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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第四章 蛇と黒猫
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18 フラグ回収


 釣竿を出すために玄関ホールの受付に行ったら、陸地側にある正面扉から見知った三人が駈け込んで来るのが見えた。


 アレクがオレをさりげなく背後に庇ったが、警戒し過ぎだ。

 三人が追われて逃げて来た場合の追手を警戒したのかもしれないが、デルシーに入る許可のない者は扉から入ってくることはできない。


 三人とも扉を抜ける前からオレたちに気づいていたので、扉で止まらず、オレたちのところまで駈け込んで来て、口々に訴えた。


「ユレスさ、ったいへんです、ゆ、ゆうか」


「ララが、ララがまた狙われるかも」


「班長、逃亡したわけじゃなくて、報告に、来たんです!」


 何をどうしたところで不穏なので、玄関ホールから続く小ラウンジを開けて、飲み物を用意して事情聴取することにした。


 悪いが釣りは後回しだ。休暇と言いつつも、大慌ての新人三人を前にしてさすがにそれは主張できなかったのか、アレク捜査官が三人を落ち着かせつつ、手早く質問してまとめてくれた。


 マークはララのために早速魚を釣ることにして、ミヤリとリマも一緒に朝釣りに出かけた。場所は、マークの秘密の穴場であるデルソレ近くの岩場である。

 三人で楽しく魚を釣っていたら近くに誰か来たので、秘密の穴場は秘密にしておいた方がいいだろうと身を潜めたそうだ。


 そうしたら、岩場に来た二人の男が、誰もいないと油断したのかとんでもない話をしていた。

 相手も声を潜めていたので、三人が聞き取れたのはごく断片的なものだったが、大慌ててでデルシーに駈けこんでくるくらいには衝撃的なものだった。


「やはり……事件は起こるのか」


「やめてください。どうしてそうなるんですか、旧世界的フラグは海に沈めましたよね」


「現実に向き合え、アレク捜査官。海に沈めたフラグはマークたちが釣り上げてしまったんだろ。旧世界的言い回しでは、こういうのをフラグ回収と言うんだ」


 ミヤリもしっかり頷いてくれた。そうだよな、旧世界管理局職員だし、分かるよな。


「実は、人が近づいてくるまでの間、雑談で旧世界的小説の話もしていました。捜査官が休暇で観光地に行くと事件が起こる法則ですよね?先輩がそんなことを言っていましたので、冗談のネタとして口にしたのですが、まさか現実のものとなるとは」


「ミヤちゃんがそんな話するから!」


「リマだっていち早く人の気配を察知して、気配を殺して身を沈めろと指示したじゃない」


「だって、マークの秘密の穴場なら、ばれたらまずいかなって思ったし、ちょうど潜入行動の訓練したばかりだったから試してみたくて。ミヤちゃんは得意そうだけど、マークまで見事に気配消したのは驚いたよ」


「俺は岩陰に潜んで自然生物やドルフィーの自然な生態を観察するために、技能習得したんだ。人がいると分かると警戒されたり、自然に寛いでいる姿は見られないから、自然環境課職員の必須技能だよ」


「すごい、自然環境課ってそんな特殊な訓練積んでいたんだ」


「すべては、ドルフィーのために」


 アレクが片手で顔を覆って動かないので、オレが仕切るしかないかと思ったら、顔をあげてオレを見て言った。


「デルシーの連中は気づかないはずだ。誘拐の決行は明日だ、ですか。……どう頑張っても事件予告と解釈するしかないですね」


「どう頑張っても事件にしかならないから、いい加減、抵抗を諦めて事件に向き合え。誘拐の単語だけで十分警戒が必要だろ」


「うう、すみません、もっと情報集めてくればよかったですが、動揺していて。男が二人で、鍛えた体つきで、けっこうやれそうな感じでしたし、見つかったらあたしだけではマークとミヤリを守り切れないと判断しました」


「冷静かつ妥当な判断ですし、最善の行動をとったと思います。思い出せる限り、その二人の特徴を報告書にまとめてください」


「私も相棒に追跡を指示しましたが、デルソレの扉に入って行ったところまでしか確認できませんでした」


「それで十分だし、デルソレ内部まで干渉するとデルソレ管理者に追及されかねない事態になるから、踏みとどまって正解だ」


「秘密の釣り場なので岩場から出るときも遠回りして出てきたし、砂浜でなく森の方の散歩道通ってここまで戻って来たので、見つかってないし気づかれてないと思いつつ、デルシーの扉が見えたらつい走ってしまって。最後でしくじった」


「そこまでできていたなら別にいいだろ。デルシーの扉に駆けこんでしまえばどうとでもなると判断したんだろうし、ぎりぎりまで堪えたことにしておけ。それからララがと言っていたが、またドルフィー狙いっぽい話をしていたのか?」


「落ち着いて考えると、俺は誘拐と聞いた瞬間にララの誘拐事件を思い出して慌ててしまっただけで、ドルフィーじゃない可能性もあります」


「あたし、普通に人を狙ってるんだと思ったけど、デルシーって単語が出て来たからちょっと悩ましいかな。デルシーと言えばドルフィーだし」


「私は誘拐犯の狙いはユレスさんかもしれないと思いました。ユレスさんを誘拐すれば自動的にドルフィーも付いてきそうですし」


 ミヤリの割ととんでもない推理に、何故か警備局の捜査官も同意した。


「それはありえるかもしれませんね」


「おい、何でそうなるんだ。いいか、オレの予定は支配人がすべて握っているんだぞ。誘拐できる隙も無いし、誘拐しようとしたところで、オレの時間を限界まで確保したい支配人に仕留められるに決まってる」


「では、ユレス捜査官はどう思うのですか?」


「素直に考えろ。明日の誘拐決行に備えている奴がデルソレに入って行ったなら、デルソレ内にいる人の誰かが誘拐対象の可能性が高いだろ。

 デルシーは気づかないの意味については解釈の幅は広いが、現在ここに警備局長が来ているのは知られていて当然なくらいだ。誘拐企むような奴らが一番警戒する相手だし、気づかれたくないに決まってる。

 現在のデルシーは新人研修も兼ねて、馴染みの常連客しかいないし、デルソレに来るような客はほぼいないと見込まれている、となれば、誘拐事件に気づくのも遅れるはずだ、という意味に解釈しておく。

 若い連中はデルソレの方が遊び場に向いてるから行くかもしれないが、そういう話をしていたりしないか?」


 新人三人が首を振った。


「ドルフィーの話ばかりしてましたし、次のユレスさんの回の網持ち係に参加できないかというのとか、ドルフィーに魚貢げたらいいなとかそういう話ばかりです」


「あたしは警備局の宿舎で先輩たちからデルソレのこと聞きましたけど、華やかすぎて世界が違うからあんまり合わないって言ってました。それからドルフィー見に行きたいと」


「俺はドルフィー一筋です」


 駄目だ、こいつら。


「アレク捜査官、この三人連れてデルソレで潜入捜査しつつ、交流の指導もしてこい」


「嫌です。行くならあなたも道連れですよ」


「支配人がオレをデルシーから出すと思うなよ。それくらいなら自分が潜入捜査しに行くぞ。だが、さすがに支配人が行ったら違和感甚だしくて誘拐犯に警戒されるし、警備局長も論外だな。そもそもデルソレってどうやって入るんだ?」


「ご招待を受けてになります。……見抜かれる前に白状しますが、私は招待状を貰っていますが、行きたくありません」


「そこは行くところだろ、アレク捜査官!」


「ユレスさん、班長、いえ、アレク捜査官にも事情があるんです!だって、デルソレって今、花姫たちがいるんですよね?行ったらきっとヒミコに付きまとわれて大迷惑ですよ!」


「そう言えば、そんなことを支配人が言っていたな。……つまり誘拐の対象となりそうな花王と花姫役の美女集団とかがいるわけか。誘拐犯が誰狙いかすら分からない以上、情報収集のために現場に行くしかない。割り切れ、アレク捜査官。囮役に最適だ」


「私の意思と人権を尊重してください」


「それ、オレに対して言える立場か」


 女装させたことを忘れていないぞと睨んだら、視線を逸らされた。

 頑なだな。どうするかと思ったら腕輪に通信文が届いたが、さすが親友、こういうときには役に立つ。


「分かった、緊急事態につき捜査官権限で人員確保するくらいはしろ。どのみち警備局長と支配人に報告は必要だし、そっちから任務命令させてもいいが、問答無用で引きずり込む。転送装置からローゼスが来るから捕獲するぞ」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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