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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第四章 蛇と黒猫
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17 ドルフィー・ハーレム


 朝、早めに起きて身支度したところで、気の早いじじいが迎えに来た、と思ったらアレクだったが、その後ろにアリアを含めた美女たちもいたので、ご案内に出発した。一応じじいもいるが、後ろからついて来るだけだ。

 遺物と遺跡の研究者であるジェフ博士は、放置しても問題ないくらいにデルシー海洋遺跡にも慣れている。


 個人的にご案内するとはいえ、旧世界遺跡なので注意事項や禁止事項はしつこいくらいに言っておく。

 博士はもはや聞きなれて自分でも考えずに口から出てくるくらいだろうが、それでも繰り返して言うだけの危険性は理解している。


「では、遺跡内では私から絶対に離れないようお願いします。それでは参りましょう」


 玄関ホールから海中通路に至る途中の部屋で解説してから出発という流れは同じだが、海中通路に入ったら、いつもの話し方でいい、違和感すごいとじじいとばばあが言いだしたのでご要望に応じた。


「あの部屋までは支配人が監視してるから、やらないと説教が入るから仕方ないだろ」


「分かってるから、通路に入ってから言ったんだ。アリア、ゆっくり歩いていいぞ。のんびり歩いても十分余裕がある時間設定になっとるからな」


「はい、でも、わたし、ここに来たのは初めてではないのですが、ドルフィーには会えなくて。ユレスがいると確実に会えると聞いて楽しみで。案内してくれて本当にありがとう」


「支配人も初めから予定組み込んでいたし、結婚祝いの一環と言うことで。ああ来た。ララか」


「ちょっとポーラ、壁に張り付くんじゃないよ!歩きながらでいいんだからさ」


「だって、ドルフィーが、生ドルフィーが!まああ、こんなに大きかったのね。でも可愛いお顔!!」


 ……網持ってきた方がよかったか?


 幸いにも博士と警備局長はオレと一緒に入る機会があったので慣れている。それぞれ相方を連れて行ってくれたので、オレもご案内を再開したが、アレクは素直について来た。


「アレクはドルフィーを見たことあるのか?」


「いえ、初めてですけど、あの、いつもこうなのですか?あちこちから集まってくるのですが」


 もしかして警戒しているのだろうか。水中通路は水圧その他の防護機能は考えうる限り最大値で設定してあるが、ときどきドルフィーがぶつかって壊れないか心配する人もいる。


「ドルフィーは賢いからこの通路のことも分かってるし、ぶつかることも無い。たくさん来ると圧倒されるかもしれないが、珍しいものを見に来たくらいの感覚だから、攻撃的意志とかそういうのは皆無だ」


「ユレスがいるとたくさん来るよな。アリア、落ち着け、足元見て歩け」


 一応解説しつつ進むことにした。


「ドルフィーは人に近い社会生活をしていて、番と言う結婚相手を決めるし、その相手と子どもを作る。夫婦は大体ああいう感じで寄り添ってるから見分けやすい。最初に挨拶に来たドルフィーはララと個体識別されていて、最近嫁を貰った」


「まあ、新婚ですね!わたしとジェフみたい」


「こっちは両方初々しいじゃないのさ。ララってあれだろ?誘拐された子」


「そうだ。ララは言うなれば犯罪被害者なので気にかかっていたが、無事に嫁貰ってくれて安心した」


「マークが失恋した相手ですよね?なるほど、結構可愛いですね」


 まさか、アレクも種族の壁に挑戦するつもりか?

 そうだったらまずいと思って、話を逸らすことにした。


「何となく愛嬌のある人の顔に見えないこともないから、ドルフィーは旧世界では人魚と呼ばれていたと思われていたこともある。

 旧世界の人魚とは人の上半身に魚の下半身の生き物だが、想像上の生物だ。セイレーヌというのもその人魚の一種だ。美しい歌声でおびき寄せて海に引きずり込む危険な存在として旧世界人は想像していたようだ。歌手の芸名には少し不穏だが、イメージは合っている」


「おや?珍しいね、あんたセイレーヌのこと知ってたのかい?いや、分かって無さすぎて支配人に教育されたんだね。ご案内のときにそういう知識くらい披露しろとでも言われたんだろ」


「一般常識として知っておきなさいと解説された。

 では皆様、ここから先は旧世界の遺跡に入ります。何度も申し上げますが、遺跡内で職員とはぐれた場合、海上に放り出される可能性があります。職員は通行証と同じだと認識して、私から離れないようお願いします」


 ということで遺跡の中にご案内したが、慣れているじじいとばばあは別に少しくらい離れてもいいのだが、相方の方がぴったりオレについて来るので、密集したまま進んだ。


 遺跡の外の海中でもドルフィーがわらっとついて来るので、なるべく最短経路で、展望室に行って休憩にした。

 オレは座って休憩したが、アリアとポーラ女史は透明な壁に張り付きに行ったし、ジェフ博士とベルタ局長もそれに付き合ったが、アレクはオレの隣に座って言った。


「マークがドルフィー・ハーレムと表現した理由がよく分かりました」


「変な名称をそのまま受け入れるな。ドルフィーたちはまっとうな性癖だから、種族の壁を超える気は無い。

 特殊性癖に走るのは人だけだとローゼスの相棒のAIが言っていたことがある。旧世界人はAIだけでなく、小説や映画のような想像された物語の中の登場人物ですら恋愛対象にしていたらしい。旧世界人の想像力は豊かだったようだが、自然の生物としての健全さは失われていたんだろうな。

 人を恋愛対象にする場合でも、同性どうしはまだしも、生殖能力もない子どもまで相手にしていた事例もあるし、しかも相手が未発達で体格に劣るしろくな抵抗もできないことをいいことに無理やり性的虐待に及ぶ狂人もいたらしい。旧世界人は自然の生物から逸脱し過ぎていたから滅ぶしかなかったとリック博士が言っていたことがある」


「……自然な動物の、原初の求愛行動ならば、いいということですよね?」


「昨日のリック博士の論理展開だとそうなるが、種族の壁問題をあっさり無視していることを忘れるな」


 同行者がいるからか、意外にはしゃいでいたばばあとじじいも追い立てて、海中通路を引き返した。


 妊婦がいるからゆっくり歩いた方がいい。予定より少し早めに戻ったが、本日午前の初回組が、案内開始時間まで半時刻以上あるのに、準備完了して海中通路入り口の部屋で待ち構えていた。

 すでに事前説明と注意も終わっているそうだが、せめてもう一つ手前の部屋で待っていてくれないものか。


 オレのお見送りのために海中通路までついてきたドルフィー目当てであるのは分かっている。デルシー専属職員と常連客は慣れているからな。

 一応オレたちに挨拶してくれつつ、皆、急いで海中通路に突入して行った。小さいお客様も大きいお客様も、わーわー言ってるのを見送ってアレクが言った。


「何というのか……すごいものですね。熱意が」


「オレが酷使される理由が分かったか?」


「分かりました。姉とポーラ女史の興奮振りを見ても納得です」


 博士とベルタ局長が二人を休憩させるために一緒に部屋に戻って行ったので後は任せた。アレクはどうするのかと視線を向けたら笑顔で言われた。


「ユレス、デルシーの釣り場を案内してくれませんか?」


「分かった。受付で釣り竿を出す」


 断固として休暇を楽しむつもりのようだし、釣りは海を眺めつつ穏やかな時間を過ごせるから、激務に疲れた捜査官にはいいかもしれない。


 海に沈めたはずの事件フラグは釣り上げないで欲しいが。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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