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遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第四章 蛇と黒猫
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9 ドルフィーのララ


 職務熱心だと褒められることがほとんどないオレであるが、宿泊施設デルシーの営業再開前には、さすがに真剣な顔で職務用の装備を点検した。


 休業後の再開のときは、客用の扉から入って来る客を職員が勢ぞろいして出迎えることになっている。

 すでに玄関ホールに集合して待機中であるが、デルシーの専属職員はともかく、新人たちはオレの用意したものを見て混乱した顔をした。


 惑わせて悪いが、これは必要な品だ。


 ミヤリとリマの新人コンビはオレ担当にされたのか、旧世界管理局と警備局の垣根を超えて一緒にやってきて、おそるおそる質問してきた。


「あの、ユレスさん、それ、何ですか?犯人捕縛用の網に似てますけど、まさかそういう事件の気配でも?」


「警備局職員として警戒を欠かさない姿勢は立派だが、そういうのがいたら、客用扉をくぐる前に宿泊受付室で排除される。宿泊施設デルシーは旧世界遺跡への入場用の施設でもあるし、危険人物を入れるわけにはいかないからな。だが、捕縛用の網だと見抜いたのは評価する。柔らかく作ってあるし、弾力性にも富んだ特注の網だ。

 いいか、客の歓迎のために集合したのに、こんなものが必要な事態を想定したくないのは分かるが、常にあらゆる事態を想定して行動しろ。それが互いの怪我を防ぐことに繋がるからな。今回は、ここの専属職員に見本を見せて貰え。緊急事態発生までは網は後ろ手に隠して持っておくんだ」


 転送装置が起動して、客が到着し始めたと通知があったので整列したが、オレの両脇は熟練の専属職員で固めてある。


 宿泊受付室から、受付完了した最初の客が扉に行ったと通知がきたので、身構えた。


 そして、客用の扉が開いて、職員全員で、ようこそ、デルシーへと挨拶した瞬間に、来た。

 オレの両隣りの職員が素早く前に出つつ網の両端を持って展開したが、想定以上に多いな、子どもが。


「ドルフィーのおにーさーん!!」


 走るな、押しかけるなと宿泊受付室で注意されたんじゃないのか!?

 無事に網に受け止められたというより、網にかかった状態の子どもたちを前に早速仕切るしかない。


「ようこそ、小さいお客様方。いいですか、ドルフィーは紳士淑女でないと怖がって出て来てくれないかもしれませんので、お行儀よくお願いします。ドルフィーを走って追いかけても追いつけずに逃げられるだけですよ。

 まずは宿泊室で身だしなみを整えましょう。私がご案内する初回は、一時刻後にあちらのドルフィー像の前から出発しますので、参加者は遅れずに集合してください。ただし、予定より早く集合する必要はありません」


 と言っても聞かないんだよな、こいつら。


 ドルフィー像の前では、ドルフィーたちの映像記録を流しているが、誰一人として宿泊室に行かず、ドルフィー見学会待合所という別名で呼ばれていたりもする待機場所で、映像見たり、ドルフィーの置物撫でたり、オレにまとわりついて待機している。


 そこには、大きい子どもというか、れっきとした成人も混ざっている。

 網はデルシー専属職員の指導を受けたミヤリとリマで持っていて、網の向う側のリック博士がオレに話しかけてきてオレが適当にあしらってるのを困った顔で見ているので、一応解説しておいた。


「雑談禁止とはいえ、お客様が職務に関係のない話をしてくることを禁じているだけで、会話をしてはいけないということではありません。施設の説明や遺跡ご案内の内容については逆に話さねばならないことですので、職務に関わる話でしたら、問題ありません」


「そうじゃい、つまりドルフィーの話をしてれば、うるさいこと言われずに会話できるわけだから、お嬢さん方もどうかね?そういや、うちの助手のマークも成人したばっかなんだが、もしかしてお嬢さんたちと同年かい?」


「リック博士、職務に関係のない話は職務外の時にお願いします。……という区別をつければいいわけです。なお、職務に多少関係するのでリック博士と助手のマークのことについて私から説明しますが、リック博士は世界研究局自然環境課所属の博士で、専門は知能の高い生物の研究、つまりドルフィー研究家です。

 マークはその養子であり、成人する前から助手をしてきましたので、ドルフィーに大変詳しいです。デルシー海洋遺跡ご案内の際に、知識や経験をお借りすることもありますので、お二人のことは覚えておきましょう。

 それでは皆様、少々早いですが、参加者全員揃いましたので、これから遺跡ご案内に出発します」


 支配人がもう行っていいと合図して来たので、客用扉が開いてから半時刻も経っていないが、ご案内に出発した。割とこうなりやすいので、ご案内初回に参加している連中、つまり常連中の常連は即座にここで待機に入ったわけだけどな。 

 網持ち担当は熟練職員に交代したが、通常のご案内に網は必要ないので、新人二人は網持ち技能を習得しようと頑張らなくてもいい。


 オレを先頭にデルシー海洋遺跡に続く海中通路に入って、少しも行かないうちに、ドルフィーが挨拶に来た。

 ありがたいと思うし、歓迎してくれているのはわかるんだが、もう少し素っ気ない態度を取ってくれた方が、オレが楽だと思う。


 小さいお客様たちだけでなく、リック博士を筆頭にしたドルフィー大好きな大きいお客様たちも歓声をあげて通路の透明な壁に張り付いた。


 移動が滞る場合も網が活躍する。オレはさっさと先に進んで誘導しつつ、後ろから網で押しやる作戦だ。

 ドルフィーは基本的にオレについて来るので自然に流れる。網が必要なあたりは自然では無いが。


 遺跡に入る前には、絶対にオレから離れるなと念押しするし、それは他の職員がご案内しているときも同じ規定文である。

 だが支配人は、オレ限定で言わなくとも追い払っても客はオレから離れないとか言うが、確かにそうかもしれない。


 遺跡内部の広々とした展望室で休憩中であっても、全員オレの近くに集合するしな。こういう場所だと走り回りたくなるはずの子どもですら、こっちに固まるので、人口密度が高すぎる。

 外のドルフィーも密度が高いが、見知ったドルフィーが珍しく離れた位置にいた。オレがそっちに移動したら客もぞろぞろついてきたが、マークが声を上げた。


「ララ!」


「いつもなら真っ先に来るのに、どうしたんかと思っていたら、ん?連れがおるのか。んんん?もしや番かね」


「ワトスン」


 相棒を呼び出したら、ララと連れを見てにゃあと鳴いた。ララたちの方も挨拶して寄り添ったからそうらしい。


「こちらのドルフィーはデルシーでも馴染みの深い、ララという名で呼ばれている個体ですが、結婚相手を見つけて紹介しに来てくれたようです。祝福してあげてください」


 わーと歓声があがったものの、それがドルフィー的に祝福と受け止められるかどうか悩ましいが、善意と悪意は結構敏感に感知するので、お祝いされているというのは分かったらしい。

 ララが嬉し気にくるくる回ったり、芸みたいのを見せてくれたので大いに盛り上がった。


 時間ぎりぎりまで粘られるのはいつものことで、追い立てるように海中通路を抜けて宿泊施設に戻った後で、またわーわー盛り上がり始めたが、いい話だとは思う。打ちひしがれる一人を除いて。


「マーク、めでたいことじゃろが、ララを祝福してやるんだ」


「リック博士には分からないですよ!俺が、俺が、どんな気持ちで……!」


 ミヤリとリマの新人二人が困惑しているので、教えておいた。


「マークの初恋相手はさっきのララなんだが、ララは雄、えーと男なんだ。マークはそれでも諦めないとか言っていたが、ララが嫁を連れて来たので、ああいう状態」


「えっと、何というか、色々複雑なというか、うん、マークってああいう子だったんだ。あたし、職務外のときに話しかけてみようかな。ドルフィーの話聞きたいし」


「そうね。何をどう慰めていいのか悩ましいけど、話を聞くくらいはしてあげた方がいいわね」


 後は若い者同士で頑張ってくれ。


 支配人がオレは撤収しろと合図してきたのでそっちに行ったら、支配人室に連れ込まれて、勤務終了登録をさせられた。

 限界ぎりぎりまでオレに仕事をさせるために、ご案内以外の仕事はもちろん、ご案内任務であっても余剰時間があれば限界まで切り詰める作戦らしい。


「半時刻くらい誤差だと思うんだが」


「それが4回積み重なれば、1回くらいご案内が増やせますからな。それでは、ユレスは今から休暇となりますが、くれぐれも大ラウンジのカウンターに入って勤務なさらないように。どうしてもやりたければ私服で個人活動としてお好きにご利用ください」


 デルシーにいても特にやりたいことが無いオレは、大ラウンジのカクテルカウンターにいることが多い。

 デルシーの宿泊者は、大ラウンジのカウンター内にある酒類を自由に飲んでもいいことになっているので、自分用のカクテルを作ってそのままカクテルカウンターの手伝いをしてしまう流れだが、制服でやると休暇にならないので、やりたいなら私服でやるようにと言われている。


 デルシーにいる間のオレの日程は支配人が握っているので、大ラウンジのカウンターに私服で入れと指令を受けたものと解釈した。

 支配人の発言はときに翻訳する必要があるが、猫やドルフィーよりはるかに解読しやすいのは助かる。


 宿泊している部屋に戻ると、オレ用の私服が用意されていた。


 支配人基準で指導が必要な職員に指導込みで手配しているのかと思っていたときもあるが、ローゼスが言うにはオレ限定の指導らしい。

 成人しているのに未成年にしか見えない見た目を何とか誤魔化して成人っぽく見せてくれる服装なので、支配人のお気遣いと配慮だと思って、デルシーにいる間は、素直に用意された私服を着ることにしている。

 

 着替えて大ラウンジに行ったら、見知った人たちを中心に盛り上がっていたので、さすがに驚いた。


 え?何しに来たんだ?


ここまで読んでくれてありがとうございました。

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