6 ローゼスの推理
「公開情報って結構絞られているというか、人質になっていた人たちにも配慮して、占拠されていたホールで何があったのかって詳細情報はすべて非開示になってるし、当然アレク班長の行動も全部開示されてないけど、人質の誰もが揃って英雄的行動とか、助けられたって言うあたりは真実だろうし、結果がそれならそれでいいんじゃないで流してたけどぉ……お一人で、ホール内の過激派を7人も制圧しちゃうのは、旧世界映画でもちょっと無理のある展開だと思っていたのよ。
だって犯人たちは人質取り囲んで脅すか警戒していたわよね?いくらアレク班長が優秀でも、そんな状況を一人で制圧しようと考えるなんて英雄願望のある無謀なお馬鹿だと思うの。
でもやった、ということは、当然警備局長の指示よね?確か班長くらいになると、警備局長と直通の通信機が支給されてなかったかしら。勤務時間外でも大変ねーって思うけど、こういうときはあって良かったのかしらね。旧世界遺物を一部使用した特製通信機は、腕輪の通信機能が妨害されている環境下でも通じるのよ。
アーデル捜査官も遺物が大っ嫌いなくせに、特製通信機だけはしっかり持っているわよねー、あーいやだ、都合のいいときだけいいように使ってやれって発想」
「……何とでも、言え」
いつもなら激怒して掴みかかってもおかしくない状況なのに、この反応。大変な厄介事の気配しかしない。
なので、話をしてる人たちは無視して果実酒を飲むことに専念した。だが、ローゼスはあくまでもオレを引きずり込みたいらしい。
「んー、事件当日って、ユレスは勤務日じゃなかったわね。で、治療局の特別療養所に行ったんじゃないかしら?療養中のユレスのお祖父さまって警備局長と長年のお付き合いだし、それでときどきお見舞いに来てるわけだし、そのご縁でアーデル捜査官がアタシたちを不当な扱いするのから庇ってくれることもあるしー、緊急事態発生時って警備局長権限で遺物管理局職員を強制任務につけることもできるわよねー?特に捜査官とか」
旧世界の遺物は、危険度が低く汎用性が高いものは個人所有も可能になる。
ただし、遺物管理者としての管理責任が発生するものもあるし、遺物が紛失したり、盗難にあったり、または違法な遺物を所有している場合、警備局の捜査対象となる。
遺物だからといって、旧世界管理局の管轄というわけでなく、単に特殊な物品であるだけで、通常の犯罪事件の範疇だ。
そうは言っても、遺物となると、遺物の知識や取り扱い技能が必要となることも想定されるので、警備局から要請がきて旧世界管理局職員が派遣される。
捜査官という特殊な職務についてるとその機会が巡ってくることがあるが、基本的には外部との連絡調整を担当する渉外課所属の職員や捜査官が対応する。
オレは警備局長との付き合いは長いが、アーデル捜査官に大変嫌われているので、正式な依頼はほぼ来ない。
なので、無関係だとそっぽ向いていると、アレク班長が何故か微笑んだ。いや、猫見てるのか?監視猫がさっきから、オレの手にじゃれて来てるからな。
アーデル捜査官がいるので、警戒して落ち着かないのだろう。監視猫にとっても嫌な経験記憶情報があるからな。
オレの態度を見て、ボーディが取りなすように言った。
「正式任務の場合は、旧世界管理局の勤務履歴に登録が必要ですし、公開情報になりますので、占拠事件のために旧世界管理局の捜査官を動かしたことも公表されることになります。ローゼス、最近廃れているものの、警備局職員は、任務遂行のために旧世界管理局職員に個人活動としての協力を依頼することができるという規定をお忘れではありませんか?」
「やっだ、忘れて削除されればいいと思ってるのよ。だって、どこぞの捜査官が冤罪かけたり文句つけたりと遺物管理局を目の敵にしてる上に、所属してる善良な職員が何度も捕縛されて、警備局の特別隔離房に入れられてるのよ?しかも冤罪よ?信じられない所業よね。
これでそんな規定を使われたら、上手いこと利用された挙句に、冤罪までかけられて、強制的に特別隔離所に送り込まれるだけよ!やだやだ、こわーい、アタシ、その規定を削除するようちゃんとした理由付きで何度も提案書出してるんだからね」
どこぞの捜査官はただうつむいて耐えているものの、何をしに来たのだろうか。
ローゼスに口撃されに来ただけなら楽でいいんだが、あくまで耐え忍んででも達成したい用件があるようにしか見えないのが面倒だ。
「嫌がらせに無駄な時間を費やすものではありませんよ、ローゼス。人としての品位が落ちるだけですから。ユレスのように合理的に割り切る寛容さも身につけなさい。黒猫さん以外誰も協力してくれなくなったと警備局長がときどき愚痴りに来て、わたしも迷惑なのです」
「どこぞの捜査官に、二度も特別隔離房に放り込まれてる黒猫さんが警備局に協力してあげることがおかしいと思うわよ。都合よく使えると思って、舐められてるとしか思えないわ」
「警備局長は職務に関して真摯な方ですよ。ヨーカーン大劇場占拠事件は即座に解決せねば、体と心に重大な傷を負う方が多数出たことでしょう。旧世界管理局もその後の対応に関係が無いわけではありませんよ?」
ローゼスもそこはよく分かっているので大きく頷いた。ただ、言いたいことは多々あったらしい。
「分かってるわよ。だって事件の速報見た瞬間に、アタシたち、難癖付けられた時用の質疑応答とか回答文とか用意したもの。なんでもかんでも遺物のせいにしちゃうのって、どこぞの捜査官だけじゃないし、ほんと嫌になっちゃう。旧世界の遺物である設計図を元に大劇場の建設計画立てたのは世界管理局と研究局だし、警備責任は警備局にあるのに、設計図が遺物だからって言って、全ての責任を押し付けてくるのってほんとやめてほしいわ。
設計図通りに作ったからこそ、通常の警備体制が取れなかったし、分断されて占拠されることになったとはいえ、そこらへんって建設段階で研究局なり警備局が突っ込んで指摘するか、それにあった警備体制作るところじゃないかしら?職務怠慢の原因を遺物に求めるのって恥ずかしいわよ。それなら、遺物の設計図なんて使う物じゃないわね。
そう言えば裏情報で回ってきたけど、復古会の過激派って、旧世界映画が大好きで良く鑑賞会していたんですって?暴力とか犯罪事件が起こるたびに、旧世界の遺物映画を見て悪影響を受けたとか言い出す人たちが沸いて出て来るけど、だったら遺物映画すべて禁止にすればいいのよ。
大体、そういう影響度高いものを一般公開するにあたっては世界管理局とか治療局とか警備局ががーがーうるさく言うだけで、遺物管理局に発言権なんてないのに、いっつも、責任は出どころである遺物管理局に押し付けられるのよねー。遺物映画専門の管理官なんて、めんどくさいから動物映画以外は非公開にしようかって疲れた顔して言ってるもの。
あ、そう言えば、過激派が見ていたらしい旧世界映画の一覧貰って分析してたけど、大半が恋愛とかハーレム系なことに苦悩していたわよ。人質取るとか管理体制側との交渉系の映画見て勉強していたならともかく、まさかのそっちよ。要求も微妙におかしいし、割と杜撰な計画だし、アタシ、過激派って単に選りすぐりの美人が集まったところで閉じこもって、ハーレム満喫してしまえって暴走したんじゃないかと思ったわ」
ここまで読んでくれてありがとうございました。