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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第四章 蛇と黒猫
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16 食事


 オレが簡潔かつ鮮やかな解決法を提示したのに、アレクは不満そうにぐちぐち言っているが、聞き流して夜の食事会場に移動することにした。

 カクテル用に採取したオランジェの籠はどうしてもアレクが持つと言い張るので任せた。紳士はときどきめんどくさい。


「ところで、念の為の確認なんだが、アレクとばばあは、本当に休暇でいいんだな?実は別件も追っているなら早めに言ってくれ」


「別件はありませんし、あったとしても、私も局長も断固として海に沈めます。あなたも、旧世界的フラグとか事件は拾わないでください。……なんですか、その意外そうな顔は?」


「特段の変事なしという日誌登録するだけの仕事しかしないオレと違って、仕事中毒な生活をしている二人が、一体どうしたのかと思っただけだ」


 職務と個人活動でやりたいことが同じという人は割といる。

 ジェフ博士もそっち側だし、警備局長をしているばばあは個人活動と言いつつ、目につく性犯罪者を締めているし、職務としてやったことにした方が後始末が楽という観点から、勤務中の扱いになることも結構ある。


 警備局職員はそういうことが多いらしい。

 職務熱心だと思うが、個人活動の時間が少なくなるし、他の人との公平性を保てなるくらいに働かせているような状況になりがちなので、世界管理局は配慮して、警備局の職員に特別報酬を配分している。


 無償提供でない個人提供の飲食店への招待状とか、無償提供でない娯楽施設への招待とか、特別なお見合い企画への参加権といったものから選べるらしい。

 警備局職員は結構もてるらしいが、職務優先して、そういうものを使う暇がない人もまた多い。上手くかみ合わないものだな。


 警備局長とアレク捜査官はその典型だと勝手に思っていたので、まさか普通に休暇を楽しむつもりだったとは意外だった。

 オレの答えが納得いかなかったのか、微妙に怖い笑顔で言われた。


「それを言うなら、あなたは何故、休暇なのに本来の職務と真逆に激務になっているのですか?ドルフィーが理由というのは分かりましたけど」


「今は特に熱烈なドルフィーファンが多いから、食事のときに話してみたら分かると思う。あの純真な熱意を前にすると、人権倫理を無視してオレを酷使するのもやむなしと判断した支配人の心が分かるからな」


「酷使されるあなたが分かっていいのですか?そう言えば、夜の食事は大皿方式で提供とお聞きしましたし、席も自由とのことでしたね。詳しくは食事会場で説明されるとしか聞いていませんが」


「じゃあ、説明する」


 大皿方式で提供というのは旧世界の食事提供様式を参考にしたもので、テーブルの上に大皿に作った料理を置いておくので、自分で好きなものを好きなだけ取り分けて持って行って食事する方式だ。


 給仕の必要が無いので職員側は楽なのだが、めんどくさい客は盛り付けて運んで来いとか言いだすので、今回のように行儀のいい常連客ばかりときにしか取りづらい手法でもある。


 何回でも食事を取りに行っていいし、席を立った機会に別のテーブルにお邪魔して交流してもいいので、席は自由だ。

 やはり行儀のいい客ばかりのときにしか取れない手法である。めんどくさい客がいる場合、他の客の迷惑にならないよう絶妙に隔離した場所に個別に運ぶ方が結果的に楽だからな。


 オランジェの籠を食材保管室に置いた後、海中にある食事用のラウンジに行ったら、すでに食事の提供は始まっていたし、ほとんどの客が来ていた。


 博士たちが席を確保してくれておいたので、そこに同席して一皿食べたら、職員の手伝いに回ることにした。

 大皿から取り分けるのが苦手な人もいるし、何より小さいお客様にやらせるのは無理なので、料理を用意したテーブルで職員が取り分ける手伝いをしている。


 手が足りないのか、新人のミヤリも制服姿で手伝っている。私服姿のオレが参加するのも微妙だが、常連客にはオレが職員と知れ渡ってるのでまあいいか。


 子どもはデザート系に群がりやすいので、あえて子ども人気の低い野菜料理系のところを請け負ったが、それでもうかつにもやってきた子どもには野菜料理を振る舞ってやった。

 厨房が気を利かせたのか、ドルフィー型にくりぬいた野菜をのせたら喜んで持って行ったあたり、子どもだな。子どもだけでなくじじいも来たが。


「よう、子猫ちゃん。儂と妻の分もドルフィーくれ」


「お客様、ドルフィーを食べるのは禁じられております。それから残りの美女二人の分はいいのか?」


「ばばあたちはデザート取りに行ったぜ。アレクは警備局の連中が交代で食事しに来たからそっちに捕まった」


「なるほど。夫婦二人でいい雰囲気なら、綺麗に盛り付けて差し上げましょう」


 他の大皿料理からもいくつか食べやすそうなものを取り分けて、じじいに渡したところで、支配人から声をかけられた。


 オレは明日の午前の初回の前に、個人活動で博士たちご一行様をご案内することになったらしい。

 その後は自由行動で、午後の初回は職務でご案内という日程らしいが、どうせ、博士たちの案内が終わった後は、支配人が指令を出すに違いない。


 オレのところに来たのも、給仕は切り上げて交流しなさいと指導するためだろう。

 だが、連れて行かれた先ではリック博士がアレクを相手にドルフィーへの愛を語りつくしていたので、支配人の指令はドルフィー博士から初心者を救助しろというものだと解釈した。


 オレもリック博士に話があったからちょうどいい。そのドルフィー愛は立派と思えど、マークの将来のことも考えて、種族の壁に挑ませるなよ!

 マークはリマとミヤリに失恋話を聞いて貰って慰められたが、違う方向に走りつつあるから止めてくれと話したら、リック博士は力強く頷いた。


「そうか、マークも成長したな。まさかその真理に至るとは、いや、ミヤリというお嬢さんが慧眼じゃな。その通り、魚を貢げばララが振り向いてくれる可能性はある!」


「後押ししてどうするんだ、リック博士。オレの話を全然聞いていないな!?」


「聞いていたとも、ここは博士と呼ばれる身として講義してやろうじゃないかい!良いかね、食事を貢ぐのは原初の求愛行為だ。世界管理機構が基本の生活物資を提供して人の生活に不安も無くなったのは良いことであると思えど、そのために、本来の自然な動物としての求愛行動もできなくなったとも言える。

 個体がその存在を維持するには食事が必要であり、食欲は生存のための基本的な欲求じゃい。個体の生存が危ういのに、子孫残してる場合じゃなかろ?ゆえに、食欲が満たされんと、性欲の方に意識が向かんし、当然子づくりに励むこともない。

 動物の雄、つまり男が、女に子ども生ませたいなら、食事を用意してやって、安全確保してやって、口説いて嫁にするのが自然な流れってもんじゃな。つまり食事を確保して与えることは自然の口説き作法ってことじゃ。

 今の人は食事の心配がなくなったせいで、逆に重要かつ効果的な口説き手法を無くしたとも言えるじゃろな。ま、人のことなぞどうでもええが、つまりだ、自然に生きる動物を口説くにあたっては、自然な求愛行動はまだ使える!つまり、魚を釣るのだ!よし、明日の予定は釣りじゃな」


「結論それでいいのかよ!?」


「素晴らしいお話を聞けたと思います。そうですね、釣ります」


 黙って熱心に拝聴していたアレクがそう言ったが、博士の熱弁を耳にしていたドルフィーファンたちも釣りに情熱を燃やし始めたので、明日の予定は釣りらしい。

 厨房としてはデルシー周辺の美味しい魚が持ち込まれるなら大歓迎だろうから、別にいいけどな。


 オレも魚料理は楽しみだ。頑張って釣ってくれ。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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