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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第四章 蛇と黒猫
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13 釣り


 果樹園から海の方へ少し行った先の現場に到着して、安堵した。


「急がせて悪かったな。単なる観測フラッグで良かった」


「フラグ?……海に沈めましょう」


「海に沈めるのは間違っていないんだが、旧世界的事件フラグとは別物だ。これはデルシー海洋遺跡の拡張設備のようのようなもので、本来海中に沈めて、周辺の海中環境の情報収集をしている。海底に固定しているが、ときどきドルフィーがぶつかるか、引っかかって外れて浮かんでくることがある。

 オレがご案内に出て、ドルフィーがたくさん来たから、引っかけたんだろ。ここらへん一帯は岩場になっているから、浮かんだところでさらに岩に引っかかって、ついでに警備網にも引っかかった。

 あそこの塀が途切れていて何も無いように見えるあたりから、透明な網状の防衛壁が展開されている。遺物の反応も感知するから、遺物の一部である観測フラッグが引っかかると、支配人室に連絡が入る。

 予期せぬ遺物反応があると確認しないとならない。デルシー海洋遺跡が破損してということもあり得るからな。その場合は緊急事態対応に動かなければならない」


「つまり緊急事態でも事件でもないと確認された、ということでいいですか?」


「そうだ。付き合わせて悪かったな。本来であれば、職員が警備局を連れて確認に来る話だが、支配人は現場に一番近い位置にオレたちがいるので連絡して来たんだ。念のために言っておくが、支配人が客の動向を監視してるわけではない。監視されているのはオレだけだ。デルシー内にいる限り、オレには支配人の目が届くらしい」


「なるほど……支配人はあなたの日程を完璧に握っているわけですね」


「オレの身柄がデルソレに抑えられたら困るとか言っていたからな」


「どういうことですか?」


「オレがいるとドルフィーがついてくるので、デルソレにドルフィーを呼び込むためには、オレを連れていけばいいという話だ。考え過ぎにも程がある」


「いえ、あなたは危機感を持った方がいいと思います。私が想定している以上に、あなたはドルフィーに人気なのですね?」


「遺跡をご案内したときに判断してくれ。それから人気なのはオレでなくワトスンだ。子守猫の方」


 監視猫がにゃあと鳴いたが、デルシーにいると監視猫は割と大人しい。旧世界の猫は水が嫌いらしいが、その設定も遵守しているのだろうか。

 逆に子守猫は忙しい。オレが呼ばない限り、腕輪から立体映像を構成したりはしないが、文字通りの水面下でドルフィー相手に、にゃあにゃあ言っているようだ。


 観測フラッグのことを支配人に報告したら、後の処理は専属職員がすると連絡が来たので、果樹園に戻りつつ釣りのご案内もしておいた。


「デルシー周辺海域では自由に釣りもできる。さっきの岩場は結構釣れるらしい。釣りをしたいなら、受付に言えば釣竿を出してくれるぞ」


 自然の食材、特に動物を採取するときの規制は厳しいが、釣りに関しては制限がかなり緩い。

 自然環境から大量に搾取する網漁は基本的に禁じられているが、個人が手か釣り竿で魚を採取するのは、自然動物が魚を採取するのと同じ、生物として自然な活動の範疇だと解釈されている。


 自然環境への影響を最小限にとどめるため、自由に釣りを楽しんでいい地域は限定されているが、デルシー海洋遺跡の周辺海域の魚が豊富なのもあって、デルソレ周辺も含むこの一帯では、自由に釣りが楽しめる。


 デルシーの宿泊客の中には、魚釣りをしたくて来る人もいるし、大量に釣れたら厨房に持ち込まれて食事として提供される。

 魚を釣ること自体が楽しいそうだが、食べきれないくらいに釣って廃棄することは、自然環境から魚を搾取した挙句に虐待した行為とみなされるので、食材として提供できる先があるデルシーで釣るそうだ。


 自然環境から採取して殺すことになる以上、この世界で生きるための糧として食事として摂取することが当然の礼儀とされている。


 旧世界ではその当然の礼儀すら無かったらしく、ただ殺すためだけに自然の動物を追って狩った事例もある。今の世界でも、陸上の動物を狩って食事にしていたが、旧世界人のように、ただ殺すことを楽しむために動物を虐殺した危険な殺戮者もいた。

 ある地域が動物の死体と血に染まるというあまりにも衝撃的な事件を起こしたせいで、個人が陸上の動物を狩ることに厳しい規制がかけられることになって、基本的には生産局の本職以外は許可されない。


 現在は食事も食材も世界管理機構から提供されるようになっているが、本来的には人も自然環境から食材を採取して生きていたわけなので、生存のための糧を得ることを楽しむ狩猟本能があるとも言われている。

 個人差はあるだろうが、オレもオランジェ採取は結構好きだし、釣りを楽しむ人が多いのはそのせいだろう。陸上での狩は規制が厳しいから、なおさら釣りの人気が高いのかもしれない。


「あなたも釣りをするのですか?」


「オレはあまりしない。監視猫は水際が嫌らしく、今みたいにオレの首に巻きついて苦しいからな」


「そういえば、監視猫のワトスンが大人しいですよね。いつもはもっとあなたにじゃれついているのに」


「旧世界の猫は水が苦手らしいぞ。その設定を忠実に再現しているのかもしれない。だからデルシーにいるとこんな感じだ。デルシー周辺の魚は美味しいから、釣りたいとは思うんだが。まあ、オレが頑張らなくても、ジェフ博士も釣りが上手いし、マークはものすごく上手いから、ララのために釣った魚を分けてくれると思う」


「分かりました。釣ります。マークはララに魚を差し上げた方がいいです」


「いや、不毛な関係は止めてやれよ……」


 ララはマークのことは友達だと思っているので、マークが魚を渡したら喜んで貰うけどな。ただ、ララはまっとうな性癖のドルフィーなので、種族の壁を超えるという発想自体が無い。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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