デルシー海洋遺跡の緊急脱出用の船に似てるよな」
「ん?ああ、確かにそうだね。というか、水中用の施設なり設備って最終的にはこれに行きつくんじゃない?水圧に耐えるなら、構造上弱い部分つくらない球形が一番いいじゃん。緊急脱出用の球形船に比べるとこっちはむっちゃ大きいから、そりゃ多少不具合出るよねって思うけど」
「言われてみれば似たような球形ですが、クレア捜査官の言う通り、最終的にはこの形状に行きつくのでしょうな。
球形にすると使用不能の空間が大きくなりますが、その分浮力が稼げます。海中で事故が発生したときに、海底に接続してある固定具を解除すれば、すぐに海上に浮上できそうですな。デルシーの緊急脱出船が球形であるのも、即座に海上に排出するためではないかという見解もございます」
……なるほど。そうなのか。
ここまで読んでくれてありがとうございました。




