14 ヘンリーの誤算
果樹園に戻ったところで、まずはアレクの話を聞いてしまうことにした。さすがに大ラウンジで事件の話をするものではない。
警備局製の防音装置を作動させて、遺物展示交換会に関わる事件の追加情報を聞いたが、ヘンリーが警備局長の猛攻に降参して、色々と白状したそうだ。
証拠で追い詰めたのか物理で追い詰めたのか、危険な領域は聞きたくないが、セクサロイド型のパーツの取引の流れが大体分かった。
ヘンリーの取引相手として捕まった三人は黙秘したままだが、ヘンリーもどこの誰とは知らないらしい。
ヘンリーの供述すべてを信じるわけにもいかないが、ヘンリー曰く、突然謎の相手から特別な薬の製法の一部が送りつけられたそうだ。
加えて、ヘンリーが禁制品で盗品でもあるセクサロイドを隠し持っていることを知っていることと、パーツにばらして渡せば、特別な薬の製法の残りの部分を提供するとする手紙も。
断ったら警備局に通報されると警戒したのか、表に出せないセクサロイド型人工物より特別な薬の製法の方が魅力的だったのか、脅される立場に回ったヘンリーは、取引に応じることにした。
だがそこは悪い方向にさすがなヘンリー。自分はあくまでも捕縛の対象にならないよう、取引相手に指定されたセクサロイド型のパーツ以外は人形師のパリラに融通することで、禁制品にして盗品のセクサロイド型人工物はパリラが所有していたように偽装工作するつもりだったそうだ。
パリラには猿型人形50体を製作する対価としてセクサロイド型の部品を提示しておきながら、パリラを自分の身代わりにも使おうと考えるあたり、本当に悪辣だ。
ただ、ヘンリーもパリラの狂気は見誤っていたようで、警備局長が邪魔だとパリラを煽ったが、祝花祭が始まってすぐに襲いかかるとは思っていなかった。
ヘンリーの知らぬところでポーラ女史とパリラが勘違いの果てに嫌がらせを仕掛け、相手にされないことでパリラが逆上していたからであり、勘違いに気づいたポーラ女史の手引きによって警備局長襲撃の場が整えられてそうなったわけなので、ヘンリーが想定できなくても仕方ない。
パリラが捕縛されて家が捜索され、発見されたパリラの狂気の妄想日記に、パリラだけでなくヘンリーの犯罪の証拠になりそうなこともみっちりと書き込まれていたことも想定外だっただろう。
ヘンリーはパリラが捕縛されたことに動揺したが、ヘンリーを脅迫してきた相手との取引を中止することもできないので、セクサロイド型のパーツを子どもたちに持たせて送り出したが、また別の想定外も発生した。
基本的に引きこもりの旧世界管理局職員が、取引現場である遺物展示交換会の会場周辺に来ていて、セクサロイド型を感知して大捕り物が始まったのだ。
さすがのヘンリーも、馬鹿たちがオレの女装を見るために集結することなど、考えもしなかっただろう。
オレも考えたくなかった。
ヘンリーと取引相手があえて遺物展示交換会の会場周辺で取引することにしたのは、双方にとって都合が良かったからだ。
取引相手は遺物であるセクサロイド型のパーツを旧世界管理局に感知される可能性も想定して、あえて、遺物の反応が感知されても紛れるだろう、遺物展示交換会会場周辺を指定してきたそうだ。
ヘンリーも、遺物展示交換会で発明家と取引して大猿に隠された治療局の機密情報を入手したり、それをもって治療局長に圧力をかけたり、ヒミコを口説いたり、娘のためにティアラを手に入れたりと、遺物展示交換会での用事が多かったので、両者納得の上で決まった。
セクサロイド型が大好物という駄目な性癖の姉御と、子守役としての使命に燃えるワトスンがいなかったら、滞りなく取引は成立していたかもしれない。
何よりも、オレを女装させなかったら、少なくとも姉御と旧世界管理局職員は現場に来なかっただろうにと、物悲しい気分になった。
オレが女装した甲斐があったとは、言いたくない。
ヘンリーはオレが女装したことも、オレの女装がヘンリーたちの計画を大きく狂わせたことも当然知らないので、アレク捜査官にしてやられたのだと思って恨み言を散々喚いたらしい。
その方がヘンリーがうっかりいらんことを喋って尋問が捗ると見た警備局長命令で、アレク捜査官はずっと警備局長直々のヘンリーの尋問に立ち会っていた。
警備局長とアレク捜査官の尽力により、ヘンリーからは情報を搾り取れる限り搾り取ったので、後のことは他の捜査官に任せて、二人揃って休暇に突入したそうだ。
「局長も私も連続勤務が続いていましたし、世界管理局から休暇を取るよう何度も通告がありました。局長も休暇の予定を決めていましたので、それまでにヘンリーの尋問を終わらせてしまおうと、容赦なくヘンリーを追い込みましたよ。なので、局長も私も、これ以上事件はいりません。デルシーでは休暇を楽しみます。旧世界的フラグとやらは海に沈めてください」
「分かったから圧力かけるな。だが、発生してしまった事件については、いくつか確認したいが、聞いていいか?」
「はい。潜入捜査にお付き合いいただいたわけですし、局長があなたに相談した方がいいと言っていた件もありますので、答えられることであればお話します」
「ヘンリーの取引相手が提示した、特別な薬の製法について聞きたい」
思った通り、言いたくないという顔をしたが、やはり、あえて回避しようとしたな?
紳士の鑑なのかもしれないが、職務と思って割り切って欲しい。ジェフ博士もそういう類の情報はオレに隠そうとするし、アレクもそこは頑固だよな。
「オレは色々と知っている側だし、未分化型とはいえ、捜査官に変な配慮をする方がおかしい。治療局長はヘンリーに脅されて、治療局が保有する薬と素材を要求されたという報告書は先に見せてもらっているが、それは、ヘンリーが受け取った特別な薬の製法とやらに記載されている材料だったりしないか?」
「……優秀な先輩捜査官であるあなたを誤魔化すつもりはありませんでした。ただ、言いたくなかっただけです」
「同じことだろ。その件に関しては、ベルタ警備局長を見習え。放置しておくと危険な面倒事の類だし、その製法に関しては即座に確保して隔離しておいた方がいい。当然、ベルタ局長が手配済みだと思うが」
「はい。ヘンリーを尋問して隠し場所も白状させて、私が急行して証拠品を確保して来ました。それを見ただけで、局長はヘンリーの取引相手が誰かなのか推測が固まったようですが、あなたもですか?」
「そうだな。捕まった三人の取引相手は黙秘したままなんだろ?その反応だけで推定できてしまうとも言うが、特別な薬が何か分かったら、確定できる。その薬の名は<色欲>、取引相手は<知識の蛇>だと」
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