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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第四章 蛇と黒猫
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15 <知識の蛇>


 <知識の蛇>とは、世界管理機構が成立する以前から存在する、危険な犯罪者集団である。世界管理機構の警備局にとっては最初の敵であり、いまだ根絶できない相手と言ってもいいだろう。

 だが、<知識の蛇>は情報制限の対象となっているので、警備局職員でも新人はその存在を知らない。事件を通して知ったときに<知識の蛇>について教えられることになる。


 <知識の蛇>の思想は危険だ。

 この世界での人生体験の幅を広げるためには、経験を限定してはならない、犯罪として人々に糾弾される振る舞いですら、人の進化に繋がる貴重な体験であるという、世界進化論に一見沿うような理念を掲げている。


 この思想を掲げて犯罪行為を躊躇わない<知識の蛇>は何をするかわからない危険な存在であり、普通の人々を惑わせて犯罪行為を正当化させる思想自体も危険である。

 思想や概念を知っているということは、それだけ影響を受けることでもあるので、世界管理機構は<知識の蛇>を情報制限の対象とした。


 そういう思想の犯罪者集団がいることを知らないのも危険だが、犯罪者の思想が広がって蔓延する方が問題だと判断されたわけだ。

 警備局職員は回りくどい流れでいつか知ることになるが、事件を起こした犯罪者集団の思想として知ることになるので、<知識の蛇>の思想に染まる危険性が限りなく低い。


 <知識の蛇>は、警備局だけでなく旧世界管理局にとっても厄介な敵であり競合相手でもあるので、旧世界管理局職員も<知識の蛇>について知ることになる。


 <知識の蛇>は埋もれた知識を発掘して知識を広げようとする研究者集団でもあるので、旧世界の遺跡や遺物も研究対象である。

 ジェフ博士のような遺物研究者はもちろん、旧世界のAIに適合する旧世界管理局職員のような人も所属していると推測されている。ただ、AIの倫理基準は厳しいので、犯罪に走る<知識の蛇>に所属する人をマスター登録するAIは少ないのではないかとも考えられている。


 AIにマスター登録されなくても、旧世界遺物を所有することはできるので、<知識の蛇>が所蔵する遺物は、特級危険物も含めてかなりの件数だと見込まれている。

 <知識の蛇>が<天使の歌声>を持っていてもおかしくないし、旧世界の特級危険物であろうが躊躇い無く使用する<知識の蛇>を、旧世界管理局は危険視している。


 <知識の蛇>は発足当初は割とまともな活動もしていたようだが、後に危険思想の者が指導的立場についたときから狂い始めて、最終的には<知識の蛇>全体が犯罪組織になり果てた。

 その転換のきっかけになったのが、後に<色欲>と呼ばれることになる特別な薬だと言われている。旧世界の遺跡から発見された製法で作られたその薬は、一国を滅ぼした。


 その当時は、世界管理機構も成立しておらず、旧世界のように独立した国や団体のようなものがいくつか存在して、お互いに交流し合って世界が緩くまとまっていた。

 <知識の蛇>は小さな国に入り込んで、旧世界遺物の情報を元に作った薬をばら撒いて人体実験をしていたようだ。薬の効果は劇的で、人々は狂い死んだり、精神が壊れて人形のようになった後に突然死していき、その国は恐怖の中で崩壊した。


 旧世界の遺物が危険視されるきっかけにもなった、歴史的にも有名な事件である。

 当時は旧世界管理局も存在していなかったが、旧世界の遺跡も含む遺物は危険なもので、この世界も滅ぼしかねないから、規制と管理が必要だとする見解がはじめて表明されたのがこのときである。


 <知識の蛇>はその事件をきっかけに反省してくれれば良かったが、まともな研究者を追い出すか排除して、一部の危険思想の一派に乗っ取られていったようだ。

 そして、一国を滅ぼした薬の研究開発を繰り返した果てに作り上げたのが<色欲>という薬で、人の三大欲求の一つである性欲を煽る媚薬である。適量を摂取すれば人体に無害だし、効果が高いと大人気になって、<知識の蛇>の活動の資金源となった。


 世界管理機構が成立した後は<色欲>は禁制品となったが、需要が高い人気の品なので陰でこっそり取引され続けている。<知識の蛇>がいまだに存続し続けられるのは、<色欲>を取引材料として保有しているからだと言っても過言ではない。

 世界管理機構が必要な生活資材を提供することで、三大欲求のうち食欲と睡眠欲は満たされるようになったが、残る性欲に関しては対象外であるし、<知識の蛇>はそこに上手く絡みついているとも言える。


 取引材料として魅力的に思う人が多いのか、<知識の蛇>が<色欲>の薬を対価にしたり、<色欲>の製造法を対価に提示して事件を起こさせることもある。

 ただし、<色欲>の製法を入手しても、特別な素材や器具が無ければ製作までは無理で、結局<知識の蛇>から<色欲>を入手するしかないという悪質な詐欺的手法だと警備局長が言っていたが。


 ヘンリーは<知識の蛇>に上手く引っかけられた可能性が高い。

 

 <知識の蛇>の構成員は、尋問しても何もしゃべらないのが基本である。つまり、ヘンリー一族との取引現場で捕まえた取引相手三人が黙秘し続けているということは、<知識の蛇>だと主張しているのと同じだ。

 ベルタ局長は<知識の蛇>との付き合いも長いし、その手口も熟知しているし、旧世界管理局職員のオレも、蛇の手口は割と知っている。


「長い話になったが、ベルタ局長は自分が説明するのがめんどくさくなって、オレに相談しろと投げて来たのだと思う。確かに遺物関係のことはオレが話した方がいいが、<知識の蛇>の手口については警備局と警備局長の方が詳しい。アレクも特務班長だったし、<知識の蛇>についてはある程度知っていただろ?」


「はい。ですが、結構歴史と背景が深いですね。それから、旧世界管理局が警戒する<天使>関係の特級危険物を所有している可能性が高いわけですか」


「そうだな。それで、相談される前に答えるが、<天使の歌声>を持っていた仮面の不審者が<知識の蛇>かどうかについては、オレも姉御も違うと思っている」


「……そうなのですか?」


「仮面の不審者はアレクと無駄な話をしていただろ。<知識の蛇>は基本的に喋らない。何故かと言えば、蛇には発声器官が無いから、<知識の蛇>としての任務中は声を出さないものという妙な拘りがあるらしい。オレと姉御は遺物絡みで<知識の蛇>と接触したことがあるが、リーダーっぽい奴以外はずっと無言だった。

 旧世界管理局にも<知識の蛇>と接触した案件や事件の記録があるが、迷信というわけでもないが、任務を無事に遂行するためには、喋らないのが成功の秘訣という指導を受けているようでもある。捕まった場合にいらんこと喋らせないための指導かもしれないけどな。

 あの仮面の不審者がリーダー的な役であるなら、その限りではないかもしれないが、<知識の蛇>の幹部特有の狂った感じが無かったから、あれは、<知識の蛇>とは異なる別口かもしれないと想定している。

 その方が、厄介だけどな。<知識の蛇>以外の組織も<天使>系の特級危険物を所有している可能性があるということだし」


「……なるほど。あの男の行方はつかめていませんし、引き続き警戒し続ける必要がありますね。あなたは特に気を付けてください」


「分かっているから、女装は二度としない。それで解決だ」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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