11 破れた初恋
今度はジェフ博士が他の客のカクテルも注文しに来たので、カクテルを大量生産してアレクに運んでもらっているうちに、不穏なフラグは海に沈んで行ったことを願いたい。
ひと段落したので、休憩しようとアレクにカクテルの注文を聞いたら、さっきと同じでいいらしい。同じものを二つ作って、オレも休憩することにした。
「悪いな、客に手伝わせて」
「あなたも今は客だと思いますが、この期間中に宿泊する客は、お手伝いくらいするものだとお聞きしました。ドルフィーのためだそうですね?」
「そういうことにしておくと、この期間中に宿泊する客は快く納得してくれる。ドルフィーとオレのことを聞いたか?」
「ジェフ博士から、あなたはドルフィーに大人気だと聞きました。ワトスンが呼んでくれるとか」
「オレがいるとドルフィーに確実に会えるそうなので、ここの支配人は限界までオレに遺跡案内させるべく、オレの休暇日程を全部握っている。せっかくだから、個人的に博士ご一行様を案内してもいいんだが、支配人に日程調整してもらう必要があるので、アレクたちの予定を教えてくれ」
「それは光栄ですが、あなたはずいぶんと日程が縛られているのですね」
「ドルフィーを楽しみにしてくる小さい客と大きい客がいるから、そこは仕方ないと割り切っている。オレが案内した後の回でオレ以外が案内しても、ドルフィーはまだ近くにいたり、遺跡の周囲で遊んでいるので、ドルフィー遭遇率が高い状況がしばらく続くらしい。個人的に案内に入った場合でもその効果が見込めるので、支配人が上手く調整して、多くの客がドルフィーを見れるように采配するんだ」
「なるほど、ユレスは配慮しているんですね。ところで、このカクテル、お替りいただけますか?」
「別のもの作ってもいいが?」
「いえ、これがいいです」
気に入ったのだろうか。
アレクにカクテルを作った後、今度はポーラ女史がカクテルを注文しに来たのを大量生産していたら、私服に着替えた新人二人とマークが来た。
リマは班長がいることに驚いていたが、マリア・ディーバもいるので、すぐに納得したようだ。
特務課だし、姉弟だと知っていたのだろうな。ミヤリもそつなく挨拶したが、二人の関心は警備局の英雄様よりマークにあった。
オレはマークの好きな味でカクテルを3つ作って差し出した。話は同年の二人に聞いて貰え。
アレクのグラスがいつの間にか空になっていたので、また同じものを作って渡したら、声を潜めて聞かれた。
「彼はどうしたんですか?」
「初恋のドルフィーが、嫁連れて挨拶しに来たので、失恋の痛手に泣いている」
「そうですか……。?初恋相手が嫁連れて来たんですか?」
マークは長身で爽やか好青年といった容貌で、見るからに男だから、初恋相手が嫁連れて来たと聞いて疑問に思うのは分かる。だが、それ以前に相手がドルフィーだということに突っ込んで欲しい。
マークを慰めている新人二人も、オレたちの話も聞いているようなので、解説しておくことにした。
「ドルフィーは割と人に近い体と生態で、子どもの頃は性別が確定してないし、分かりづらい。マークが成熟期に入って数年の頃合いに、子どもドルフィーのララと出会って、小さくて可愛いと一目惚れした。なお、ドルフィーは10年くらいで成体になって性別確定して、番という、人で言うところの結婚相手を見つける。
マークは男として成長していったが、ララも男として成長して嫁を見つけたわけだ。マークもララを見習って人の嫁を探せ」
「そんな!ユレスさんなら分かってくれると思ったのに!あれだけドルフィーを侍らせてるから、ドルフィー・ハーレムを目指しているのだと思って尊敬しているのに!ユレスさんは俺の目標なんです!」
思わぬマークの本心を聞いてしまったが、ハーレム王ヘンリーを思い出してしまった。オレはまさか、あれと同一視されていたのだろうか。
「マーク、ハーレム王を目指すなら、まずは色事」
「何を言い出しているんですか、あなたは。こういう場で、そういう話はやめてください」
「なら、アレクが話を聞いてやれ。成人したばかりの三人より、人生経験も恋愛経験も豊富だろ。マークに初恋に破れた痛手の癒し方を講義してやってくれ」
「……それ、私も初恋に破れた前提が必要だと思いますが?」
「?恋人も結婚相手もいないとか言っていなかったか?つまり初恋にも破れているということだろ。大丈夫だ、旧世界的格言でも、初恋は叶わないと言うからな」
「ユレスさん、それ、マークにも班長にも追い討ちですって!実は、さっきマークはミヤちゃんにも同じこと言われていて!」
「ユレスさんも言ったとおり、旧世界的格言だし、今でも十分に通用する名言が多いと思うわ。先輩の分析によれば、初恋は割とうっかりしがちだし、経験値も浅い頃のことだから、空回って上手く行かないからだろうということね。子どもの頃に初恋をするより、成人して人生経験を積んだ後に初恋した方が、まだ成功率が上がるかもしれないわね」
冷静だな、ミヤリ。
うっかり子どもの頃に初恋して空回ったマークは、カウンターに突っ伏した。アレクはさっきから片手で顔を隠しているので、思い当たることでもあるのだろうか。
いつの間にかグラスが空だったので、お替りを作ってアレクに差し出して言っておいた。
「悪い、追い討ちをかけるつもりは無かった。その……支配人から聞いたが、デルソレでは客も職員も積極的に交流してくれるらしいから、マークと一緒に行って、破れた初恋を忘れられる相手を探してはどうだろうか?」
「さらに追い討ちをかけないでください。絶対に嫌です。そう簡単に諦められないのが初恋です」
「!そうです、そうですよね!アレクさん!」
マークとアレクは正式に紹介し合ったわけではないが、唐突に仲良くなって、オレに恨みがましい視線を向けてきたが、ちょうど支配人が来たので助かった。
本当にデルシー内では目が届くというか、オレの動向を監視しているのかもしれない。平和な休暇にしてくれるなら、いいことにするが。
支配人は大ラウンジのお客様方にご挨拶しに来たようだが、まずはカウンターのオレのとこに来て、いつジェフ博士たちをご案内するのか、まだ決まっていないなら采配は任せろと言ってきた。
オレの窮地を救いに来たのではなくそっちが目的なのは分かったが、どうせその日程はすでに組んであるのだろうし、オレは謹んで支配人にお任せするだけだ。
支配人は博士たちの元へ向かう前に、助けの手なのか、果樹園のオランジェが食べごろですよと言い残していった。
オレへの次の指令と解釈して、任務に赴くことにする。
失恋の痛手を受けた男たちは、追い討ちをかけるオレよりも、人生経験高そうな他の客に話を聞いて貰うといい。
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