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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第四章 蛇と黒猫
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12 果樹園


 宿泊施設デルシーは陸と海に渡って建てられてるし、陸側にも入口があるし、庭園もある。

 だが、デルシーに来る客は意識が海とか海中に向いてしまうので、陸側の庭園を見に来る人はほとんどいないし、それをいいことに一角は果樹園にしていたりする。


 施設案内にも乗せていないので、果樹園の存在を知っている職員くらいしか来ないが、ローゼスに探検だと引き摺られてきて発見して以来、オレは結構利用している。

 オランジェという金色の果実は、濃厚な甘さと酸味のバランスが良くて、とても美味しい。


「ということで、果実を絞ってジュースとして飲んでもいいし、カクテルにしてもいい。厨房に差し入れればデザート作ってくれるし、サラダやソースにも使うらしいな。日々の楽しみに追加されるので頑張って採取してくれ」


 失恋男たちの恨みがましい視線から逃れるべく支配人の指令に飛びついたわけだが、優秀な捜査官が逃がしてくれるはずもなく、アレクがついて来た。ついでに同士を見つけたらしいマークも。

 幸いにもミヤリとリマも付いてきてくれたので、オレが一人で相手をせずに済んで助かった。


 うやむやにすべく、庭園の案内をしながら果樹園のことやオランジェの採取方法のことまで喋ったので、後は働かせて、いらんことを忘れさせよう。

 オレがお手本を見せたら、手際よく採取し始めてくれたので、オレは持ってきた果実絞り器でジュースを作ることにした。人数分のグラスに用意できたところで作業中の人たちに声をかけた。


「それくらいでいいぞ。無理してたくさん採取する必要もないから、絞りたてジュースをどうぞ」


 今回の果実はいい出来だったのか、濃厚ですごく美味かった。

 

 生産局でもオランジェの果実栽培をしているし、食材として要求すれば配送されるが、デルシーのオランジェほど美味しくはない。

 おそらく、ここのオランジェは自然栽培に近いものだからだろう。環境に影響を与えないようにしつつ食材の安定供給を目指すと、どうしても画一的な栽培方法になってしまうし、味も平均的なものになってしまうらしい。

 

 自然環境に自生している食材の方が美味しいというのは常識であるが、自然環境破壊を防ぐためにも、自然に自生している食材を大量に採取するのは、生産局の専門職が配慮して調整しつつに限られているので、滅多に入手できない。

 特に自然の動物の肉類に関しては規制がかなり厳しいので、生産局から提供される肉類の大半は、植物系素材から人工的に合成された合成食材である。


 旧世界では、多くの動物を狭い環境で無理やり食事を与えて肥育した家畜というものを食材にしていたようだが、動物虐待と自然環境破壊と生命への尊重の精神が皆無の、残虐極まりない振る舞いと考えられている。

 不自然な方法で得た動物の肉を摂取することは、世界と交流することではなく、世界との交流を拒絶することであると解釈された。だから旧世界人は、自然環境から、世界に生きる人以外のすべての生命から拒絶されて、破滅するしかなかったのだと。


 旧世界には数えきれないくらい多くの崩壊要因があって、それは食事ですら例外ではない。それでも旧世界の多彩な料理のレシピは魅力的だ。

 旧世界の肉や魚を使ったレシピも数多くあり、生産局は要望に応えて、自然動物の肉や魚類の触感や味に近づけた合成食材を開発して提供することになったわけだが、自然なものに比べて味は落ちるのは仕方がない。


「うわ、これおいし、いつも飲んでるオランジェジュースと全然違う、すごい」


「自然の食材の方が美味しいのは知っていましたが、ここまで違うんですね。美味しい」


「採れたてをその場で絞るからなおさらだと思う。生のものは採取してから劣化が始まるからな。だからほどほどに採って、早めに食べ切ってしまう方がいい。食べきれないときは、厨房に持って行けば食事に回してくれるから無駄にならない」


 オランジェは籠に山盛りになった。無心に採取していたおかげか、穏やかな顔になったマークが、ジュースを飲みながら言った。


「俺はきっと、このジュースの味を失恋の味として思い出すよ」


「こんなに美味しいのにもったいない!違うので思い出しなよ」


「そもそも思い出さない方がいいわ。それに、ララの幸せを祝福してあげる方が、立派な態度だと思うわ。結婚のお祝いに、魚をあげたらいいじゃない」


「魚……?そうか、そうだよな。俺は間違っていた、ララが幸せなのが一番だ。お祝いに魚をあげて、俺に振り向いて貰えばいいんだな!?」


「え、それ、何か違う」


「いいのよ、リマ。前向きになったし、ドルフィーに魚あげるところを見られるかもしれないわ」


 ミヤリの本音はともかく、マークは前向きになったが、間違った方向に突っ走っていきそうな予感しかしない。落ち込んでいるよりいいが。

 前向きになったついでに、オランジェを厨房に運んで食事に使ってもらうよう、三人に差し入れ任務を言い渡した。ミヤリはそろそろ、厨房の手伝いの職務に行く予定だしな。


 オレはカクテル用のオランジェを採取してから戻ることにして三人を送り出してから、ずっと黙ってオランジェジュースを飲んでいたアレクに向き直った。

 恨みがましい顔はしていないが、何か言いたいことがあるようだ。圧力が怖いので、回避するより聞いておいた方がいい。


「それで、アレクもそのジュースを失恋の味として思い出すつもりか?」


「思い出しませんよ。私は失恋する気がありませんから」


 すごい自信だな!


 前向きでいいと思うが、何故か雰囲気が怖い。

 黙ってはいたが、オレたちの話もしっかり聞いていたようで、カクテル用のオランジェを手早く採取してくれつつ言った。


「ところで、私のために時間を取ってくれたということでいいですか?」


「報告か任務か、話があるんだろ?オランジェジュースを飲みながら、何か言いたいことがありそうな顔をしていたが」


「言いたいことはたくさんあるのですが、計画的に進めないと無理だと理解したので、計画を立てるのに忙しかっただけです。マークのことはリマとミヤリに任せておいた方が上手く行きそうだと思いましたし」


「上手く行きそうだが、間違った方向に行きそうでもあるんだが。人生の先輩として、マークが不毛な関係に走るのは止めてやれよ」


「嫌です。未分化だった初恋相手が男になったからといって、諦める理由にはならないと思います」


「それ以前に種族の壁を考えてくれ」


「それは……確かにドルフィー・ハーレムは困りますが」


「男の夢なんだろうか、ハーレムって。まさかマークがそんな野望を持っていたとはな。ドルフィーは番一筋で浮気しないから、思い直して欲しいんだが」


「私もドルフィーと同じですよ。浮気しませんし、番を諦めません。だから」


 腕輪に支配人からの連絡が来た。


「悪い、待ってくれ。緊急任務というほどでもないが、確認に行きたい。この塀沿いの海との境界部分に遺物反応があるらしい」


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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