表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遺物管理局捜査官日誌  作者: 黒ノ寝子
第四章 蛇と黒猫
52/373

8 魔性の美少女


 オレの自由行動に制限がかけられる人権問題っぽいやりとりを見ていたにも関わらず、新人二人は何故か安心したと言いたげに頷いていた。


「支配人が見ていてくださるなら安心ですね」


「うん、あたしも、ユレスさんはそうしてくれた方が安心します。デルソレにヒミコが来るなら、事件というか、えーと性犯罪的な何かが起こるかもしれないし、巻き添えになったら大変」


「性犯罪って、何か事件の相談でも受けているのか?」


 ヒミコも成人したばかりと聞いたし、この二人もそうだから、同年どうし何か相談を受けていてもおかしくない。だが、二人揃って首を振った。


「相談は受けてないんですけど、捕まったヘンリーがヒミコを150回目の結婚相手にって言って迫っていたのをあたしも見たことあるし、ヘンリーだけでなく、色んな男があの子を追いかけ回していたのを知っているから。ヒミコはいるだけで騒動起こすこともあるくらいで、あたしたちの間では、魔性の女って評判なんです」


「同年ですので共通の講義を一緒に受けましたが、講師がヒミコにしつこく声をかけたり体に触ったりして講義も進まない上に、ヒミコが泣きだして騒ぎになったこともありました。性犯罪に認定されて、講師は解任になりましたし、私たちも事情聴取を受けることになって面倒でしたね」


「おや、セイレーヌのユキナの娘らしく、男を惑わして引寄せる魔性の美少女と言ったところですか」


 支配人がオレに視線を寄越したが、男でない未分化型のオレは、魔性の美少女を見ても何とも思わなくておかしくないだろ。

 遺物展示交換会で花姫衣裳のヒミコを見たが、確かに美少女だったし、ヘンリーがご執心なのも分かると思ったが。


 ミヤリが少し不愉快そうに言った。


「本人はそんなつもりはないと主張しているのですが、わたしはヒミコに何度か注意をしました。ヒミコは成熟期に入ってからの成長が早く、清楚で綺麗な美少女の顔に似合わないくらいに体の発育が良くて、旧世界的表現で言えばエロいと言いたくなるくらいに、性的魅力にあふれた男心をそそる体つきになりました。それなのに露出が多かったり隙の多い服ばかり好んで着るから襲われるのだと」


「ミヤちゃん、表現選んでよ。昔から旧世界的言い回しに詳しかったけど、それを聞いて男になりつつある人たちが赤面して逃げて行ったじゃない」


「実に分かりやすくも的確な表現だと思いますぞ。セイレーヌのユキナはわざと煽って誘っているように見えましたが、ヒミコは当人にそのつもりが無いとしても、少なくとも外見はかなり似ておられますな。

 ユキナはヒミコを生んだ後、事故死しましたが、その後、今の治療局長にしてヒミコの父親と結婚したのが、元セイレーヌのマキナです。マキナは元セイレーヌの絆で、ユキナの遺したヒミコを立派に育てたという美談が、時事情報放送の花姫の特集で語られましたな?」


 微妙にひっかかる言い方をされたが、オレではなく、ミヤリが応じてくれた。


「ヒミコはマキナさんが好きではないようです。早く家を出たいとよく言っていましたし、それが男を誘っているように聞こえたのか、未成年の頃から結婚の申し込みが多々ありましたね。

 妄想しては騒ぐリリアよりはましでしたが、ヒミコも十分騒動の中心です。はっきりしない曖昧な態度をとるから、男たちに気があると期待をもたせた挙句に強引に迫られることになりますから」


「うーん、あたしはヒミコよりも、分かりやすいリリアの方がましかもって思ったけど、確かにどっちも騒動起こすしめんどくさい。

 あ、ごめんなさい、ユレスさんにとっては、リリアはすごく迷惑な子でしたね。班長がまとめた冤罪事件の報告書を読んで、あたし、リリアならやるって納得しちゃいましたけど、頭おかしいことを堂々とできちゃうのがいいとは言えないですね」


「曖昧な態度よりはましかもしれませんが、どちらも褒められませんな。思わせぶりな態度をとって相手の反応を見たり、誘いをかけるのは当然の駆け引きではありますが、しくじると事態が拗れる原因でもありますので、いっそ誠実な態度を貫く方が賢明です」


「あ、分かる気がします。あたしも、成人ってそういう恋の駆け引きするものなのかなって思ってたけど、警備局の先輩たちって結構さっぱりしてるし、班長、いえ、いまはアレク捜査官ですね、アレク捜査官なんて誠実で紳士の鑑って言われてますもん。あの人が思わせぶりな態度とったら大騒ぎになるから、支配人が言うとおり賢明な対応なんですね」


 アレク捜査官はリマの言う通り誠実な紳士の鑑かもしれないが、思わせぶりな態度を取らなくても大騒ぎになるがために、小さなレディを容赦なく盾に使う男だぞ。


「ヒミコは逆にお馬鹿な対応だと思うわ。私が注意したら、あの服装が気に入ってるし似合うから変えるつもりはないし、個人の自由だから口出さないで欲しいと言われたけど、騒ぎに巻き込まれた私たちに気遣いはないのよね」


「あーうん、自分は被害者だって怯えて泣いているだけで、巻き添えになったあたしたちのことは眼中になかったしね。ミヤちゃんは、今後も巻き添えになると迷惑だからって、注意したのに。あたし、今後も同様の性犯罪的事件は起こり続けるんだろうなって諦め気分になったよ。それでも忠告を追加してあげたミヤちゃんは偉かったと思う」


「おや、どのような忠告を?」


「服装の自由を貫きたいなら、襲ってくる男を返り討ちにできるくらいに防犯対策にも力を入れるよう言いました。聞く耳持ってもらえず、誰かに守ってもらいたいか、守ってもらえるのが当然という態度だったので、言うだけ無駄だったようですけど。

 言わずに終わった最後の忠告は、さっさと結婚してしまいなさい。というものです。さすがに人権問題かもと思いましたので心の中でだけ言いました。そう言えば、ヒミコはアレク捜査官にご執心って聞いたけど、どう思う、リマ?」


 そう言えば、アレク捜査官は遺物展示交換会で治療局長からヒミコを嫁にと言われていたのだったか。

 ヒミコにもその気があったから、アレクに話を持ち掛けていたのだと思うが、アレクにその気は無かったし、リマも首を振った。


「ヒミコに班長はもったいなさすぎるし、高望み過ぎると思う。ほら、ヨーカーン大劇場の占拠事件って班長がかっこよく解決したし、人質になっていた花王選考候補の人たちから、班長に会ってお礼したいって要望が殺到していたけど、全部お断りしていたんだよね。もちろんヒミコのことも。

 ヒミコは特務課のあたしに連絡してきて、場を設定してくれないかって頼み込んできたけど、あたしは研修と訓練で忙しいし、班長も別の事件ですごく忙しいから、そんな余裕ないってお断りしたよ。

 それでも聞いてみてって迫られたけど、あたし、断言してもいいけど、班長はヒミコに興味無いと思う。先輩は、確かに美人だが班長の趣味じゃないって言ってたし」


「つまり、班長の趣味は知られてるのね」


「先輩は、小動物系というか可愛いのが好きに違いないって言ってたけど、本当かどうか分からないよ。班長は微笑んで流したし」


 小動物と言われて、オレの肩の上の黒猫に視線が来た。

 確かにこれは小動物だし、大体の人には可愛いと言われるし、<菩提樹>で会合したときのアレク班長は猫を眺めて和んでいたくらいだから、そういう趣味なのだろうとは思う。


 ミヤリも監視猫を眺めて頷いた。


「猫はとても可愛いと思います」


「そう言えば、ミヤちゃんの監視役は髪飾りみたいな蝶だよね。猫にはできなかったの?」


「相棒のAIはAI-ASが組み込まれた監視役にあまりいい顔をしないわ。動物型の姿をとるAIだと特にそういう傾向が強いみたいで、一番反発しないのが髪飾りに見える蝶のようなものね。それに、私は小型の監視役でいいから」


「オレの相棒は割と危険度が高いと判定されているから、猫くらいに大きくて目立つ監視役を連れて歩かないといけないんだ。大きい分、機能も多く詰め込めるから、旧世界的猫の行動様式で無駄に動き回るようになっている。

 警備局長直々に監視機能を強化するように指導されたんだが、何故か猫の行動も強化されたんだ。知っているかもしれないが、オレは警備局長と個人的な付き合いが長いから、会った時に自分が猫見て楽しむためかもしれないと密かに疑っていたりする」


 オレの肩の上にいる監視猫がそうだと言うように、にゃあと鳴いた。それを眺めつつ、支配人が渋い顔で言った。


「わたくしとしては、何度も申しますとおり、そちらのお付き合いよりデルシーにお越しいただきたく思いますぞ。300年越えの方ばかりでなくお若い方たちとも交流なさい。そういう思惑もあって、今回は新人が多い編成にしたのです」


「オレを反面教師に使うつもりだと思っていた」


「良き教師となっていただきたいものですな」


 怠惰な猫に多くを求めない方が賢明だと思うんだが。


ここまで読んでくれてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ